初任務(仮) 3
それから俺たち4人は再び集合し、依頼のあった場所へと向かうため九條学園の最寄り駅から電車に乗り込んだ。
そしてしばらく揺られていると、窓から見える景色はだんだんと緑が多くなって行くのが確認できた。
電車内の座席は現在ではそれなりに空いているものの、九條学園の最寄り駅から電車に乗り込んだ当初、混んでいたなごりで俺と遼が隣あって座っていて、そこから少し離れたところに二条院さんと東雲さんが座っていた。
「俺、任務って輸送機みたいなので行くのをイメージしてたわ」
「ああ、そうだな」
「依頼のあった場所ってどんな所だろうな?」
「しらん。着けばわかるだろ」
「と言うか各班ごとに電車で行くって、これじゃまるで校外学習だよなー、どう思う?」
「遠足みたいでテンション上がっちゃったんかな!?てかこっちはイヤホンして話しかけないでってオーラだしてるよね?···ぐっ、いてて」
空返事をしている俺をあえて質問攻めにしてくる遼に俺は自身の耳に刺さったイヤホンを指さしながら少し強めに説教するが、直ぐに腹が痛み手で抑える。
「いや悪い悪い、てか本当にヤバそうだな」
「ああ、今、全く抜く気が起きないから相当ヤバい」
「は?何言ってんだおまえ」
「いやいや、冗談抜きで、これは俺にとってマジで健康のバラメーターなんだよ。例でいえば夏風邪引いた時は余裕で抜けたけどインフルエンザの時はその気力すらもおきなかった。···今の俺なら、例えば、洗脳されて意識はそのままに体だけ違う人に操られてしまったドスケベ衣装の女の子が目の前でエッチなダンスを披露したとしても"ちょっと静かにしてもらえますか"って言ってキレる自信がある」
「いや、その子全然悪くないんだから可哀想だろ。多分近くに操ってるやついるから見つけ出して倒して!?」
「うっ···と、とにかく、そのぐらいヤバいってこと···ぐっ、ちょっとトイレに···ああ、あと二条院さんと東雲さんとの間の空気も結構死んでるから和ませてやってくれ。今の俺は少しでも思考を巡らそうとすると直ぐに腹痛の事を考えてしまって、こうなっちまうからな、気の利いた事を言えそうにないんだ」
そう言って俺はとても弱々しい姿でとぼとぼとトイレの設置されている車両へと向かった。
そして、トイレを済ませた後も3人との会話に混ざらなくてはならないという状況を恐れ、そのまま移動した車両の1番手すり寄りの空いている席に腰掛け、手すりに寄っかかるようにして目を瞑る。
そうして、その状態まま10分程が経ち、僅かに俺の腹の調子が安定期に入ったと思われた、その時。
「はあ···」
俺はある気配を感じ、態勢を変えることなくため息をもらす。
そして。
「止めておけ、色々な意味で後悔する事になるぞ」
と俺は尚も態勢を変えることなく目も瞑ったまま隣の男に忠告する。
その小さくしかしながらドスの効いた声により、俺の制服のスカートにギリギリ触れるか触れないかくらいの位置にあった男の手がビクッと震え、その事から男が明らかに動揺しいると予想出来た。
「その手を今引っ込めて悔い改めれば、俺はお前に対して罪を咎める事が出来なくなる。よく考えて行動しろよ。お前が初犯か常習犯か俺は知らない、···いや知らないでおいてやる。だが以後は現実と虚構の区別くらいつけて、外道な行いは妄想の中だけに留めておくようにしろよ。···そうしないと」
俺はそう言うと、最後まで態勢を変えずに今度は鞘に入った百騎一閃を手に持った状態で召喚する。
「次はどうなるか分らねーぞ?」
「ひぃ」
そして、刀の鍔を親指で押し上げ、相手に僅かに刃を見せつける。
すると。
ピンポン、ピンポン。
とちょうどそのタイミングで電車が次の駅に到着し、扉が開くと隣の男は急いで立ち上がりその駅で下車していった。
「はあ···うぐっ」
せっかく少しだけ調子がよかったのにまた腹の痛みが盛り返して来た。
だが、もうトイレに行っても何も出ない事は分かりきっていたため、俺は百騎一閃をしまうと再び腹の痛みを忘れる為、無心になることを心掛けるのだった。




