表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/152

初任務(仮) 5

 そしてその最寄り駅から、支給された地図を頼りに歩くこと1時間。


 俺達はやっとこさ、俺達にルロウゴウケツの退治を依頼してきた村の集落へとたどり着いた。

  

 そこはどんなに多く見積っても人口数百人程度の周りを山と森に囲まれた村であり、まるで半世紀以上タイムスリップしたと錯覚する様なのどかな景色が広がっていた。


 それ故に腹痛の俺ですらゆっくりと散歩でもしながら目的地に向いたい思わされてしまったが、ここに来る過程で迷ってしまったこともあり、時刻は既に昼過ぎになってしまっていた為、俺達は少し急ぎめにこの村の代表の家に向かった。


 そして代表の家の玄関で少し話した後、結局"ここで話すのもなんなので"という事になり、村の公民館的な場所の畳の部屋へと通された。




 「おらはこの地区の代表をしとります吉岡と申します。わざわざ御足労頂き、まっことありがとうごぜーます」


 年齢は50代後半くらいだと思われるこの村の代表、吉岡さんは田舎のテンプレートの様な訛りでそう言うと深々と頭を下げた。


 するとそれにつられて野次馬的な感じで俺達のことを見に来た十数名の村民も同時に頭を下げる。


 「いえいえこちらこそ依頼があってから、私達が派遣されるまで結構な時間お待たせしてしまったようで申し訳ありませんわ」


 「あーそんな、気にせんでください。待たされたと言っても1、2週間くらいのもんですんで」


 俺と吉岡さんはお互いに気を使いながらペコペコと頭を下げ合う。


 それからも社交辞令の様な気の使いあいを数回繰り返していると、そんな状況を見かねてか遼が口を開く。


 「で本題は?確かルロウゴウケツの退治だったよね?」


 「ええ、そうです。別にこちらから危害を加えなければ危険でねーのは知っとるんですがね。やっぱり怖いでしょう?」


 「まあそうだね。そう思うのも無理はないよ。それでそいつは普通に退治しちゃっていいんだよね?」


 「はい、それで、おねげーします。······あー、そうでしたそうでした。役に立つんじゃねぇかっつって、押し入れの奥の方から引っ張りだしたもんがあったんだ。ちょっと待っててください」


 手をパチンと鳴らしそう言うと吉岡さんはゆっくりと立ち上がり、押し入れから古めのスケッチブックを取り出して来て俺達の前で開く。


 「皆さんは資料を持っているかもしれませんが、これがこの辺りに出るルロウゴウケツを絵に記したものになります」


 吉岡さんの出したスケッチブックにはルロウゴウケツの絵と共に大きさや目撃情報が多い場所などの情報が丁寧に書かれていて、それを見ると大きさは2m50cmを超えているようであり、平均的なサイズよりやや大きめである事がわかった。


 「なるほど···。ん?因みにこれはだれがいつ頃描かれたんですか?」


 「描いたのはおらの父親です。時期はたしか30~40年前くらいだったかと、なんか変ですか?」


 「いや、そんなに前から居たのを今になって退治するのかーと思いまして······ああ、いやいや、でもそういう事って結構ありますもんね、体に出来た無害な(しこり)とかを放置しちゃうみたいな。ははは」 


 「え、ええ、まあそんな感じです」


 勝手に1人で納得した俺は恥ずかしさを紛らわす様に笑い、恐らくそんな俺の事を変に思ったのか吉岡さんは僅かに顔を引きつらせるが、その後、俺に合わせて作り笑いの様な笑みを浮かべた。


 それから、ルロウゴウケツが昔からこの地区に居た事から地の利が向こうにあると思われるので気をつけねばならないという事や、奴は基本的に夕方から早朝くらいまでにかけて意味無く動き回るらしいと言う情報が話された。


 「夕方まで時間がありますんで、良かったら昼飯を食ってってください、おーい持ってきてくれ」


 と吉岡さんが野次馬の1人に声をかけると、その人は小走りで公民館の奥に入っていき、数十秒後、大量のおにぎりと数種類の揚げ物が乗った大きな皿を持ってくる。

 

 「どうぞ食べてってください、ここらで取れた米を使って作ったもんです」


 「え、ええ、うっ···」


 その大量の食物を見て、俺は忘れかけていた腹痛の事を思い出し僅かに腹がキリキリと痛む。


 せっかく胃も腸もいい感じに綺麗になったばかりだ。ここで食べ物を入れてまた腹痛がぶり返したら最悪だ。


 「も、申し訳ありません。私はお腹が空いていませんのでちょっと夕方に備えて周りを観察してきますわ。···遼さんは、ぜひご相伴(しょうばん)に預かってください」


 遼の肩に手を置きながら笑いかける俺。


 すると遼は立ち上がろうとする俺の手を掴み耳元で俺にだけ聴こえる様に喋り始める。


 「えっ、ちょっと俺、人が握ったおにぎりとか無理なんだけど、と言うかお前だけ逃げんなよ」


 「いや逃げてねーから、今、腹に物入れたくねーんだよ。てか俺は本来ならそういうの余裕で食えるぞ、現代っ子かお前は」


 俺は小声でそう言い返し、遼の静止を振り切ると、そのまま遼の肩に置いてある手に体重をかけながら立ち上がり出口に向かう。


 「あ、ごめんなさい、私も食欲ないからいらないわ。···暁良ちょっと待ちなさいよ私も行くわ」


 俺に続いて二条院さんも村の人達に断りをいれると、俺を追ってくる。


 そう言えば東雲さんとかの話を聞くに、二条院さんは朝飯も取らなかったっぽいよな。


 心配だ。···だがしかし、理由は恐らく初任務に対する緊張とかだろうから、それについて触れるのはあまり良くないだろう。ここはスルーするのが優しさか···。


 「では二条院さん一緒に行きましょうか」


 「そうね」


 そして俺と二条院さんは公民館に遼と東雲さんを残し、外へ出ると村の周りの森の散策を開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ