朝倉祭 13
「じゃあ俺も神社に戻りますか···」
まあ出来るだけ体力は温存しておきたいからな、歩いて向かうとしょう。
そう心の中で呟き、俺は母さん達が行った方とは逆の方向へと歩き始める。
それにしても遼は上手く誤魔化し通すことが出来るのだろうか。
あいつは頭が切れるのか抜けているのか良く分からない所があるからな。
基本的には冷静で頭が良い方なんだが、出会ってまもない時は俺と一緒に健康診断の事をすっかり忘れていてピンチに陥った事もあったくらいだ。
あの時は2人で協力して乗り切ったが今回は1人。
うー、心配だ。
···。
······。
いや、俺は俺で今かなり大変な状態なんだ、他のことに気を取られていては足元をすくわれてしまう。
今は遼を信じよう。
俺は自分の頬を軽く両手で叩き、気合いを入れ直す。
そして鈴原神社へと再び歩みを進めた。
「なんじゃこりゃ?」
俺が鈴原神社の前までたどり着くと、まず神社の周りに集まる野次馬が目に入る。
そして、当の鈴原神社には全体を覆うように試合の時に張られていた結界が張り巡らされていて、それはまるで内からの脱出と外からの侵入を防止している様であった。
「どうなってんだ···」
状況をもっとよく確認しようと俺は周囲を見渡す。
そして、見覚えのあるもの達を発見する。
「リリネこれは一体どう言う事ですの?」
「えっ!!暁良?あんた何でそっちに居るのよ。私はてっきりこの中に居るのかと···。と言うか私、何回も連絡したんだけど」
「え、そうなんですの?」
リリネに言われ、携帯を確認するとそこには3件ほど連絡が入っていると表示があった。
ちっ、映画見てたから消音にしていたのを忘れていたのか。
「も、申し訳ありません。音も振動も切ってましたわ。って、それはともかくとしてこれは一体なんなんですの?」
「さあ?急に神社の巫女さんが神具を使ったと思ったら、私達は外に弾き出されてしまっていたの」
リリネはそう言いつつ、他の学園から朝倉祭を見に来たと思わしき女子学生を指さす。
「最初は何か儀式の一環なのかとも思いましたが、お姉様からは連絡が無く、神社の方も音沙汰無しで全く様子が分からず、変ですにゃねってなってましたにゃ」
続けて姉小路さんが現状の補足をしてくれる。
「成程、ああ所でこの状況になってから何分くらい立ってますの?」
「そうですにゃね。···多分5分くらいだと思いますにゃ」
5分か···。
まあ恐らくは何か予期せぬ出来事が起こっているという事は間違いがないだろう。
そう思い、俺は再び辺りを見渡してみる、すると中から放り出されここに纏まっていた御子達もこれが決勝戦の演出とかでは無い事を確信しだし、選手や教師に連絡を取ったり、神具で結界の破壊を試みてみたりと行動を起こし始めていた。
「ん、あれ?あのいじめっ子、ではなく織笠さんでしたか?彼女達の姿が見えない様な気がするのですが」
俺は更によく周りを観察しながら呟く。
「ああ、確かに居ないわね。中に取り残されてるのかしら?」
「···そうですか」
♪♪♪
とその時、先程マナーモードを解除した俺の携帯が突然鳴り響く。
この着信は恐らくは騎士だな。
「はい、もしもし大丈夫ですの?」
「ん、なんだその喋り方は」
「そんなの、いいから早く悪い知らせを教えてください」
「あ、ああ、緊急事態、クーデターって奴だ。神社全体に結界が張られて退路を塞がれている」
騎士はかなり小声で状況をなるべく分かりやすく俺に伝えてくる。
小声という所から騎士は存在を気づかれないようにこっそりと電話を掛けてきている事が伺えた。
「了解、直ぐにそっちに行きますわ」
「ああ頼っ、ぐっ!?」
ドゴォォンン!!!
と騎士の言葉を遮る様に凄まじい爆音が携帯の向こう側から聞こえてくる。
「おい!騎士、騎士!!」
「···」
「ちっ!!!」
事は一刻を争うって事か。
だが先程、結界の破壊しようと神具で攻撃を仕掛けていた御子達は結局結界を壊す事が出来ていない様子だった。
それはつまり敵がかなり居ると予測される中に俺一人で入って行かなきゃいけないという事だ。
体力はかなり厳しい。···だがまあ、行く以外の選択肢は無いよな。
「じゃあ、行ってきますわ」
「ちょ、待って暁良!1人じゃ危険なんじゃない?」
俺が何をしようとしているのかを悟ったのか、リリネは俺を止めようとする。
だが俺の意思は変わらなかった。
俺はリリネに向かって1度笑いかけると、生キ写シにより騎士の元へと瞬間移動した。




