騎士教諭殺し 6
「いい感じだな」
俺はにんじんの他にりんごと玉ねぎを手に入れ、満足気に呟く。
今は開始からそこそこの時間が経っていて、辺りはかなり暗くなり、遠くからだとお面の種類と帽子の色を判別するのがだいぶ厳しくなってしまっていた。
「後は肉をゲットしておきたいんだけどな···」
俺は召喚している全ての斬像を用いてもう一度周囲を確認する。
すると。
「おっ···また来たか、ん?」
また新たな参加者を発見するが、その子は俺の張っている巣の横をそこそこの速度で通り過ぎていってしまう。
不審に思った俺は斬像を偵察に向かわせるとともに、更に集中し、目を凝らす。
「何かを追っている?ん、あれは···ふふ」
思わず笑みをもらすと、俺は手に持っている刀を木に突き刺し、偵察に出している斬像に生キ写シをして、場所を入れ替える。
「やっぱりか」
その少女が追っていたのはこのレクリエーションのボーナスキャラ、騎士の扱う訓練用の機械であった。
その機械はかなり小さめの龍のような姿で空中を高速かつ自在に飛び回っていて、体から僅かに光を放っている事で、一応、暗い中でも見つけられるように配慮はしてあるようであった。
「よし」
俺は機械とそれを追う少女に先んじる為に手に持っている刀を、前方30m程先の木に投げて突き刺すと、すぐ様そこに生キ写シをし、それを数回繰り返して機械と少女の前方へとたどり着く。
そして。
「悪いですわね。これは私がいただきますわ。村雨!」
と、空中に刀を数十本ほど出現させ、それを機械の龍に向かって放つ。
「くっ!?」
突如、前方から降り注いだ刀を見て龍を追っていた少女は急ブレーキで刀が降り注ぐ位置の手前で立ち止る。
だが、龍の方は気にせず空中を泳ぐように進み、まるで風が人混みを通り抜ける様に刀の雨を掻い潜って行く。
流石は騎士の設定した機械だ。予測の付きやすい真っ直ぐな攻撃は楽々避けられてしまう。
ならば、変則的な攻撃をするしかない。
「ちっ···斬像!」
俺は避けられて地面に刺さった刀に斬像を生じさせて機械の龍の背後から斬り掛かる。
また同時に今、降り注いでいる刀の1つにも斬像を生じさせる事で前後からの同時攻撃を仕掛けた。
シュインン!!
と刀が振られる音が同時に響き渡り、機械の龍は前方の斬像に気を取られ過ぎた事により、後方からの斬撃を避ける事が出来ずに両断される。
そして、ぼとりと2つの機械の塊が地面に落ちる。
「よっしゃ!」
俺は思わずガッツポーズをして、木の枝から地面に降りる。
「悪いですわね。これは私が貰いますわ···って東雲さん?」
近くで見て龍を追っていた少女が東雲さんである事に気が付き、目をぱちくりさせた俺は、その後少し気まずくなってしまう。
「ああ、やはり吉野宮さんでしたか、流石ですね。まあ取り合っても私じゃあ勝ち目が無いので···ん、でもあれ?」
東雲さんは何かに気が付き、1歩俺に近づいてくる。
「ん?んん!?」
東雲さんの行動を見て俺も事態を把握し、こちらからも1歩近づく。
「私は赤のお肉ですわ」
「私も赤です。食材は玉ねぎですね」
「仲間と会えるなんてラッキーですわ。それにほら!」
俺は持っていた玉ねぎのお面を取り出す。
「玉ねぎ入りは確定ですわね。それにそこのジョーカーでお肉も···」
倒した機械の方を指差し確認する俺。
がしかし。
「ん?」
機能停止したと思っていた龍の上半身の位置がいつの間にか変わっていて切断面同士が向かい合うようになっている事に気が付く。
すると。
龍の2つの切断面からゲル状の半透明の液体が染み出してきて、ふたつを繋ぐとそのままぴったりと繋ぎ合わせてしまう。
「へ?」
と事態を把握出来ず、動きが遅れている俺達を後目に龍は頭の部分をドリルに変形させ、そのままそれを地面に突き立てた。
「くっ!」
「ファイアボールⅠ!」
俺と東雲さんは同時に状況を把握し、俺は刀を振り下ろし、東雲さんは神具の能力で火球を飛ばすが時すでに遅し、龍は土の中へ文字通り土竜の様に穴を掘って消えて行ってしまった。
「か、科学技術も侮れませんわね」
俺はもしかしたら地面から攻撃を仕掛けてくるかもしれないと、一応辺りを警戒していたが、そんなことは無く、機械の龍が本当に逃亡してしまった事を確信するとその場に仰向けに倒れ込む。
それから、俺は数十秒はその態勢のまま、しばし心と体の休憩を取ると、自身の顔を叩いて気持ちを切り替える。
「よし」
と気合いを入れ直し、勢いよく飛び起きる。
「とにかくお肉を手に入れましょう。2人なら断然有利な筈ですわ」
「ええ、制限時間もあと20分もあります」
東雲さんも時計をこちら側に見せつけるように指さして笑う。
と、その時。
「お探しの物ならここにありますよ」
森の奥からその様な声が聞こえて来て、俺と東雲さんはビクッとし、すぐ様そちらに目を向ける。
「それもSランクのボーナスキャラ、高級食材持ちですよ」
奥から聞こえてくる声は徐々に近付いてきて、ようやくその姿を目視で確認することが出来る。
その人は手に鞭型の神具、|女王の盾、あるいは剣《クイーンズ·スレイブス》を持った眼鏡の少女、生徒会副会長、来島咲枝であった。
「おっと、ここはこう言い替えましょうか?A5ランクの高級食材持ちとね」
来島先輩はそう言うと不敵に笑って見せた。




