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神具能力テスト+α 3

 「いよいよ。この時が来ましたわね」


 「うん、ここからが勝負」


 身長、体重、視力、聴力などの検査を難なくクリアした俺達は触診が行われている教室から少し離れた所の壁際に立ち、周りにも人が居るかもしれない事を警戒し、口調を変えて話していた。


 俺達は作戦のため、なるべく最後の方になるように検査を受けていて、俺達の前にはすでに数名ほどしか検査を受ける人は存在して居らず、準備は万端ではあったが、この作戦の失敗はそのまま社会的な死を意味してもいたため緊張感は一入(ひとしお)であった。


 そして作戦の内容はこうである。

 

 まず俺が予め触診が行なわれるカーテンで仕切った場所の近くに隠しておいた百騎一閃の近くに斬像を召喚し、斬像との視覚共有の能力で医師がどのような手順で診察を進め、生徒の持っている健康診断の記載用紙にどのようなことを書き込むのなどを確認する。


 そして、ちょうどいいタイミングでカーテンを斬像に崩させるなどの騒ぎを起こさせ、それを心配して駆けつけた生徒を装い教室内に侵入、どさくさに紛れ、先程確認し偽装した記載用紙を紛れ込ませる、あるいは医師の持っている紙にチェックを加える等の処理をすませる。


 我ながら完璧な作戦であった。


 あとはひとりでにカーテンが崩れ落ちるという怪奇現象の目撃者を極力減らすためにもう暫くこの辺りで時間を潰していればいい。


 俺と遼は勝利を確信してほくそ笑む。


 「さ、そろそろ斬像を待機させますわよ」


 「よろしく」 


 俺は余裕な様子でそう言うと、自身の右目に手を当て斬像との視覚共有の準備をする。


 だが。


 「おいお前らそこで何してる?」


 突然背後から凛々しい口調の女性の声が響き俺たちは、嫌な予感を抱えながらゆっくりと振り返る。


 「あ、···き、桐原先生、ど、どうも」


 「なんだ?その態度は?···ってまだ診断を終えてないじゃないか。さっさと済ませろ。淀川(よどがわ)先生も忙しい(かた)なんだからな」


 桐原先生は俺達の健康診断の記載用紙を眺め、触診を終えていない事を知ると、触診が行われている教室の方を指さす。


 「は、はい分かりましたわ」


 「りょ、了解した」


 「···」


 「···」


 「···」


 「おい、どうしたお前らさっさと行け」


 俺たちは桐原先生がどこかへ行くのを待っていたのだが、先生はその場から動くことは無く、何故か俺達が動き始めるのを待っているようであった。


 「私も今診断を行っている先生に用事があるんだ。だからお前らもさっさと済ませろ。私は忙しんだ」


 「で、でしたら、お先にお話になってください。その方が···」


 「いや、それでは意味が無い」

  

 頑なな様子で俺の気遣いを一蹴する桐原先生。


 「あ、私、トイレに行きたい」


 「そ、そうですわ。私たち急にトイレ行きたくなって列から外れたんでしたわね」


 「いや、待てお前ら」


 「「ぐっ」」


 強引に襟を掴んでトイレに行こうとする俺達を止めた桐原先生は教室の中をのぞき込む。


 「あと2人しか並んでないじゃないか。そのぐらい我慢しろ」


 そして、そのまま無理矢理に教室の中に俺たちを連れこみ俺を3番目、遼を4番目の椅子に座らせその後ろで腕組をする。


 こ、こここ、怖ー。


 何この人、俺達は大掃除までして問題児というレッテルを完全に払拭し、優秀な生徒という認識に変えたというのに、何だこの仕打ちは?

  

 というかやばいぞ。作戦が全てパーになってしまった。流石に桐原先生が見ている状況でさっきの作戦を実行するのはリスクがあまりにも高すぎる。


 ···ダメだ。1人では何も思い浮かばん。そうだ遼は?


 俺はそう思って遼の方に目を向ける。


 「や、やべぇ、嘘だったのにまじでトイレが限界になって来た」

 

 ダメだ、こいつは使い物にならない。


 顔面蒼白でボツボツとそんな独り言を呟いている遼を見て俺は1人でこの場を乗り越えなくてはならないと悟る。


 そして何だかんだと時間が経って俺の番がやって来てしまう。


 俺は立ち上がって、もう1度遼の方を見る。


 すると流石に心配しているのか、遼は尿意を気にしながらも俺の目を見返してくる。


 大丈夫だ、お前は漏らさないかだけを心配していればいい、あとは俺に任せておけ。


 そう心の中で相棒に語りかけ、俺は改めて戦場に赴く戦士のような面持ちでカーテンをくぐる。

 

 すると、そこには70代ほどに見える白衣を着たおっとりとした見た目の背の低いおじいちゃんが椅子に腰掛けていた。


 くー、無害そうな顔をして一体何人ものJKの柔肌に聴診器を当ててきたと言うんだ、このエロジジイは!


 どうせ、夜な夜な隠し撮りしておいた写真を見て、そのJKの肌の感覚を思い出したり、勝手にランキングを付けてコレクションしているのだろう。


 ···ふ、ふふ、いいだろう。甘んじてこの俺もお前のコレクションに加わってやろうじゃねーか。


 幸い骨格の写真が記録として残らないこの触診ならバレない可能性は大いに有り得るからな。まあ、せいぜいランキングの上位者としてファイルの最初の方にでも加えるといいさ。


 だが、だがもしも俺たちの秘密に気づく様ならば、その時はお前の記憶が吹き飛ぶまで殴りつけ、その(のち)に去勢して記憶と煩悩を消し去り、ボランティアの事とかしか考えられないような聖人にしてやるからな、覚えておけよ。


 俺はそんな思いが篭った瞳でその老人を睨みつける。

 

 そして老人の前の椅子に座わる。


 「さ、では"出してもらおうか"」


 「···」


 俺は老人の言葉に若干躊躇しながらも、ゆっくりと服に手をかけめくって行く。


 これでいいのだろうエロジジイが。


 俺は服を数センチめくった所で1度老人の顔を見る。


 だが、老人は鼻の下を伸ばす訳でもなくて、ただ不審そうな表情を浮かべていた。


 な、なんだその顔は?まさか気づかれた?こんな一瞬で?


 やはり何千人、何万人のJKを見て来たこいつには、例えどんなに見繕おうが、JKと薄汚い女装男の根本的な違い、もとい男根的な違いに気づく事など容易という事か?

 

 く、くそっ、やるしかない、やるしかないんだ。俺らの青春の為、お前には真人間になってもらう。


 「神具展開、百騎一閃」


 俺は小声で神具を呼び出し、百騎一閃を峰打ちをする様に持ち軽く振りかぶる。


 「しっぬぇっ!?···」


 「おおーすばらしい!!」


 その老人は興奮した様子で立ち上がると、すごい速度で俺の手から百騎一閃を取り上げ触って確認しながら何度も頷き、同時に色々な角度からも観察する。


 そして機械に繋がった電極のクリップのようなものを百騎一閃に取り付けると、機械を作動させる。


 「最初、なんか脱ごうとしてたから普通の診断と間違えてるのかなーって思ったけど、あれは神具の展開に必要な工程なのかい?···ああ、もしも答えにくい事なら別に答えなくていいよ。ただの興味なのでね」


 「え、ええまあ、そんな所ですわね。シャツを出した方が私的には戦いやすいので癖といいますか···ははは」


 この老人の話を聞いて、この検査は神具を対象としたものであると悟った俺は少し焦りながらも話を合わせる。


 「ああ、そうなんだ。···いやいや、それにしても君の神具は形が洗練されていると言うかなんというか、とにかく美しいね。見る人によっては地味と言われてしまうかも知れないけど、日本人らしい無駄を省いた合理性と奥ゆかしさが同居した見た目だ。資料によるとこれと全く同じものを百本も扱えるんだよね。いやいやすばらしいよ。出来ればもう一本だして見せてくれないかな?」


 「あ、ありがとうございますわ。ええどうぞ」


 俺は苦笑いを浮かべつつもう一本、百騎一閃を召喚しその老人に手渡す。


 すると老人は少年の様に目を輝かせながら、検査が終わるまでの間、俺の神具を観察する。


 ああ、このおじいさん、そっち系だ。いわゆる神具オタクって奴だな。あと、貴方の後ろにも実はもう一本隠しているんだけどね。


 「ああ、忘れてた。僕はこの学園で神具のメンテナンスや研究、後は訓練施設などの設備を任されている淀川(よどがわ)武士(たけし)ってものです。まあ皆からは教授ってよばれてるからよろしくね」


 「え、ええよろしくお願いします」


 妙に砕けた口調が目立つその老人は俺の神具を観察しながら片手間に自己紹介を済ませる。


 そうこうしているともう一本の百騎一閃とクリップで繋がっていた機械が検査が終了した事をしらせる音を鳴らし始め、淀川教授は名残惜しそうに俺に百騎一閃を返しデータを確認する。

 

 「うん、特に変な所はないね。···まあもしも、なにか神具の不調とかがあったら僕は学園に常駐してるからいつでも訪ねてきてよ」


 「ええ、ありがとうございますわ」


 男である事で他の女性の検査結果と比べて不自然な数値が出ないか一瞬だけ心配したが、それは杞憂に終わって、もう一本の百騎一閃も無事返還された。


 そして、俺は逃げるようにそそくさとカーテンを潜り、その場を後にすると、次に検査を受ける遼に向けて親指を立て、自身の無事を示すサインを送った。

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