騎士教諭殺し 解決編 3
「は?何を言っているのですか?吉野宮さん?」
呆れたような表情で来島先輩は言う。
まあ、そう来るだろうな、そこまでは想定内だ。
俺は手を前に突き出し、一旦、来島先輩の発言を止めると、説明を始める。
「まず1番に今回の殺人未遂事件の犯人について分かっている事としては、レーザーによる攻撃方法を持っている人物であるという事が上げられますわ。···ですが、私と淀川先生で検証した結果、あの状況で、そんなことが可能だったのは遼さんと三廻部会長だけでした」
「いや、それじゃあなんで私が?それにその状況ならシンプルに犯人は久瑠美さんなのでは無いですか?あの張り紙の件も偶然が重なっただけだと考えることも可能でしょう?···久瑠美さんを信じたい気持ちは分かりますが、私だけならともかく三廻部会長まで疑って···少しばかり失礼なのでは無いですか?」
「まあ、落ち着いてください。実は私と淀川先生が調べた人物と言うのは、基本的な攻撃としてレーザーを使う者達だけだったのです。···つまり例外は幾つか存在したのですわ。そして、その内の1つが来島先輩、貴女ですわ」
「···それって」
「ええ、あのレクリエーションで私と戦った時に操っていたムゲンホウジュ、アイツのレーザーによる攻撃には随分と苦戦させられましたわ」
「···」
「そう、貴女は神具により操ったマガツモノによって、淀川先生を殺害しようとしたが失敗、その罪を遼さんに擦り付ける為、遼さんと東雲さんの部屋へと侵入して遼さんの私物を盗み出し、淀川先生の部屋を荒らした後、盗み出した遼さんの私物を証拠として置いて行ったのです。そして、貴女に嵌められた遼さんは捕まり、携帯電話を調べられた。···聞きましたわ。遼さんの携帯電話の中身を調べ、活動家とのメールを発見したのは来島先輩らしいじゃないですか?貴女、その時に更に証拠を偽装したんじゃないですか?」
「···はあ」
深くため息をつく来島先輩。
よし、あと一押し。
ここからは力押しだ。嘘八百並べて意地でも自白させる。
「それとですわね。淀川先生に調べて貰ったら見つかったのですよ。遼さんと東雲さんの部屋で来島先輩、貴女の指紋が。···それも淀川先生の作った特別な機械によって調べられたものでして、何とそれは手袋をしていても指紋を判定する事が出来るらしいのですわ。···という事で来島先輩にお聞かせ願いたいのですがね、貴女は人の部屋に手袋を付けて侵入して一体何をしていたんですか?」
···。
······。
ど、どうだ?かなり無理がある内容だが、証拠が足りていないのだから仕方がない。
勿論、いくら騎士とはいえ、手袋をしていても指紋判定できる機械なんて作れないだろう、だがそこは返納機や訓練用の機械を製作した騎士である。
あまり知らない人からすれば、そういう機械も作れなくはないかもと思わせることが出来るかもしれない。
そして、隠れて人の部屋に侵入したいと思ったなら、まず間違いなく手袋は着用するだろう。
嘘も予想も堂々と言い切る事が人を騙すコツだ。
さあ、どうなる。
俺は来島先輩が攻撃に転じて来ても対応出来るように、何時でも神具を展開する事が出来る体勢をとった。
だが。
「い、いや、本当に大丈夫ですか?久瑠美さんを心配するあまり頭が少し混乱しちゃったんじゃないですか?少し休んだ方がいいんじゃあ···」
「へ?」
来島先輩は開き直った感じでもなく、こちら側を馬鹿にする風でも無く、俺を本気で心配している様に恐る恐るながら優しく言った。
更に来島先輩は続けて。
「淀川先生には悪いですが、その機械故障しているんじゃないですか?いやだって私、本当に久瑠美さん達の部屋に入ってないですよ···それに確かに久瑠美さんの携帯電話を調べたのは私だけど、そのタイミングでメールを偽装したとしてもメールの送受信の時刻が全く合わないでしょ?」
「え、ええ確かに、そう、ですね···」
特殊な機械を用いてデータの改竄などをすれば、メールの送受信の時間を変えることは可能かも知れない。
だが騎士の発明を根本からは否定しないその知識から推察するに、メールの送受信の時刻を改竄するなどという発想がそもそも頭の中に無いように思え、その様子からは嘘をついている感じはまるでしなかった。
ま、まさか本当に来島先輩が犯人ではないのか?
いや、まさか···。
俺が更に追求しようと思考をめぐらせた瞬間。
「神具展開、バーニンググローリー!」
と、声が響き、振り向くと炎を纏った剣を構えながら、来島先輩に斬り掛かろうとするリリネを目撃する。
ぐっ、まずい···。
「神具展開、百騎一閃」
咄嗟に俺は体を翻しながら、神具を展開し、リリネの斬撃を受け止める。
「ちょ、暁良!何やってんのよ」
「いや、そちらこそいきなりどうしたんですの?」
「は?いきなりって、アンタがさっき美波に電話して来たんでしょ?”来島先輩が真犯人だったから応援求む”って」
「いや、そんな事はして···」
!?
その時、最悪の展開が頭を過ぎる。
いや可能性は無くは無かったんだ。先程、俺はレーザー系の攻撃を出来る人間の例外は幾つか存在すると言った。
その俺の知る例外のもう1人。
そして、同室故に証拠の偽装が誰よりも容易だった人物。
俺は集中し、”懐刀”によって騎士の中に忍ばせた刀を通して、ぼんやりと見えていた騎士の視界にしっかりと意識を向ける。
すると10mほど先に東雲さんの後ろ姿が確認でき、すぐ目の前には護衛2人が騎士を庇うように立っていた。
そして、ゆっくりと振り返る東雲さんの手には彼女の神具である魔導書が既に展開され、今にも魔法を発動しようと煌々とした光を上げていた。
「ぐっ、と、とにかくリリネさん、私は淀川先生の元へ向かいます。あと来島先輩は犯人ではありませんので戦ったりしないでくださいね。来島先輩も後で正式に土下座させて頂きますので今はお許し下さい!」
俺はそう叫ぶように言い、騎士の元へと”生キ写シ”にて移動した。




