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朝倉祭 11

 それから数分後。


 「おつかれ」


 宣言通りに早々と試合に勝ち、戻って来た俺に騎士が飲み物を放り投げる。


 「おお、サンキュー、まあ余裕だな」


 俺は受け取った飲み物を一気に半分くらい飲みながら、得意げに笑ってみせる。


 「そんじゃあ、戻るわ」


 「そ、そうか、早いな」


 そうして、飲み物を騎士に投げ返した俺は意識を集中させ、映画館のトイレに待機させている斬像へと生キ写シをしようと試みる。


 がしかし、その時。



 「あ、あの···お、お疲れ様です」

  


 「ひぃ!」

  

 急に声を掛けられて俺は思わず変な声を出してしまう。


 そして、俺は機敏な動きで声のした方向を向くとそこには何処かで見覚えのある少女の姿があった。


 「ええっと、確か貴女は···」


 「ああ、す、すみません。私は倉持緑と申します。ほら行列の時に前を歩いていた···」


 「ああ、あのいじめられっ子、っ!!」


 思い出した拍子に失言も飛び出してしまい、俺は両手で口を塞ぐ。


 しかし、少女はそれについてはあまり気にする様子は無く苦笑いで笑い飛ばす。


 「ええ、まあそれです。はい···」


 「も、申し訳ありませんわ!どうか許してください」


 「いえ大丈夫ですよ。まあ、事実ですし···」


 と、俺の失言を受けて倉持さんはやや下を向きつつ、尚も苦笑いを続けていた。


 しまったな。急に現れたからびっくりしてしまったというのもあって配慮に欠けた事を言ってしまった。


 ···まあ、あれだこういう時は。


 「ほ、本当に、本当に申し訳ありません。··で、では私は少し用事がありますので」


 謝り倒しながら速やかにその場を去る。これしかない。


 俺は申し訳なさそうな顔をしつつも足早に倉持さんの横を通り抜けようとする。


 しかし。


 「あ、あの、先程の試合凄かったです。私ファンになっちゃいました。···そ、それでこれ、お近付きの印に」


 倉持さんはそう言って懐から綺麗にリボンが結ばれクッキーの入った透明な袋を取り出して俺に向かって手渡す。


 「私、お菓子作りが趣味なんです。朝倉祭に出る全員に配っていまして」


 「···そうですか。へぇ可愛いですわね」


 俺はいきなり自分の前に差し出された袋を反射的に受け取るとその感想を言う。


 「あっ、よかったら···」


 「おっと、申し訳ありませんわ。私、本当に用事がありますの、結構急ぎなのでこれで失礼させてもらいますわ。ああ、これは後でミルクティーと一緒にでも頂きますわ」


 俺は出来うる限り最高のキラキラとした笑顔で彼女に笑いかけると小走りでその場を後にし、周りに誰もいない所を見つけると、生キ写シにて映画館のトイレへと瞬間移動した。



 


 「ふう···」

  

 「ああ、おつかれどうだった?」


 急いで着替えを済ませて映画館の座席に戻った俺に遼が声をかける。


 「おう、もちろん勝ったぜ。ああ、それとほい」


 「ん?なんじゃこりゃ」


 「俺の経験上、43%くらいの確率で何かが混入しているであろうとされるクッキー」


 「なにそれ、どういう事?」


 「いや、さっきの行列の時に俺の前を歩いていた子がくれたんだよ。お近付きの印だってさ」


 「ふーん、で43%ってのはどういう数字?」


 「俺の経験則(アニメや漫画の鉄板)と虚構と現実をごっちゃにしてはいけないという教訓、あと、その子はパッと見た感じ"そういう事"をするような子には見えないって言うのと、ただ、その子はいじめられっ子だったから誰かに命令されたってのも捨てきれないという事実。それらを掛け合わせて考えて弾き出された結論かな」


 「そう、まあ潔白だとしても、プラシーボ効果ってのもあるし、どちらにせよ食べない方がいいだろ」


 「まあ、そういう事」


 と、それから俺は視線をスクリーンに戻し、再び映画の世界へと入っていく。


 だがしかし結局の所、俺はこの映画が終了するまでに、3試合目に呼ばれる事となり、内容を完全に把握するなどは叶わず、時間が空いた時に必ずまた見に来ようと決意する事になるのだった。

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