朝倉祭 2
母親からの突然の電話から4日後の夕方。
「焦りはしたが、これは何とかなるのではないか?」
九条学園から徒歩20分程の場所に用意したボロアパートの一室で俺は独り言を呟く。
この部屋は禍津解錠での報酬を半分以上費やし、大野木さんに用意してもらったものであったが、流石と言うべきか、置かれた電化製品や家具は新しいが新品では無い、数ヶ月間ろくに掃除をしない男によって汚された位の絶妙な汚れ方をしていた。
「後は母さんが帰って来るまでこの部屋で寝泊まりをしてより生活感を出せば、ふふふ、完璧だ」
因みに俺は警備会社に就職したという設定にして、母さんを騙す為にブラクラさんに依頼して既存の警備会社と名前のよく似た、存在しないはずの会社の社員証と簡易的な名刺を製作してもらっていた。
あとはこれらの小道具をチラッと見せて、それ以降はわざわざ墓穴を掘るような事をしないように心掛けて行動すれば完璧だろう。
「ふう」
俺は疲れからため息をもらすとベットに仰向けで倒れ込む。
この部屋は九条学園の自室よりは数段狭く、6畳くらいの空間であったが何だかやけに落ち着いた。
「もしも神具を使える様にならなかったらこの暮らしが本当になってたんだよな〜」
そして天井を見つめながら、有り得たかもしれない、もしもの世界の事を考えて真顔で呟く。
するとそんな時。
ピンポーン。
とアパートのチャイムが鳴る。
「はいはい、空いてるぞー!!」
俺はチャイムを鳴らした人物に対して、大きめの声で返事をしながら玄関へと向かい扉を開く。
「おう騎士よくきたな。まあ、上がれよ」
「お、おう」
そして、俺は騎士を部屋の中に招き入れると一個しかない狭い部屋へと案内する。
「どうよ。この計算され尽くした汚さ。このリアリティ」
俺は無駄にドヤ顔で騎士に笑いかけ、そのまま騎士の顔を見ながら反応を待つ。
騎士は頭が良い上に今現在1人暮しをしているのでなにか俺が見落としている事を指摘してくれるかもしれない。
と、俺はそう考えて騎士をここに呼んだ訳だが······、うーん、なかなか感想を言わねーな。
「おい騎士?ちゃんと見てるか?」
「あ、ああ。まあいいんじゃないか」
「ん?なんだ歯切れの悪い言い方だな、何かあるなら言えって」
「いや、まあこれなら普通に騙せるとは思う。ただ···」
「ん?」
「お前未成年だろ。部屋借りるのに保護者の許可とか居るんじゃないか?···というか、そもそも今まではそう言うの心配されてなかったのか?」
「あ···」
···。
盲点だった。
ブラクラさんか大野木さんに頼めば個人情報とかの偽装はすぐに出来たから全然考えてなかったんだ確かにそうだ!
てか母さんは母さんで、今、俺はどうやって暮らしていると思っているんだ?
少なくとも引越しをして実家は空けてるって事は一応伝えていた筈だから、会社の寮で暮しているとでも思っているのか?
···くっ、あっ、いやだが、母さんは色々抜けてる所があるから気にしないかも、···うーん、ああ、いやでも。
「おい、大丈夫か?」
おそらく顔面蒼白で押し黙っていたであろう俺を見て騎士が心配して声をかけてくる。
「ああ、OKOK気にするな。余裕ー余裕ー。ははは」
どうする、どうする。誰かに保護者の振りをしてもらって契約したことにするか···。
いやいや、そんなの普通に怪しい。
先程と同じで騙せるかもしれないが、普通にバレてしまうかもしれない。
く、くそぅ。
「な、なあ、暁良···」
「大丈夫、今、手を考えてるから」
「いや、なら俺の家に居候してる事にするか?」
「え?」
騎士のその提案を聞いた瞬間、数m先も見えない霧の道が一気に晴れ渡ったかのような情景が俺の頭の中に浮かぶ。
「い、いいの?」
この部屋を用意するために支払った金は滅茶苦茶痛いが親フラを回避出来ればそれだけで十分だ。
俺はそう思いながら、苦笑いを浮かべ騎士に対して媚びへつらう様に首を傾げた。




