騎士教諭殺し 8
「それでは再開といきましょう!」
来島先輩はやられた狼達の代わりのマガツモノを呼び出すため再び、鞭で地面を叩き、魔法陣を生じさせる。
すると、今度は蛇に似た龍のマガツモノが魔法陣から生えるようにして無数に呼び出された。
「やりなさい!」
そして、10以上ある龍達はそれぞれ口元にエネルギーを貯め始め、それをレーザーの様にして俺に向かって一斉に発射する。
「ちっ」
厄介なマガツモノを使役してやがる。
俺は無数の龍の放つレーザーを来島先輩の方に大周りしながら向いつつ躱していき、どうしても避けれないものに関しては手に持っていた刀で弾き飛ばした。
そして、同時に来島先輩の元へと向かう過程で刀が刺さっている場所を通る度にその刀を龍に向かって投げ付ける。
「グゥガガガァ!!」
と、その内の1つが龍の顔面に直撃し、苦しそうに鳴き声を上げる。
よし。この調子で。
続いて俺は刀にブーメランの様な回転を加えながら投げて、違う個体2体の首を同時に切断する。
がしかし。
切断された首は瞬く間に再生を初め、すぐに元通りに戻ってしまう。
また先程の頭に剣が刺さった個体に関しても、違う龍に刀を抜いてもらうと直ぐにその傷は再生し、再び、俺への攻撃を再開してしまう。
「ちっ、斬像!」
このままでは埒が明かないと感じた俺は来島先輩の近くの地面に刺さっている刀に斬像を生じさせ、そのまま攻撃を仕掛けさせる。
そしてその後、手元に召喚した鞘に入っている状態の刀を時間差でを来島先輩に向けて投げた。
だが。
「甘いですよ」
来島先輩は目にも止まらぬスピードで円を描く様に鞭を振るい、一瞬にして襲いかかる斬像を蹴散らすとともに、それらの持っていた刀を遠くへと吹き飛ばした。
そして、その後に投擲された刀は来島先輩の操る木々の枝によって弾き落とされる。
「全く舐められたものですね」
来島先輩は地面に転がる鞘に収まった状態の刀を見て言う。
そして、ギロッとこちらを睨みつける。
「くっ」
「ほら、守りが疎かですよ」
「なっ!?」
少し斬像の操作に気を取られてしまっていた俺は油断し、木の根に足を取られていることに気が付かなかった。
そして、動きを封じられた俺に向かって龍達が一斉にレーザーが放つ。
ドゴォン!!と強い爆発が巻き起こり、光と熱と共に突風が森の中を通り抜ける。
「はあはあ、あ、あぶないですわね」
「避けましたか、ただいつまで持ちますかね?」
生キ写シにて地面に刺さっていた刀の位置に移動して来た俺に笑いかける来島先輩。
だが、確かに来島先輩の言う通り、このままでは時間の問題かもしれない。
魔法陣から生えた再生能力持ちの無数の龍達による遠距離攻撃、攻防に便利な木の根と枝、またそれらが無かったとしても来島先輩の単体の戦闘能力も非常に高い。
考えろ、考えるんだ。どうすればいい、どうすれば来島先輩に勝つ事が出来る?
···。
······ん?
ん!?
俺は数秒間必死で思考を巡らせ、この戦いがどういうものかに気が付く、いや思い出す。
そして、それと同時に俺は勝利の糸口を掴んだ。
しかし、それを実行するにしてもどうにかして隙を作らなくてはならない。
「ええ、持ちこたえてやりますとも。そして必ずや、先輩を倒して良いお肉を手に入れてみせますわ」
俺は刀を来島先輩の方向に向けて、ブラフでそう啖呵を切ると、百騎一閃を10本重ね、十束ノ刃の状態にする。
そして、どうすれば隙を作れるか考える為、もう一度、来島先輩陣営を良く観察していると、ある違和感に気が付く。
先程の狼の時は召喚した時にしか魔法陣が生じていなかったのに、この龍の場合は常に魔法陣がある。
また、それと同時に俺は来島先輩の能力について思い出した。
倒した相手を服従させる能力、そして、服従させた相手を強化する能力。
そう、今のあの龍は強化された姿なのだ、つまり、強化前のマガツモノは授業や図鑑で見たことがあるものかもしれない。
そして常にあるあの魔法陣。
もしあの魔法陣の役割が使役しているマガツモノを保管している場所と現世を繋ぐ物だとしたら、このマガツモノはそれを繋ぎ続けていなくてはいけないと言う事だ。
つまり、あいつは魔法陣の奥に何か隠したいものがあるのか、もしくは元々魔法陣から首が沢山生えた姿のマガツモノだったという2択となる。
!!?
そして、それらを踏まえてもう一度自分の頭の中で検索をかけると、あるマガツモノがヒットする。
「分かりましたわ。そのマガツモノの正体が」
俺は挑発するように笑いながら言う。
そう、このマガツモノの正体はムゲンホウジュ。それは巨大な真珠から無数の龍が生えた様な姿であり、真珠を壊さなければ龍はほぼ無限に復活してしまう。
本来は弱点が丸見えであるため対処はかなりし易いが、これはその弱点を上手く隠している。
また来島先輩の能力で強化され、龍の姿が大きく異なっている為、直ぐには気がつくことが出来ない仕様になっていた。
全く、来島先輩はこの前のケンロウガジョウの時といい策士だぜ。
だが、分かればこっちのものだ。
俺はもう片方の手にも刀を召喚すると、そちらも十束ノ刃の状態にする。
そして、今度は真っ直ぐに来島先輩の方へと走り出す。
「はあ、色々とお粗末ですね」
来島先輩は走っている俺に向かって木々やレーザーで攻撃をしてくる。
それに対して俺は近くにある刀に斬像を召喚したり、自身で対応したりしながら突き進み、少々の傷をおいながらも龍達の元まで辿り着くと、大きくジャンプし、それらと対峙する。
そして、龍を斬ると見せかけて手に持った片方の刀を魔法陣の奥にあるであろう物に向けて投げる。
だが。
「そういう所がお粗末なんです」
来島先輩が呟くように言うと、突如、魔法陣を含めた龍達は光の粒の様になって消え失せ、刀は無情にも地面に突き刺さる。
「ふふ···」
「!?」
だが、来島先輩は俺の視線が最初から投げた剣に向いていなかったことに瞬時に気が付く。
そして、俺はもう片方の刀を来島先輩に向けて投げる。
「前言撤回、見事です。ですが···」
突如、来島先輩の持つ鞭が光を放ち初め、ついにそれは鞭の形をした光の塊へと変化する。
そして。
「雷公鞭!」
飛来する刀に向かって来島先輩はその光の鞭を振るう。
「ちっ···」
このままでは弾き落とされるだけだ。
俺は投げた刀の元へ生キ写シで移動し、しっかりと両手で刀を構え、斬り掛かる。
バチバチという音を立てながら、せめぎ合う2つの神具。
「ぐっ···」
「中々良かったですが、1歩及ばずでしたね」
「ふふ、いや」
作戦通り行ったことに対して、俺は思わず笑みをこぼす。
俺は持っている刀を斬像に預けると、自身は反動で一回転しながら来島先輩の頭上を通り抜ける。
そして、地面に着地した俺の手には来島先輩の付けていたお面が握られていた。
そう俺の勝利条件は相手の全力を受けきり、その全てを攻略し尽くす事では無い。
俺は来島先輩の頭にある、このお面を取って逃げ切ればいい、それこそが俺の勝利なのだ。
「よし、では逃げますわ」
俺は最後にそう言い残すと、先程、東雲さんが逃げるのをサポートする為に配置した刀に生キ写シで移動しそのまま逃亡を計った。
「ま、待ちなさい!!」
後方から来島先輩の声が聞こえて来たが、刀から刀へと瞬間移動出来る俺を追うのは困難だと判断したのか、その後、追ってくることは無かった。




