朝倉祭2 6
「ですので、貴女は織笠さんとの戦いで死んだ事にさせてもらいますね」
そう言い、横森さんがスナイパーライフルを発ら砲するとその弾丸は跪いた状態の俺の数十cm先の地面に当たる。
「さあ、早く逃げ回ってくださいよ。私は逃げる獲物を追って追って、追い詰めて追い詰めて、それからゆっくりと仕留めるのが好きなんです」
「ぐっ···」
くそ、アイツわざと外してやがった。
···とは言っても、腕を使い物にならなくされている今、俺自身が戦うのは難しい。
しかし、だからと言って斬像を作り出すまでの気力は今の俺には残っていない。
御前試合で横森さんに使わされた"五十ノ集"のしわ寄せが巡り巡ってこういう状況を作り出した事を考えると試合に勝って勝負に負けたようでどうにも腹立たしい。
「くそ···」
俺は相手を喜ばすだけど分かっていながらも、力を振り絞り空中に1本の刀を出現させ、相手に向かって放つ。
「キレが全くありませんね」
が、それは呆気なく横森さんの銃弾によって空中で撃墜されてしまう。
だが、まあそれでいい。
一瞬だけでも横森さんの気を引けたことで、俺は相手に背を向けて林の中へと走る。
「いいですね」
横森さんは笑いながら直ぐに俺の方へとスナイパーライフルを向ける。
そして、さらにもう1発発砲する。
「ぐっ!」
と、わざと外したのかは分からないが、その弾丸は俺のふくらはぎを掠めただけに終わり、致命傷とはならなかった。
なので俺は痛みに耐えつつ、木々の間を進み何とか横森さんから距離をとる事に成功する。
「···はあはあ、まじかよ。もう帰っていいかな」
俺は横森さんがいた方向から見えないように気をつけながら、木にもたれかかりその場に座る。
そう俺にはまだ奥の手があった。
それはここから1時間程かかる実家に常にスリープ状態で置いている斬像へと本当に最後の力を振り絞って瞬間移動する事だ。
だがしかし。
もしそれが出来たとしても俺は移動した先で死んだ様に1日位は気絶しっぱなしになる様な気がする。
そうした場合の言い訳はどうすればいい?
1日近く俺と連絡が付かなければ母さんは心配して警察沙汰になってしまうかもしれない、それに遼や騎士には俺が常に保険を掛けながら戦っているという、出来れば知られたくない事実を知られてしまう事になる。
「□□□□···」
聞き取れなかったが、少し遠くから恐らく俺を煽るような台詞を言いながら歩いているであろう横森さんの声が聞こえる。
「はあ···」
くそ、よりにもよって何でこんな事をしてんだよ横森さんー。
織笠と言い横森さんと言い、最近の若者の頭どうなってんだよ。ヤバすぎだろ。
···。
······。
·········。
「!?。いやちょっと待て···」
そう、あまりにもヤバい。
主張はもちろんの事それを差し置いも彼女達の行動は変だ。
横森さんに関しては、先程の状態を見る限り、彼女を自動で守るシールドが地面に落ちてしまっていた。
それはつまり彼女も体力がかなりギリギリの状態である事を意味している。
それなのに態々、俺を逃して遊ぶ様な真似をするか?
もっと言えば俺への攻撃に自身の神具を使っている事も変だ。
もしも彼女が主張通り、手柄を独り占めにしたくて俺が織笠達にやられたように見せたいならスナイパーライフルを使わずに油断している俺に近ずいて、刃物で一刺しとかの方が自分に疑いの目が向くことも回避出来るし、確実だ。
「つまり、わざと逃がした。でも何故?···。!!?」
そうか。そういう事か。
これは時間稼ぎだ。そしてアイツの目的は···。
「はあ···」
でも真相が分かったとしても、この身体ではどうしようも無い。
俺は大きな溜息をもらしながら上空を見上げる。
そしてそれから数秒間、俺の呼吸音のみが聞こえていた。
がしかし、そんな無音の時間は一瞬だけであった。
近くの草むらを人影が揺らし、ガサッと音を立てた事で俺の平穏は破られる。
そして俺は現れた人影の前で、再びため息をもらし、同時に笑みを浮かべた。




