朝倉祭 1
放課後、職員室にて。
「朝倉祭ですの?」
「ああ、朝倉祭とは、初代朝倉御子の偉業を称えて催される物で、日本の御子を育成する学園の中から代表者が集まって奉納試合をするというものだ。···というか、こんなのは御子の中では常識だぞ」
「も、申し訳ありません。何分、神具を覚醒させてから日が浅いもので···」
「···まあいい。それでだな、九条学園では毎年優秀な1年生からそれの出場者を選んでいるんだ」
「な、なるほど、で、それに参加して見ないか?という事ですの?」
「ああそうだ」
「···うっ、いやでも私に務まるかどうか」
急な桐原先生からの提案に俺は若干戸惑いながら謙虚に返事を返す···振りをするが、内心は受ける気満々で心の中でガッツポーズを決めていた。
「まあ、強制ではないが私は適任だと思っている。どうだ?」
「え、ええ、そこまで仰っていただけるなら···はい、是非やらせてもらいますわ」
俺は軽く頭を下げつつそう言うが、僅かに下を向いた顔は下品な表情を浮かべている事だろう。
何だかよくわかならないが要するに御子の新人戦みたいな物だろ、それに優勝したとなれば俺の学園での地位や人気は不動の物となるに違いない。
「誠心誠意頑張らせて頂きますわ」
そうして俺は最後に桐原先生に向かって意気込みを語るともう一度深くお辞儀をして職員室を後にした。
「···という事があってだな」
そして朝倉祭出場が決まった翌日の土曜。
遼とともに男の格好で回転寿司屋に昼食を取りに来ていた俺はしたり顔でその事について報告する。
「あー、朝倉祭ね。確か禍津解錠で延期されるかもしれなかったけど、結局予定通り来週に催されるんだっけか?···って、あれは確かテレビ局のカメラとかも入るやつだぜ。流石に目立ち過ぎだし危険だろ」
「馬鹿おめえ、何言ってんだ、俺の女装は完璧だぜ。バレる心配する必要なんて無いって」
俺達の正体が露呈してしまう事を心配し、忠告してくる遼の言葉を聞き流しつつ、俺はレーンを流れてきた寿司を取り口に運ぶ。
「はあ···ったく、マジで気をつけろよ」
と、遼は俺の楽観的な態度を見て諦め、呆れた様子でため息をもらすと昼食へと戻る。
そして。
「なあ、話は変わるけど回転寿司屋でハンバーグとかカツの寿司とかしか食べない女の子って可愛くない?」
「んー、ほんのちょっと分かるかも」
などとたわいも無い会話を繰り広げながら食べ進めていき、お互いに10皿ほど平らげ、食後の余韻に浸っていた。
その時。
♪♪♪
と、急に携帯電話の着信音が鳴り響く。
「ん?だれだ?」
手を拭いた後、ポケットの携帯電話を手に取り、すぐ様電話に出る。
「もしもーし、暁良君?母ですよー」
「うわっ!?」
電話から突然響いた聞き覚えのある声に驚き、俺は携帯電話を耳元から話し、着信主の名前に母と表示されているのを確認する。
···く、くそ、普通にビビっちまった。
よく考えたら母と話すのは九条学園に入学して以降は初めての事だった。
流石に俺自身後ろめたい事をしている自覚はあるので、母と会話などをする時はそれなりの覚悟を決めようと思っていたが、ちくしょう、こんな急に訪れるなんて。
···いや、だが怪しまれないように持ち直さなくては。
と、気持ちを整え、俺は平常心を装って再び耳元に携帯電話を持っていこうとする。
だが。
「ん?誰からの電話」
不意に遼が俺の携帯を覗き込んでくる。
「え?今の可愛い声は誰?誰かと居るの?···うーん、あっ、分かった彼女でしょ、そうでしょ!」
一緒に暮らしていた時と変わらない、底無しに明るい様子で言葉を畳み掛ける母。
「あ、ああ、い、いや、ま、まあそんな感じ、かなー。ほら職場の同僚」
「なっ、てめー!」
依然混乱している俺は、遼を男として伝えるべきかどうするか迷った挙句、母の戯言をそのまま採用してしまい、遼の反感を買う。
因みに俺は中学を卒業してすぐ就職した事になっていて、母もそれを信じている。
「へー、隅に置けないなー、暁良君は」
「ああ、で、結局なんで電話して来たわけ?あー、ほらデート中だからさ、どうでもいい要件なら切るけど」
「ああ、そうね。じゃあ···」
いち早く電話を切りたい一心で嘘を重ねる俺。そして、それを信じた母は要件を簡潔過ぎるほどに語り始める。
「母さん1週間後に日本に帰るから宜しく。その時は彼女さんに合わせてねー。···と、それじゃ、おじゃま虫はこの辺で、バイバーイ」
「え、ちょっとまっ!?」
···ツーツー。
······。
「親御さんなんて?」
「···1週間後に来る···らしい。やばい、めっちゃやばい」
1週間後って言うと朝倉祭と丸かぶりだ。
というかそれ以前に俺は母さんの前では普通の職場で働いている社会人である様に振る舞わなくてはならない。
住まいの確保などのその他辻褄合わせや、自分が何処で働いている人間であるかなどの設定を1週間で組み上げなければならない。
そんな事を考え、冷や汗をかく俺を見て遼も事情を察したか、空気を読み黙りながら、少し不安げな表情で俺の顔を見つめていた。




