騎士教諭殺し 13
そうして約束の時間となり、俺は遼が閉じ込められている倉庫の裏の森で刀を構えて待機していた。
後は、騎士が護衛と共に倉庫に入った所で、五十ノ集により身体を少しの間、霊体に変え、倉庫の鉄格子を通り抜け、中にいる護衛に憑依する、そういう段取りだ。
俺が今までに五十ノ集によって霊体化して動いたのはほんの数mのみであり、しかもどれも真っ直ぐに相手の身体を通り抜けた感じだった。
果たして、そんなややこしい動きが出来るだろうか。
···いやいや、出来るかじゃなくてやるしか無いんだ。
俺は深呼吸をして刀を居合をする時のように構える。
そうして時間が過ぎ、騎士の細工が完了すると、遂に作戦開始を告げる合図として携帯が振動し始める。
俺は最後にもう一度、目を瞑り呼吸を整える。
そして。
「百騎一閃、五十ノ集!」
と俺の身体は一瞬だけ斬像の様な、半透明の青白い姿に代わり、そのまま青い光となって目に見えぬ程のスピードで駆け抜けていき、倉庫の中の護衛の中へと入っていった。
···。
「成功だ」
俺は隣にいる騎士に笑いかけ、さらに一度、自身の後方の天井近くから遼を中心に倉庫内を映している監視カメラを目視で確認する。
よし、監視カメラがあの位置なら、遼の口元しか映らない為、俺(護衛)が多く喋っていても怪しまれないだろう。
そして、俺は真面目な表情で目の前の遼と向かい合った。
「さあ遼、これは一体どういう事か聞かせてもらおうか?」
「···なるほど暁良か」
俺の問いに少し驚いた表情を見せる遼だったが直ぐに状況を把握し、小さく呟く。
「···ああ、その、あれだ、何か最近少し気まずい感じだったが、俺は何があろうとお前の味方だ。例え、今回の件が全てお前がやった事だとしても、あらゆる手段を使い、嘘の証拠をでっち上げてでもお前を無罪にしてやる。···だから頼む。俺に嘘だけはつかないでくれ」
「···ああ」
真っ直ぐに遼の目を見て言う俺に対して、少し間は開いたものの、それを了承する遼。
「ふふ、良し。じゃあ、まず最初に昨日のレクリエーションの時に騎士を襲ったのはお前か?」
「いや、そんな事をした覚えは無いな」
「···なるほど、では次に騎士の部屋に侵入したか?」
「···ああ、した」
「なっ···ど、どうして」
「···」
「頼む答えてくれ」
しばらく無言のまま見つめ合う俺と遼。
しかし、遂に遼が重い口を開く。
「···はあ、大野木の命令で騎士が持っている新型の返納機を盗むつもりだったんだ。だが、部屋を物色している最中に誰かが帰って来たから窓から逃げた。勿論、騎士が狙われた事は知っていれば、あんなタイミングで侵入なんてしなかったよ。あと先生が部屋が荒されていて俺のハンカチが落ちていたと言っていたが、そんなヘマはしていない。いつでも逃げられるように部屋は常に綺麗な状態を保って物色していたし、そもそもあの時、俺はハンカチを持ち歩いてはいなかった」
「うーん、そうなると、やはり誰かに嵌められたと考えるのが妥当か···!?、って事はお前の携帯から活動家と繋がっているという証拠が出たと言うのも···」
「······ああ、それも記憶に無いな」
「そ、そうか。そうだよな」
遼の返答に安心して胸を撫で下ろす俺。
やはり遼に直接聞きに来てよかった。
そうだよな。遼が騎士を暗殺しようとするはずなど無い。当たり前の事だ。
だがしかし、少しだけまずい状況である事も分かった。
1つは遼が騎士の部屋に侵入したのは事実であるという事、つまり、リリネ達に頼んでいる証人探しによってこちらに不利な証言が得られてしまう可能性が出てきてしまった訳だ。
そして、もう1つは騎士を狙う真犯人の存在が確定したという事だ。
護衛が2人で騎士を守ってはいるが、恐らくはその護衛を含め殆どの人が遼を犯人だと思って疑っていない。
それは少なからず油断が生じているという事でもある、再び騎士を狙うには絶好の機会という訳だ。
「よし」
とにかく俺がやるべき事の方向性は掴んだ。
「じゃあ遼、直ぐにここから出してやるから、少し待っててくれな」
制限時間が迫っているのを感じた俺は、最後にそう言い、遼に向かって笑いかけ、続け様に騎士の方に目を向ける。
「そろそろ限界っぽいから憑依を解除する。後はこの人に怪しまれないように、尋問始めたての感じでいくつ適当に質問してくれ」
「ああ、任せろ」
「それじゃあ、次はシャバで会おう」
監視カメラに見えないように親指を立て、そう言い残すと、俺は憑依を解除した。
そして、再び倉庫の裏の森で実体化し、憑依の成功や遼が無実であった事などへの安堵からため息をもらした。




