表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/152

朝倉祭 4

 明朝、俺は鈴原神社入口付近にて、各校の代表である異なった制服を着た女子高生達と共に集められ、神社の神主の御子(みこ)巫女(みこ)御子(みこ)に先導される形で観客が見守る中をゆっくりと神社内へ歩いていた。


 まあ、言わばお相撲さんが神社でやる奴だな。


 この後は四股を踏む代わりにそれぞれ神具を展開して観客などに披露し楽しませて、その後よく分からん儀式的なのがあった後に試合が始まるってな感じのスケジュールだ。


 ···。


 うん、まあ、それはそうとだな。


 「すごい、今、目が合ったわ!」

 「かっけぇ」

 「ママー、ほら、こんなに近くにいるよ」

 「嬢ちゃん達、いつもありがとうな!!」


 これはこれは、うん、悪くない。


 周りから飛んでくる声援にすっかり気を良くした俺は笑顔を振りまいたり手を振り返したりしてそれらに愛想良く応える。


 しかし、そんな中。


 俺は見物客から少し離れた所で他の人達とは違った笑みを浮かべた女子高生のグループを発見する。


 制服から察するに彼女達は俺の前を俯き気味で歩いている()の同級生であるようだったのだが···なるほどそういう感じか。


 俺はそれらの少ない情報から何となく状況を理解する。


 差詰め俺の目の前のこの娘はあっちの女子達に嵌められてここに立たされているのだろう。


 そしてその様子を笑いに来たという訳だ。


 全く、どこの学園の奴等かは分からんが、わざわざ遠くまで電車賃を払って来といて下らない事をするものだな。


 だがまあ、可哀想だが他の学園の事情に首を突っ込める程、俺の首は回っていない。悪く思わないでくれ。


 と、そんな事を考えている内に10分程が経ち所定の位置までたどり着いた俺達はそれぞれ神具を展開させ、カメラや観客に向けてパフォーマンスを行う。


 そして、それから"現"朝倉御子である38代目の挨拶やよく分からん儀式的な事が行われた後、御子同士による奉納試合を行う本堂前の広めの空間へと移動し、そこで待機する様に指示を受ける。


 「ふぅ、さああっちの様子はどうかな」


 俺は騎士の家のことが気になり思わずそう呟く。


 やはりあまりにも離れた位置の斬像を操作するのは難しく片手間に出来るものではない。


 そう思いながら俺は手で片目を覆い、騎士の家に待機させている斬象に意識を集中する。

 

 そして正座している状態で固定していた斬像に入り込んだ俺はゆっくりと目を開けた。


 まず最初に目に入ったのは椅子に座り本を読んでいる騎士の姿であり、その様子からどうやらまだ母さんはここに来ていない事が理解出来た。


 「□□□」


 とここで騎士が斬像が動き出したことに気がついた様で何か声を掛けてくる。


 がしかし、斬像には音を聞く機能は備わって居ないため俺はそれを理解することが出来なかった。


 そのため斬像の俺は首を傾げながら、ジェスチャーで何か物を書いている仕草をして騎士へと伝える。


 すると流石と言うべきか騎士は直ぐにその意味を察して斬像と自分の分のペンと紙を用意する。


 そして。


 "お前の母親はまだだ。そっちはどんな感じだ?"


 と筆談で俺に訊ねる。


 "こっちは開会式的なのが終わったとこ、これからちょっと休憩挟んで試合だ"


 騎士の質問を受けて、俺も渡された紙に文字を書いて騎士に見せる。


 そして続け様に母親が来た時の手筈を確認する。


 "作戦通り母さんが来たら、この斬像に軽く触れてくれ、あまり勢いよく触ると一般人のお前がやっても簡単に消滅するから気を付けてくれよ。で、そうしたら俺が足止めして欲しいか、そのまま招き入れていいか指示を出すからその通りに頼む"


 最初はジェスチャーで指示を出すつもりだったが、この筆談はかなり良い、細かい指示も出せるし本番でも利用しよう。


 と、そんな中。



 「□□□□!!」



 と、作戦を確認しあっている俺の耳に何処からか音が入ってくる。


 ほんの一瞬だけ混乱したが、斬像は音を聞くことが出来ない為、それが俺本体の方での事だと理解する。


 "向こうで呼ばれている。何かあったら宜しく"


 俺はそうメッセージを残すと斬像から意識を自分の身体へと戻す。


 「お前何見てんだよ。っておい!聞いてんのか?」


 俺が意識を完全にこちら側に戻すと、俺の目の前には先程見かけた、いじめっ子と思われる女子高生達が存在していてベンチに腰掛けている俺はそいつらに絡まれていた。


 それから俺は辺りを見渡たし、ほぼ無意識の状態で試合が行われる本堂前から少し離れた所のベンチに座った事を状況から把握する。


 これは例えるなら酒に酔った時の行動に似ていて、居酒屋に居た所から記憶はほぼないのに何故か家に帰れている的な原理だ。まあ酒飲んだ事ないから実際にそうかは分からないけどな。


 そして俺はもう一度周りを見渡し、そこに先程俺の前を歩いていた娘がいる事も確認して大体状況を把握した。


 まああれだろ。無意識下でこの場所に座ってひたすらボーッとしていた俺はきっと彼女達の事をガン見していたのだろう。


 それで"おい何見てんだよ"的な感じになったのだろう。。


 全く面倒くさい。···はあ···よし。


 「何を見ている···ですか。ふふ、ならば逆に問いましすわ。果たして私は、いえ、私達はこの情報が溢れかえる世界で何を見るべきなのでしょうか?また何を見るべきでないのでしょうか?···人の数だけ視点は存在し、世界は存在する。そして同時にその数だけ正しさも存在しますわ。そんな中で真実とは如何なるものなのでしょうか?」


 俺はこの場を適当に切り抜ける為、めちゃめちゃに薄っぺらな訳の分からない事をそれっぽく言いながらポーカーフェイスな感じで不敵に笑ってみせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ