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プロローグ

 人生には重要な選択を迫られる瞬間、いわゆるターニングポイントが無数に存在する。


 人間は誰しもそういった選択を重ねて今に至っているわけで、選択をするのが自分であるならば、その責任も全て自分のものなのは当然の原理であろう。


 だが、なんと自分本位な事に、ほとんど全ての人間がその選択での失敗をマイナス、成功をプラマイゼロに考えてしまう。


 失敗したら最悪、成功してもイーブン、そんな感じだ。


 そして俺にとっての人生最大のターニングポイントは恐らくあの日の夜の事になるだろう。


 だが俺は未だにあの日の選択が成功だったのか、失敗だったのか分からずにいる。


 ···いや、きっと俺はこれからもずっとこの疑問を抱えながら生きていく事になるのだろう。


 それが欲を優先し、世界で初めて"神具"を召喚した男として注目されるという重圧から逃げた俺への罰なのだ。



 

 9月中旬。


 あれは中学3年だった俺、吉野宮暁良が近くのコンビニに夜食を買いに行っていた時の事。


 あの時の記憶は今、思い出そうとしても夢うつつでかなり曖昧な物だ。


 覚えているのは人々が逃げ惑っている様子と、耳を劈く悲鳴。


 そして4世紀ほど前から自然災害の様にこの地球に出現する様になった多種多様な姿をした化け物、"マガツモノ"の暴れている姿だった。


 それはこの世界で暮らしていればそこまで珍しくも無い光景だ。


 そんな中で、マガツモノから逃げる人々の内の1人だった俺は奴から少し離れた場所でふと後方を振り返る。


 「!?」


 そこには躓いて道路に倒れ込んでしまっている老婆の姿があった。 


 「···」


 誰かが助けるはず、自分が行ってもどうにもならない、という葛藤はあった。


 がしかし、気が付くと俺は人の流れを逆走し老婆の元に走っていた。


 これは死んだな。俺も老婆も瞬殺されることだろう。無駄死にとはまさにこの事だ、ああ、人間はなんと愚かなのだろうか。


 ヤケクソ、破れかぶれ、自暴自棄、捨て鉢、今の俺の状況を表す言葉のなんと多い事。


 そんな事を考えながらも俺の足は止まることは無く、俺はマガツモノの近くまでたどり着いた。



 

 そして、死を覚悟した次の瞬間。




 気が付くと手には日本刀が握られていて、俺は咄嗟にその刃をマガツモノへと突き刺していた。


 「···へ?」


 唖然としながらも俺は取り敢えず刀をマガツモノの体から引き抜く。


 すると敵の体は瞬く間に雲散霧消していく。


 そして震えた手で手に持った刀を見つめる。


 これは恐らく、いや紛れ無く、"神具"だ。


 でも、限られた女性のみが神から授かると言われている神具がなぜ?


 「あ、ありがとうございます。助かりました」


 「あ、ああ、いえいえお手をどうぞ」


 自分の事で手一杯な俺だったが、老婆にお礼を言われ、我に返り、躓いて座っている状態の彼女に手を差し伸べる。


 その後、老婆が至って健康である事を確認した俺は逃げるようにその場を去ろうとする。


 がしかし、すぐに老婆に声を掛けられ引き止められる。


 そしてこの後の老婆からの言葉が俺の人生を大きく変えることになった。


 神具使いを育成する学園、九條学園の元理事長であった彼女は、俺を女だと勘違いし、さらに俺の様子から神具を覚醒したてホヤホヤである事を察して、自分の学園へと入らないかと相談を持ちかけて来たのだ。


 その申し出に俺は様々な事を考えた、女子に囲まれた学園生活を、男性初の神具使いになる事の責任を、そして神具使いの高い給料を。


 それから更にしばらく考えた結果、俺は選択する、いや選択してしまう。


 「ええ、喜んで承らさせていただきますわ」


 着ていたパーカーのフードを深く被った俺は微笑みながら振り返り、使ったことの無い裏声となぜか育ちのいいお嬢様の様な口調を用いてそう答えた。


 少し言葉が乱れたかもしれないが、そんな事はその時の俺には関係がなかった。


 神具の覚醒から初めてのマガツモノの討伐で完全にハイになっていたのだろう。今の俺に出来ないことは無いとそんな気がしてしまっていた。


 魔が差した···。そう魔が差してしまったんだ。バレた時のリスクなど二の次にしてノリと勢いで話を推し進めてしまった。


 そして数ヶ月の時が流れ、俺はこの国でも指折りの神具使いの女性、いわゆる"御子"を育てる学園、九條学園の馬鹿でかい正門の前に立っていた。


 そう風に長い黒髪とスカートをたなびかせながら。

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