初任務(仮) 2
今日の初任務は数名のチームに分かれ、チーム協力して危険度B~Aランクのマガツモノを退治してくるというものであった。
因みにこの討伐する対象はこちらから危害を加えなければ人が襲われる危険性は極めて低いもの、つまり緊急性の低いものから選ばれている。
という事で今、俺と遼、二条院さんに東雲さんの4人は定員が数名ほどの狭いミーティングルームに集められ桐原先生から任務に関する説明を受けていた。
「お前らにやってもらうのはルロウゴウケツの討伐だ。こいつは猛者を求めて彷徨う鎧兜を身にまとったマガツモノで基本的にはこいつに弱者だと判断された者やこいつの姿に怯えていたりしている一般人には手を出さないため危険度はある意味では低いと判定されている。そのため討伐が後回しにされ、お前達に回ってきたという訳だ。だが数年前にはふざけてこいつに喧嘩を売った不良グループが斬殺されたという事件も発生している。まあそういった経緯もあって危険度はA-に指定されている」
桐原先生はミーティングルームに付属されているモニターに移されたマガツモノを指し棒で強調しながら俺たちに説明する。
「ただA-だからと言って油断はするなよ。危険度がそのまま強さを示している訳では無いと前に授業で教えたよな?···じゃあ東雲、その理由を答えてみろ」
「は、はい。危険度とは単純な強さとそのマガツモノが人間社会に与えうる被害を合算して考えているからです。例えばグレンショウドは蓮の花の形をした鬼火のマガツモノで主に夜にふわふわと動き回っているだけで眩しいという位の被害しかありませんが、強い衝撃が与えられると大爆発を引き起こし、直径50mほどを吹き飛ばしてしまいます。この事からグレンショウドもまた危険度A-に指定されています」
「その通り、ルロウゴウケツもグレンショウドも危険度は同じA-だがタイマンで戦ったらルロウゴウケツの方が数百倍は強いだろう。そういったマガツモノの特性を理解する事は非常に重要だ。その為にこれから資料を配る、ここにはこのルロウゴウケツの特徴などが書かれているからしっかりと頭に入れておけ」
桐原先生はそう言うと資料を俺たちに向けて、机を滑らせるようにして渡してくる。
「どうした吉野宮?お前顔色悪いが大丈夫か?」
と資料を受け取るタイミングで桐原先生と目が合ってしまい体調を心配されてしまう。
くそ、普段は厳しいのにそういう所に気づける良い先生かよ、ちくしょう。
「え、ええ。少し緊張してしまいまして···」
「ほお、そうだったのか、珍しいな。ああ、あと言い忘れたが初任務は別に討伐に成功しなくても大丈夫だ。言ってしまえばマガツモノと戦って生きて帰ってくる事が初任務という認識だな。肝に命じておけ、分かったな?」
「「はい!!」」
桐原先生の問に一斉に答える俺たち。
「よし、出発は1時間後だ。各自準備をしておけ。私は次の班の説明に向かう」
ビシッとそう言い放つと桐原先生はミーティングルームを後にする。
「では私は一旦部屋に戻らせて貰いますわ。準備するものがありますので」
続いて俺も満面の笑みを無理やり拵えて、二条院さんと東雲さんに笑いかけると急いで部屋を出て自分の寮へと戻るとまず最初にトイレに駆け込んだ。
「あ、あああ、、ああ、あ、、、あああ、は、ははは」
トイレから出ても一向に腹の具合が良くならずにいた俺は口から謎の声を発しながら、ゾンビの様にゆっくりと歩きベットに倒れ込むと仰向けになり自身の腹に手を当て、ゆっくりと動かす。
「遼さん頼むー、お腹を撫でてくれ〜」
「嫌だよ気持ち悪い」
「気持ち悪くてもいいから〜、お願いだ〜」
「はあ、こりゃ重症だな」
俺の完全に弱りきった声でのお願いに遼も折れたのか、嫌そうに立ち上がるとゆっくりと俺の隣まで来て、俺の腹に手を当てゆっくりと動かした。
「迷惑をかけるねー」
「いやいい」
「······はあ」
そうして俺は空いた両腕をベットの上に放り投げ、天を仰ぎ、再集合までの時間を過ごした。
そして1時間後、結局俺の体調は完全に回復する事は無かったが、ホントの少しだけましになった様な気がした。
「よしじゃあ行くぞ」
準備を済ませた遼が俺に声をかける。
「おう!」
俺も立ち上がり、それに威勢よく答える、だが。
「その前にトイレ!」
結局腹の具合がマシになったというのは、そういう気がしていただけであった。




