騎士教諭殺し 1
「お前、こういうのは少しは隠せよ!」
朝倉祭の一件から数週間ほどが経ったある休みの日、九條学園学生寮1203号室に遼の怒鳴り声が響く。
「えー、別にこの部屋にはお前と騎士位しか来ないし良くね?もうお前とかには色々ばれてるし」
ほんの少しだけハードめのエロ本を手に怒っている様子の遼に対し、俺はベットに寝たままの状態で気だるげに返事を返す。
「そもそも、お前が監視カメラで俺の癖を暴いたんだろ。こんなにオープンになってしまったのはお前のせいでもあるんだからさ」
「そういう問題じゃねーよ。あと、二条院さんとか東雲さんとかが急に来るかもしれねーし、誰かが黙って侵入するとかもあるかもだろ」
「黙って侵入?誰が?何のために?まさか38代目様が俺らに暗殺者でも仕向けると思ってんのか?」
「それは···」
「流石にそういう事はしないべ。そんな事しそうなのは姉小路さんくらいだよ。ちなみに姉小路さんにはもしやったら冗談抜きで縁を切るって言っといてるから多分大丈夫」
俺の詭弁を受けて、遼は少しの間黙るが直ぐにため息混じりに喋り始める。
「···はあもういいは、はっきり言ってこう言うの目に入るとこっちが不快なんだよ。だからせめて隠せって言ってんの、分かるか?」
「えー」
「···」
「ちぇ、分かったよ」
結構真面目に怒っている様子の遼に促され、俺は渋々立ち上がると、机などに所々置かれているそういう系の本をかき集め始める。
「お前も少しは生徒会長や来島先輩とかを見習って、模範的な振る舞いをしろよ。お前は九條学園の1年生の中では間違いなく1番注目されている存在なんだぞ」
「模範的な振る舞いね〜。···でもさ、生徒会長とかの普段の行いなんて分からないじゃん。どんなにきっちりしている様に見る人だったとしても、結構二面性ってのがあるんじゃないか?例えば、高潔な好青年に見えるヤツが裏では生き物を殺しまくってたとかよくあるだろ。だとすると逆説的にいえば俺みたいなヤバめの奴にもその二面性ってのがあるんだよ」
「いや、ヤバいやつって自分で言うのかよ」
俺の持論に対し呆れ顔で返して来る遼。
しかし、俺は構わずに話を続ける。
「うん、そうさ、認めるよ。確かに俺は鬼畜陵辱モノはかなり好きだ。だがな、同時に俺は洗脳寝取られ系だって大好きなんだぜ!なんという二面性」
俺は精一杯のドヤ顔で2冊の本を突き出す。
「いやそれはアブノーマルという一面でしかねーから!」
「ぐはっ!!」
ドヤ顔の俺の顔面に向け、遼は自身の周りにあったおねショタ系の本を投げつけ、それが直撃した俺はその場に仰向けで倒れこんだ。
「なあそろそろ機嫌治せって」
「···」
「もう寝てんのかよ···」
その日の夜、騎士が1203号室に訪れている中、俺はベットで布団を被り寝ている遼に向かって声を掛けるが返事が無かった。
「なんだお前達、喧嘩してるのか?」
「まあな、何か部屋をエロ本まみれにしたら怒られた」
「まあ、それはお前が悪いと思うが」
「うーん、そうかー、でもそこまで怒るか?」
騎士にも即答された俺は腕組みをし、首を傾げる。
···だがまあ、謝るにしても遼はもう寝ちまってるしな。どちらにしろ明日か。
俺は気を取り直し、騎士の方を見る。
「所で、"活動家"達が朝倉祭の後も次々と返納機関係の人とかそれの推進派とかを殺害してるらしいけどお前は大丈夫なのか?奴らからしたらお前も標的なんじゃねーの?」
「まあな、現に朝倉祭の時から自宅には帰れてないな。俺もじいさんも護衛付きで国の施設にいるよ」
「ふーん···っていや、じゃあここに居ちゃダメじゃね?」
「ああ、護衛も撒いて来た」
「いやお前。どんだけ俺に会いたかったんだよ···てか、護衛の人可哀想···」
「ぶっ!!」
口に含んでいた飲み物を軽く吐き出し、動揺する騎士。
「とにかく今は帰れて、ほらまだ門限じゃねーし、俺が送ってやるから」
俺は時刻を確認しながら、訪ねる。
「ごほ、ごほ、そ、そうだな。確かにお前の言う通りだ。···それにとりわけお前と会いたかった訳でもなかったしな」
先程、飲み物を吐き出した影響をまだ引きずってか、騎士は咳き込みながらも俺の意見を受け入れる。
それから騎士が変装を終えて、出口へと向かうのを確認すると、俺もゆっくり立ち上がる。
「よいしょっと、ああ、そうだ」
そして、思い出した様に帰りの時用に斬像を1体部屋の中に生成すると、良く警戒しつつ、扉を開けて1203号室を後にした。




