騎士教諭殺し 3
それから時間が経ち、遼とはまだ何となく気まずい雰囲気が続く中、俺達は強化合宿の日を迎えていた。
そして、朝早くからクラスごとに分けられバスに押し込まれた俺達は、約2時間ほどかけて周りを森に囲まれた宿泊施設に送り届けられたのだった。
「建物は普通に綺麗だな···」
合宿所と言うから外観はある程度、古ぼけているのを想像したのだが実際は、普通のホテルと大差ないくらいに綺麗であった。
事前の説明によれば、この施設は九條学園の所有している物らしく、この合宿を含めて年に数回しか使われないようであった。
やはり国も、マガツモノから人々を守る御子の育成の為には金を惜しまないのだろう、かなりの優遇っぷりが伺える。
俺はそんなことを考えながら、ホテル入口前にて桐原先生から事前の注意事項などの説明を受けていると、不意に後ろから肩が叩かれる。
「ね、ねえ、そう言えば、暁良?部屋割りの事なんだけどさ」
と、俺が振り返ると、そこには少し恥ずかしそうな様子のリリネの姿があった。
「部屋割は確か学生寮と一緒になったのではわりませんでしたか?」
「そ、そうなんだけど···」
「?」
「あ、あのやっぱり私、今回は暁良と同じ部屋がいいんだけど···だめ?」
「へっ?···ええ!!」
リリネの急な提案に驚いた俺は少々大声を出してしまい、咄嗟に自身の口を両手で塞ぐ。
いや待て待て、例え3日とはいえ女の子と同じ部屋はまずいだろ。それにバレる危険性も大いにある。
···ま、まあ確かに、元々遼が居なかったら3年間その状況だったんだけどさ。
うーん、しかしだな···。
俺はもう一度リリネの顔を見る。
「···どう?」
顔をほのかに赤らめ若干もじもじとしながら首を傾げるリリネ。
かわいい。
やべぇ、これは断れる状況では無い。これを断れる奴がいたら頭がおかしいまである。
···いや、いやいやいやいや、ここは心を鬼にするんだ。絶対に断らねば。それがリリネのためなんだ。
「あ、ああー、わ、私は賛成なのですが···、あっ、で、でも東雲さんと遼さんはいいのですか?一応、先生達の決定に逆らう事になってしまうと思うのですが?」
「ええ、私はいいですよ。とても楽しそうです」
俺の問いに即答する東雲さん、恐らくは手回し済みと言うことだろう。
「···」
と、それとは対照的に、遼は何も答えることなく、俺と目を合わせることもなかった。
ぐっ、こいつ、一昨日の事まだ根に持ってやがる。"お前一人で解決しろ"って事か。
まあ、確かに今まで全然片付けをしなかった俺も悪かったけど、いきなり怒るんじゃなくて普通に注意すればいいだろ、まったく。
···。
·····うーん、何か腹たってきた。···ああ、OKOK。分かったよ。そっちがその気なら俺にも考えがある。
「そうですわね。確かにいい考えですわ。2泊3日ルームメイトを交換しましょう!!」
俺は遼へ当て付けする様にして、投げやりにやや大きな声で言う。
が、しかし。
「おい!そこ、うるさいぞ!」
「ひぃ、すみませんわ」
生徒達の前で色々と説明していた桐原先生に怒鳴られ、思わず、キャラと違う声が漏れてしまう。
そして、桐原先生に怒られた事により、俺は少しだけ冷静さを取り戻し、同時にルームメイトのシャッフルを了承してしまった事を後悔するのだった。
それから俺達は一旦、荷物等を置く為に割り当てられた自分達の部屋へ向かった。
「おお、中々いいですわね。···まあ、学生寮程ではないみたいですが」
合宿施設の部屋は2人で一部屋の学生寮と同じ形式だったが、中の豪華さは学生寮の方が上であった。
「そうね。でも十分よ」
リリネはやけに上機嫌に言いながら、荷物を端において2つあるベットの片方に鼻歌交じりに座り込む。
「ほら暁良も早く荷物下ろして座りなさいよ。ほらほら」
「え、ええ」
あまり見た事ないタイプのリリネのテンションに少し押されつつ、俺は荷物を置き、リリネと向かい合うようにもう片方のベットに座る。
「で、これからどうする?ガールズトークしちゃう?それとも枕投げとか?」
「リ、リリネさん。荷物を置いたら30分で再集合ですわよ」
「へへー、分かってるわよ。今夜の話しよ今夜の」
「そうでしたか···あはは」
いや、今夜の話だとしてもおかしいだろ。てかリリネのテンションがバグっている。
何時ものリリネなら言わなそうな言葉を連発する彼女に困惑してしまう俺はただただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
「あ、あー、それにしてもあれですわね。森に囲まれた山中のホテルってなにか事件が起こりそうですわね」
と、何時ものリリネに戻ってもらうため、少し違った切り口からの会話を試みる。
だが。
「そうね···ああ、そうだ。せっかく森に囲まれてるわけだし肝試し大会とかもしちゃう?いいね。たのしそう」
「あっ、やべぇ全然話が通じねぇや」
と、それから俺は終始テンションがおかしい、リリネの言葉を訂正したり、聞き流したりしながら再集合の時間を待ったのだった。




