朝倉祭 3
そんなこんなあり朝倉祭と母親来訪を明日に控えた金曜の夜。
下準備など色々とする事があったのに加えて明日の朝どのタイミングで母さんが来るか分からないため、今日は騎士の部屋に泊まることに決めていた俺と遼は作戦成功を祈りながら、何時もは九条学園の自室で行っている宴を騎士の部屋で開催していた。
本来、学生寮には門限があり、外泊など許されてはいない為、こんな危険を犯す様な行為はしたくは無いのだが、まあ今回だけは仕方ないだろう。
「で、明日はどういう予定で行くんだ?」
「ああ、まあ母さんが来たら、今回朝倉祭が行われる鈴原神社の近くを散策しつつ、試合の時間だけ適当な理由を付けて会場に戻って戦うって感じかな」
騎士の問に対し、俺は無計画且つ、無理のある作戦を口にする。
だが、それは普通の人ならだ。
「まあ一応お前は瞬間移動出来るし、無理では無いだろうけど、あれって結構体力使うって言ってなかったか?」
「まあな、でも禍津解錠に備えて修行したお陰で出来る回数は結構増えてるし大丈夫だろ。後は悔しいが朝倉祭の勝率には拘らないで、負け越さなければいいって気持ちで臨めば問題ないだろう」
朝倉祭は全国の御子を育成する学園の中から特にエリート高と呼ばれる9つの学園の代表が最初は2グループに別れて総当り戦をしてその中で勝利数の多い2人づつが準決勝へと駒を進めるというよくある形で行われる。
つまり少なくとも3~4試合はしなくてはいけないという事になる。
また準決勝へと進んでしまうと勝っても負けても追加で2試合する事が確定になってしまうので目標は予選3位での敗退だ。
俺を推薦してくれた桐原先生には非常に申し訳ない事だが、背に腹はかえられない、今回はこの作戦で行かせてもらうとしよう。
「さあ明日は忙しくなるぞ。···と言う事でお前達にはしっかりと働いて貰うから頼んだぜ。···ほら今日は俺の奢りなんだから目いっぱい飲んで食べてくれ」
俺はそんな事を言いながら楽観的に笑い、デリバリーのピザを口に運ぶ。
と、そんな時。
ピンポーン。
と家のインターホンが鳴る。
「ん?ああ宅配かな、ちょっと行ってくる」
騎士は"何か頼んでいたものがあったか?"と少し疑問に思っている様な表情で首をかしげながら玄関へと向かう。
「珍しいなこんな時間に」
「本当に配達業者の人には頭が下がるぜ」
騎士の様子を横目で見ていた俺と遼は無関心にそんな事を呟く。
だが数秒後。
ドタドタドタと廊下をかけ戻ってくる騎士の足音が響き、その後すぐにリビングのドアが開け放たれる。
「お、おい、お前の母親来てるぞ」
「···は?」
いやいや、来るのは明日の朝一って言ってたぞ。何言ってんだこいつは···。
···。
あっ、でもそう言えば母さんは"そういう人"だった。今思い出したわ。
「やっほー、母さんですよー。ってあれ!何何?皆で宴会の真っ最中ってやつ?」
騎士から遅れること数秒後、人の家にも関わらずズケズケと上がり込み、リビングへと入って来たその黒髪ロングの女性は間違いなく、紛れも無く、俺の母親、吉野宮希咲であった。
「か、母さん!?来るのは明日って言ってただろ!!?」
「うーん、イッツァサプラーイズ??母さん暁良君に早く会いたくて予定よりも早い飛行機で来ちゃった♡」
ぐっ、ムカつくー!!
·····って、いやいや落ち着け落ち着け。
この世界に数多ある人をムカつかせる行為の中で絶対に上位に来るであろう母親のテヘ顔と萌え声を同時に食らったのに加え、しっかりと立てた予定が崩されてしまった事も重なり激昴寸前の俺は深呼吸を1度する事で何とか気を落ち着かせる。
「そ、そうなんだー、で、でも今日の所はほら、この2人とパーティーの最中だからさ、息子が友人と楽しくやっている中に母親も混ざるってのはちょっと違うと思うぜ?ほら明日になれば色々付き合っ···」
「あっ、貴方がもしかして暁良君の彼女さん?」
「っておい!!」
母さんは俺の言葉を右から左に受け流し、遼の元へと駆け寄るとほんの僅かに遼の顔を観察しながら問い掛ける。
「えっ、いやー···」
珍しく動揺しながら助けを求める様に俺の方を見る遼。
それに対して仕方無しに俺は母さんの死角で数回頷き、母さんに合わせるように遼へと指示を出す。
「ええ、お、お付き合いさせて貰って、ます」
「うんうん、これからも家の子を宜しくね〜。···んでこちらの方が」
そして、母さんは数回遼と繋いだ手を振ると、次に騎士に目を向ける。
「貴方が暁良君の居候先の方で···暁良君の···彼氏?」
「??···はあ!!??」
母さんの冗談なのかそうでは無いのか分からない問を受けて、動揺し遼同様に助けを求める様にしてこちらを見る騎士。
それに対し俺は今度は思い切り首を横に振る。
「い、いえ違います。俺はただ空いている部屋を貸しているだけでして」
「えー、そうなの?残念」
母さんはそう呟くと本当に少し肩を落とす。
何が"残念"じゃ、こいつは。
「こほん、ほら母さん明日色々と相手してやるからさ、今日の所は帰ってくれよ。どっかのホテル取ってんだろ?」
これ以上母さんに好き勝手にされるのはマズいと踏んだ俺は今度こそ、そう切り出す。
「うーん、そうねー···」
それを受け母さんは少しの間、顎に手を当てて考えてる。
そして。
「確かにそれもそうね。じゃ、また明日来るから。···あ、そうそう取り敢えずこれお土産ね、置いておくからみんな好きなの持っていって。それじゃ、ばいばーい」
と母さんはにっこりと笑い、手に持っていた荷物をその場におくとそのままリビングを出ていく。
「はあ···」
やけに聞き分けが良くて少し怖い気持ちはあるが、取り敢えず今日の所は何とかなった。
俺は母さんが置いていったマトリョシカなどの世界の国々のお土産の入った紙袋を取り敢えず、部屋の端の方へと移動させつつ気持ちを落ち着かせる。
「あー、ホントにごめんね」
そして、嵐の様に現れ過ぎ去って行った俺の母さんを目の当たりにして言葉を失っている遼と騎士に謝罪をした。




