神具能力テスト+α 10
「え?」
三廻部会長の言葉に俺は耳を疑った。
未来を見る能力、確かに俺もそうなんじゃないかとは考えた。しかし、いざ真実であると突き付けられると脳が混乱を起こしてしまう。
それに三廻部会長が自分から能力を明かして来た事も俺をより混乱させる要因になっていた。
「さ、じゃあ続きをやろうか」
三廻部会長はそう言ってニッコリ笑い、俺との距離を詰めてくる。
「くっ」
「ほらほら、これはどう?」
会長の重くトリッキーな攻撃に対応するのがやっとの俺。
何度か神具をぶつけ合う中で、こまめに斬像の召喚を試みるのだが、召喚した瞬間に倒されてしまい、中々維持する事が出来ない。
もちろん、未来を読まれているという事が分かっているため、斬像を本来出そうと思った体勢とは少し違う体勢で召喚して見たりなど試みるのだがそれすら意味が無く、当たり前の様に対処されてしまう。
三廻部会長の絶対的な予知能力の前に勝負を諦めかけた時、ふと俺の脳裏に疑問が生じる。
絶対的な予知であるなら、防戦一方ながら一応戦いが成立しているのはおかしくはないか?
身体能力や実践経験の面でも明らかに俺よりも三廻部会長の方が上である。それに加え未来が完璧に分かるなら今頃俺は秒殺されている筈だ。
ではこの状況は何だ?遊ばれているのか?
いやそれも違う。三廻部会長はそういう事をするような人には見えない。
寧ろ勝負にこだわる方で一番最初、本条さんをわざと怒らせ、隙をつき即効で倒そうとしていたほどだ。
!?
いや待て。そう言えば三廻部会長は最初に本条さんに"自分の神具の能力とかは無闇に人に教えてはダメ"と忠告してなかったか?
しかし先程、三廻部会長は自分から神具の能力を明かしてきた。そして彼女は人に忠告した事を自分は守らないなどといった厚顔無恥な事をする様にも思えない。
それをしたと言う事は何か理由があり、能力を明かした方が彼女にメリットがあるという事だ。
それらの様々な不可解な所を踏まえ、改めて三廻部会長の動きを見る。
やはり変だ、慎重過ぎる。
!!!?
まさか···。しかし、だとするなら説明がつく。
どうせ負けて元々、勝ったら儲けの試合だ。やってみるにこしたことは無い。
俺は三廻部会長のステッキでの攻撃に対し、刀を持っていない左手を向け、刀を召喚する仕草を見せる。
しかし。
俺は刀を召喚すること無く、間合いを詰めながら自身の左腕で会長のステッキによる攻撃を受けとめる。
ゴキッ!!
と確実に腕が折れたであろう音が響き、学園長が作ったフィールドであるにもかかわらず激痛が俺を襲う。
しかしそんな事には構わずに俺は右手の刀で突きを放つ。
こんな無鉄砲でリスキーな戦い方、普段なら絶対にやらない。だが今回はそれでいい。
「ぐっ!!」
驚いた表情を見せた三廻部会長は俺の突きを身体を大きく仰け反らせて、頬にギリギリ掠らせながらもなんとか避け、その後、数回バク転をして俺から距離をとる。
そしてその後、僅かに傷んだか、自身の頬に手を当てる。
「お見事だね」
「いや、割にあいませんわ」
俺は左手1本、相手は頬にかすり傷だ。本当に割に合わない。
だがしかし、ようやく三廻部会長の能力の仕組みが分かった。
「三廻部会長、ようやくあなたの能力が分かりましたわ」
俺は会長に向かって指を差し宣言する。
「あなたの能力は未来を見る能力にまず間違いありませんわ。···しかし、見えているのは恐らく、相手が未来を読まれていると疑っていない世界線の未来ではありませんか?」
未来を読まれていると疑っていない世界線の未来を見るとは、つまり未来を読まれているかもしれないと疑われ、相手が行動を変えただけで予知と現実は異なってしまうという事だ。
しかし三廻部会長は最後の俺の捨て身の攻撃以外はいとも簡単にかわしていた。
「本当に恐ろしいのは神具の能力では無くあなた自身であったということですわね」
「やだなー、そんなに褒めないでよ」
そう三廻部会長にとって未来を読む能力は絶対的なものではなく、ただの情報的アドバンテージを得る手段に過ぎなかったのである。
未来を読む事で、相手の神具に関する情報を得ることが出来るとともに、相手の攻撃の1パターンを見て、現実ではどう行動を変えてくるかを推理し、導き出したいくつかのパターンに対応出来るような最善の行動をとる。
それが三廻部会長の戦い方であり、俺に能力を明かしてきたのは未来を読まれている"かも知れない"と思われているより確実に未来を読まれていると思われた方が行動を読みやすかったからだったのだろう。
しかし俺があえてとった悪手は悪手であるが故に三廻部会長の推理した俺が取りえる行動には無く、そのため対応が遅れ、傷を付けることが出来た。
···だが、ただそれだけだ。恐らく次からそういった予想外の行動をも予想してくるに違いない。
なんと言うことか。俺はただ左手を犠牲にして相手が疑いようの無い天才である事を証明させられたのだ。
本当に嫌になってしまう···。
「散り際は美しくですわね」
「なに?諦めちゃうの?」
「違いますわ!!」
俺は右手に持った刀を地面に刺し、持てる力のすべてを振り絞る。
「猛者ノ大地!」
俺は俺と三廻部会長がいる辺の地面や空中に出しうるだけの刀を不揃いな間隔で召喚する。
そして、先程自分で地面に刺した刀を抜き、三廻部会長に向ける。
「さあラストバトルといきますわよ」
俺は最後にそう言い、三廻部会長の周囲の地面に刺さっている数本の刀に斬像を召喚すると、それらは一斉に会長に斬りかかった。




