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騎士教諭殺し 10

 それから俺は調理場に戻り、片付けを手伝うと、ある理由の為、しばらく時間を潰してから部屋へと戻った。


 そして、電気を付けると部屋の隅々までよく見て確認をとる。


 「よし、リリネは大浴場に行ってるみたいだな」

 

 今はうちのクラスが大浴場を使える時間。

 

 そう、俺はリリネから"風呂に一緒に行こう"と誘われ無いように時間を潰していたのである。


 そして、リリネが居ない事に安心した俺は今の内に自分もシャワーを浴びてしまおうと着替えを持って部屋に備え付けられている風呂の脱衣所に入り、電気を付けた。


 だが。


 「うわ!?」


 「ふふふ、待ってたわよ」


 そこにはリリネが制服を着た状態で仁王立ちをして待っていた。


 「な、なんでリリネがここにいるんですの?」


 「ん?一緒にお風呂に入ろうと思って待っていたのよ?」


 「い、いや、ですから私、大勢でお風呂に入るのは恥ずかしくてですね、学校の寮でもずっと大浴場は使っていなくて···」


 そう俺はずっとこう言って、リリネ達からの誘いを断り続けていたんだ。


 だが。


 「知ってるわよ。だから今日はこの部屋のお風呂で一緒に入ろうと思って待ってたの、大勢じゃなくて私だけなら···いいでしょ?」


 リリネは後半に行くに従い、若干恥ずかしそうにしながら言う。


 いやいや、そうはならんやろ。


 複数人で温泉に入るのと、仲良しとはいえ2人で小さい浴槽に入るのって余裕で後半の方が恥ずかしくない?···あれ?これ俺の感覚がおかしいの?女子の間では違うの?     

 

 「い、いやー、そのー···」


 「···やっぱり、あの噂は本当なの?」

  

 「へ?う、噂?」


 まさか、俺が男かもしれない的な噂が何処かで流れているのか?


 「とぼけないで、暁良が大浴場を使わないのは毎日遼と一緒にお風呂に入ってるから、って奴よ」


 「へ?」


 なんじゃその噂は!


 「いやいや、それは全くの誤解ですわ。遼さんと一緒にお風呂に入った事なんてありませんわよ。一体どこからそんな噂が?」


 「え?そうなの?いや、どこから出た噂かは知らないけど、遼に聞いたら否定しなかったから」

  

 あ、あの野郎。そう思われてた方が好都合だとか思いやがったな。


 ···。


 いやしかしこの状況、その噂を突き通した方が良かったかもしれねーな。


 ···。


 俺はどうするべきかと必死に思考を巡らせる。


 しかし。


 「じゃあ、早く入りましょ。ほら」


 リリネはそう言うと、こちらを伺いながらゆっくりと服を脱ぎ始める。


 そうして、制服の上着を脱ぎ、白い肌と炎を操る神具を持つリリネにとても似合う赤いブラが姿を表す。


 その白と赤の対比がすごく綺麗で俺は思わず見とれ···ではなく、このままでは非常によろしくない。


 焦る俺だったが、リリネもリリネでこちらの出方を待っているように、服を脱ぐスピードは非常にゆっくりであった。


 その様子から俺はリリネの真意をある程度察する事が出来た。


 恐らくリリネの方も、もしも俺に一緒にお風呂に入れない明確で重大な理由があるのなら無理に誘いたくは無いと考えているのだろう。


 そうと分かれば···。


 俺はフルで頭を回転させ、全てに辻褄が会う理由を考える。


 そして。


 「あ、あの!」


 「?」


 「本当はあまり人には言いたくはなかったのですが、このままではリリネを傷付けてしまう結果になってしまいそうなので正直に言いますわ。···実は私の体には家の仕来りによって刺青が掘られてるんです」


 「···?い、刺青?」


 俺の意外な回答に困惑した様子のリリネ。


 「ええ、ですから大浴場を使うのを避けてましたし、偶然見えてしまうのを防ぐ為に肌の露出が少ない服を着ていました」


 まあ本当は骨格で男だとバレないようにする為だけどね···こほん。


 「それと遼さんは同室ですので、いつかはバレてしまうと思って打ち明けたんですわ。なのできっと遼さんは私を庇って噂を否定しなかったのだと思いますわ」


 「そ、そうだったのね。···い、いやでもそんな刺青なんて私は気にしないわよ」


 リリネは1歩俺に近づきながら言う。


 だが、それに対して俺は横に首を振った。


 「すみません。リリネの言葉はとても嬉しいですわ。でも私自身がまだ他人にこれを見せる覚悟は出来ていないのですわ」


 「暁良···」


 リリネは少し落ち込みながらも俺の要求を概ね理解してくれた様子だった。


 よしここで、すかさずフォローだ。


 「ですが、リリネの言葉は本当に嬉しいですわ。···もし私が覚悟を決めることが出来たなら、その時はどうか一緒にお風呂に入って下さい」


 そう言って優しく微笑む俺。


 それに対してリリネは俺の手を両手でがっちりと掴む。


 「ええ勿論よ。辛いこと言わせてゴメンなさい。私はいつでも待ってるから」


 若干、目を潤ませながら真っ直ぐに俺を見つめるリリネ。

  

 ああ、俺はなんて悪い奴なのだろう。


 元はと言えば、男であるのを隠して九條学園に入学したという罪を隠したいだけだと言うのに、こんな嘘を積み重ねた挙句、叶えられない約束もしてしまった。


 「そ、それじゃあ私は大浴場の方を使うからこっちはゆっくり使って」


 恐らく意識して普段よりも明るく笑ったリリネは服を着直すと脱衣場を後にした。


 「はあ〜」


 俺は安堵からでは無く、純粋な後悔と罪悪感からため息をつく。


 でも、どうしようもない。俺が出来るのは秘密を打ち明けて許しを乞うことでは無く、秘密がバレる前もバレた後も徹底して嘘つきのクズでいる事だけだ。


 それが騙す側のケジメというものだろう。


 だがしかし。


 せめて今夜だけはリリネがしたがっていたガールズトークに花を咲かせよう。


 俺はシャワーで顔面に冷たい水を浴びながらそう考えた。


 



 

 そうしてガールズトークで盛り上がりながら夜が更けて行き、やがて朝になると、俺の心は良くも悪くもスッキリしていた。


 騎士の件もかなり心配ではあったが、騎士には元々2人の護衛が着いている上に警戒心も昨日よりも高まっているだろうから、ひとまず安心出来た。


 現に2日目の訓練中には、特にその様な事件は起こることなく無事に終了していた。


 そうして、何事も無く無事に合宿が終了しそうな予感に胸を撫で下ろしながら、俺は夕食までの少しの時間を部屋でリリネと共に過ごしていた。


 だが、その時だった。


 勢いよくガチャ!っと扉が空き、そこに飛び込んできたのは東雲さんであった。


 「ど、どうしたんですの?そんなに慌てて」


 と、訊ねる俺であったが心の中では少し予想が立ってしまっていた。


 騎士に何かあったのだろうか?

 

 急いで飛び出したい所を抑えて、東雲さんの返事を待つ。


 だが、東雲さんの答えは少しだけ違うものであった。


 「く、久瑠美さんが···久瑠美さんが淀川先生を殺害しようとしたって疑われて、今、取調べを受けてるんです」


 「なっ···」


 東雲さんの言葉を受けて、俺は色々な事が頭を駆け巡り混乱する。


 確かに昨日、騎士はレーザーによって襲われたと言っていた。

  

 だが。


 「有り得ませんわ!!東雲さん案内して下さい!!!」


 「は、はい!こっちです」


 遼に騎士を襲う理由なんて無い、それに俺達は2週間に1回位は部屋に集まって食事をする仲だ。


 恐らくそれを知らない誰かに嵌められたに違いない。


 俺は東雲さんに先導してもらいながら全速力で旅館の中を走りながら遼の元へと向かった。

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