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初任務(仮) 4

 「おいやめろ」  


 「なんだ起きてたんだ」   


 隣に座りスカートに向かって伸ばされていた遼の手を掴み、俺は睨みをきかせる。


 全く、さっき痴漢男と同じような事してきやがってこいつは···。


 「いや、トイレでぶっ倒れてるのかと思って見に来たんだよ」


 「はあ···それはどうも、で二条院さんはどうだった?」


 「ああ、話しかけたら普通に返事は返してくるけどって感じだな。まあ普段は二条院さんから話振ったりしてるからな、今日はそれが無いからあんな雰囲気って事だ」


 「そうか···」


 やはり初任務の事を不安に思っているのだろう。


 サポートしてやりたいが今日の俺は自分の事で精一杯な気がする···。

 

 「なあ遼、二条院さんの事は本当に頼むぞ」


 「それか······なあ、はっきり言うがマガツモノが怖かったりトラウマがあったりする子は御子には向いていないと思うぞ。まあ見た感じC~Bランク程度のは大丈夫そうだが、そんなではこの先やっていくのは無理だ。彼女にどんな事情があるかは知らないけど無理なら早めに辞めて普通の女子高生として暮らすのも彼女のためじゃねーか?」


 「なっ···おいそりゃひでぇだろ」


 その言葉を受けて俺は遼の顔を見て言い返すが、遼の表情は至って真面目であり、それを見た俺も少しだけ冷静になる。


 確かに遼の言っている事は間違ってない。むしろ超正しい。


 このままの状態を続けていたら二条院さんはもちろん周りの人まで危険な事になるだろう。


 例えば、その周りの人と言うのが俺や遼ならきっと可愛い女の子を危険から護りながら戦うなんて、むしろ光栄とすら思うかもしれない。


 だが他の人はそうは思わないだろう。


 しかし、しかしだ。


 「頼む、今回だけは協力してくれないか。お前の言っている事はよく分かる。···ただちょっとだけ待って欲しい。この問題は俺が絶対に解決してみせる。だから今回はどうか···」


 そう言って俺は遼に頭を下げる。


 俺には二条院さんの気持ちがとてもよく分かる。

 

 半年前、神具を覚醒させる前の俺にとって、マガツモノという存在の認識はまさに自然災害の様なもので俺たちに出来るのはそれらから身を守るために避難する事くらいであった。


 だが俺は半年前に神具の力を手に入れ、マガツモノと戦う力を得てしまった。


 それから何とか半年の時間をかけて神具の特性と戦い方を覚える事は出来た。がしかし、それまでマガツモノと戦う事など考えもしていなかった俺にとって命をかけて戦う覚悟なんてそう易々と出来るものではなかった。



 だから俺はそれを解決する為にある"卑怯な手"を使ったんだ。



 だが、そんな俺だからこそ二条院さんに何かしてやれる事があるかもしれない。


 そして沈黙の中、数秒が経過する。


 「···まあどちらにせよ俺には二条院さんをサポートしないという選択肢はねーよ。ただ助けられてる事に責任を感じて二条院さんが自分1人で色々と決めてしまうかも知れないからな。···だから早くこれ治せよ」


 遼はそう言うと俺の腹に拳を軽く当てる。


 「ああ、分かってる」


 「ふっ」


 と俺の返事を聞いた遼は満足そうに小さく笑い、そのまま立ち上がると二条院さん達のいる車両へと戻っていく。


 「あと数十分で着くからな。二条院さん達にはお前が居ない事について適当な理由付けて説明しといてやるから、取り敢えずそれまでは1人で休んでおけ」


 そして最後に遼は背を向けたままそう言い残し消えていった。

 

 「おうサンキュー······はあ···」


 既に車両と車両のあいだの扉を開けて向こうの車両に移ろうとしていた遼に最後の俺の言葉が届くかは分からなかったが、俺はせ感謝の言葉をしっかりと言い、その後、深くため息をつく。


 そしてそこから再び目を瞑り、気づくとあっという間に数十分が過ぎてしまう。


 「早いな···」


 そう呟いた俺は目的地のギリギリ有人駅という言葉がしっくりくる位の木々に囲まくれた駅のホームをドアが開いた後も電車内から悠長に眺め、その後、ゆっくりと立ち上がり電車を降りた。

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