騎士教諭殺し 15
「なるほど、監視カメラは故障させられていたと」
「ええ本館、別館すべてね。元のシステムからやられたんじゃない?」
「そうですわね···」
んー、これは遼、もとい大野木さんの仕業なのか、真犯人の仕業かは分からんが、やってくれたな。
本館に戻った俺は、リリネに話を聞きながら思考を巡らせる。
「その他に目撃情報などはありましたか?」
「いいえ特には無かったわ。で、そっちは?遼とは話せたの?」
「ま、まあ少しだけって感じですわね。でも、遼さんが犯人では無いと確信しています」
「そう、じゃあ私もそれを信じるわ」
二つ返事で俺に賛同するリリネ。やはり、持つべきものは友という訳か。
と、その時。
♪♪♪
突然、メールの着信音が鳴り、俺はすぐ様それを確認する。
「よし」
それは会長からのメールであり、そこには騎士との約束を取り付けたという様な内容が綴られていた。
「私はもう一度別館に行ってきますわ。リリネさん達はすみませんがもう少しだけ何か証拠になりそうな物を探して頂けますか?」
「ええ、分かったわ。他になにかあったら電話して」
俺とリリネはそう言葉を交わすと、再び別れた。
「護衛任務、ご苦労様です」
俺は騎士の部屋の前に立っている護衛の2人に挨拶をして、騎士の部屋をノックする。
「ああ、空いているぞ」
と、直ぐに騎士から返答があり、俺は難なく入室する事が叶う。
「護衛の人に止められるかと思って、色々と作戦を考えてたんだがな」
「あの2人にはもう説明を済ませている」
「さすが、じゃあ始めるか」
そして、俺と騎士は会長から預かったデータの検証を始めた。
そうして数十分程が経過する。
「なるほど···」
結果的に分かった事としては、現状だと遼と会長以外の容疑者(レーザー系の攻撃が可能な生徒)は誰も騎士に攻撃を仕掛ける事が出来ない状況であった事、そして、どうやらこのデータは改竄などはされていないという事だった。
「まずい事になったな」
「ああ、ついでに遼の携帯電話も預かってはいるが···」
そう言いつつ、騎士は携帯電話を取り出し、メッセージの画面を開く。
そこには何者かに向けて、騎士を殺す事を宣言する様な文章と、そのあかつきには自分を仲間として迎える事を約束させる様な文章が書かれていた。
「こんなのは簡単に偽装する事が可能ではあるが···」
しかし、前に会長が言っていた通り、現状の証拠などで1番怪しいのは遼だ。
他の人から見れば、携帯を他人に操作されて、罪を擦り付けられたと考える方が不自然だろう。
「ちっ···」
俺は好機が見えずに舌打ちをする。
そして、数十秒の沈黙の末、騎士が口を開く。
「なあ暁良。鈴原神社で活動家達が言った事を覚えているか?」
「え?なんだそれ、今重要か?」
「ああ、あの時、活動家の片割れが俺を殺そうとした時にもう片方は"そいつは次の為に取っといてあげないと"と言っていた。···何となく俺を殺す手柄を誰かに残していた様ではなかったか?そして、今回の事件だ。もしかすると本当に遼が犯人なのではないのか?」
「は?そんなわけねーだろ。俺達は秘密を共有し合う仲間同士だろうが」
俺はついカッとなって机を軽く叩きながら抗議する。
だが、騎士の顔はかなり冷静なものであった。
「仲間同士···か」
「なんだよ」
「いや、これは以前から思ってはいた事なんだが、俺と···いや俺達と遼は本当にそういう関係なのか?出会ってからまだ日が浅いが、それでも俺には久瑠美遼という人間が見えてこない、寧ろ、日に日によく分からなくなっていく程だ」
「っ!···」
言い返そうとするが、言葉が出ない。
そう、俺にも多少なりと引っ掛かることはあった。
身体測定の日を忘れる程に抜けているかと思えば、部屋に監視カメラを仕掛けるほど用意周到だったり、出会った初日の大浴場では半分は女の子しかいない学園生活を謳歌するために女装して九條学園に入学した様な事を仄めかしていたのに、あれからは、そういった事には興味が無いような様子で大野木さんからの司令を愚直に遂行していた。
「···」
「···」
再びの沈黙、嫌な考えが俺の頭を支配する。
だが。
「ああー!」
俺は頭を掻きむしりながら唸り、数秒間開けて後、言葉を続ける。
「もういい、考えるだけ面倒だ。俺は例え、遼が犯人だとしても助ける!助けた後に理由を聞き出して止めさせる。そして、もちろんお前の事も俺が全身全霊で守る、それでオールオッケーだ!」
「···」
「···どうだ?それでいいだろ?」
少し驚いたような表情の騎士に対して答えを催促するように問いかける。
すると。
「ふっ、ははは、まあ、そうだな。それでこそ吉野宮暁良って所か。···ああ、俺はそれでもいいさ」
騎士は少し間を開けた後、吹き出すと俺に同意してくれ、それに対して俺も笑顔で返した。
そして。
「よっしゃ、そうと決まったら作戦変更だ。まずは証拠をでっち上げてでも遼の無罪を勝ち取るぞ!」
そうして俺と騎士は一旦、無罪の証拠を探すのを止めて、無罪の証拠を作る事に着手した。




