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禍津解錠 16

 「やったな。遼」


 「おう」


 暁良は瓦礫の上に座った遼の元まで駆け寄ると手を差し伸べ、遼の方もその手を素直に握り返す。


 そして、遼を立ち上がらせるとお互いの顔を見ながら笑い合う。


 力を全て出し切りフルマラソンを走りきった様な感覚の2人は、再び神具を発動する事はおろか立っているのもギリギリであったが、同時に強い達成感と清々しさを感じていた。


 更にそうしている内に禍津解錠の空間もあと100mほどに迫っていて、その事も2人の清々しさをより強める要因になっていた。


 だが、その時。


 ガラガラッ···。


 と僅かに瓦礫が崩れる音が響き、暁良と遼は嫌な予感を感じながらそちらに視線を向ける。


 その方向は正しく先程リカルドが落下した場所であった。


 「「···」」


 沈黙し最悪の事態が起こらないことをひたすらに願う2人。



 ···だが現実は非常に残酷であった。



 ひたすらに長い数秒間の後、瓦礫を弾き飛ばす様にして何者かがそこから姿を表す。


 それはなんの捻りもなくリカルドではあったのだが、先程まで見ていた彼とは少々姿が異なっていた。


 リカルドは肌の色を紫っぽく変え、鬼のような2本の角とドラゴンの様な羽と尻尾を生やした状態で暁良達の前に再び立ち塞がっていた。


 「まさか貴様らにこの姿を晒す事になるとはな···」


 自身の復活とその真の姿に唖然とする暁良と遼を見下しながら笑うリカルド。


 しかし彼は暁良達の事などお構い無しに、片手を上空に挙げ、そこに巨大で禍々しい色のエネルギーの球体を生じさせる。


 そして、その手を軽く2人の方向に向けて振り下ろして、エネルギーの球体を放った。

 

 「くっ···くそ」


 襲いかかってくるリカルドの攻撃に対して、力を使い果たしていた暁良達は、神具の力を使う事が出来ず何とか自力で逃げようと試みる。


 がしかし、生身でどうこう出来るものではなく、2人はエネルギーの球体に飲み込まれてしまいそうになる。


 だが、その瞬間。


 「神具展開、空語(そらがたり)」 


 女性のそんな声が響き、暁良達とエネルギーの球体の間に割って入って来た、2本の短刀を持った人物によってその攻撃は防がれる。


 がしかし、それでも完全にリカルドの攻撃を相殺する事は出来ず、衝撃波によって暁良達諸共は数m後方に吹き飛ばされる。


 「くっ···。っ!!?」


 だが暁良は吹き飛ばされる中で自分達が収束している禍津解錠の空間から外に押し出された事に気がつく。


 「ちっ、悪運の強い奴らだな。···まあよい、お前達を殺すのはまた次の機会にしといてやる」


 そう言うとリカルドは5m程の範囲にまで迫った禍津解錠内で最初の人間の男の姿に戻る。


 「その時まで精々精進する事だな。まあ覚えていたらの話だが···」


 そして最後にそう言い残すとリカルドは禍津解錠が消滅するのと共に忽然と姿を消した。







 ···。


 ······。



 「おわった···終わったぞー!!···っ!」



 暁良は嬉しさのあまり両手を上に挙げて喜びを顕にするが、直ぐに自分達を助けた人物の姿を確認し手で自分の口を抑える。


 「こほん、あ、ありがとうございますわ。桐原先生」


 そして咳払いを1度した後、命の恩人である担任教師の桐原香澄に感謝を伝える。


 だが。


 「いや、そんな事よりもさっきの奴、禍津ノ王ってのは何なんですか!それに最後のあの姿はどういう事ですか!!桐原先生!説明してください!」


 しかし遼はすぐ様、先程の謎の敵について香澄を質問攻めにする。


 「あはは、遼さんたら戦いでハイになり過ぎて口調が変わってしまっていますわよ」


 口調を変えるのを忘れてしまった遼をフォローする為、愛想笑いを浮かべた暁良が2人の間に割って入る。


 「···」


 「なんで何も言わないんですか!先生!」


 「···ふぅー、すまない、それは···言えない」


 「何で!」


 尚も香澄を問い詰める遼、しかし香澄はそんな遼に対して短刀を向ける。


 「···」


 「!?」


 「本当にすまない」


 悲しそうな顔でそう呟いた香澄は以後は全く躊躇すること無く、短刀をそのまま遼の額に差し込む。

 

 「ぐっあぅ!!?」


 それにより、遼は苦しそうに声をもらす。だが短刀が刺さった額からは血などが吹き出ることはなく、遼は充電切れのアンドロイドの如く、機能停止したようにその場に膝を着く。


 「って、桐原先生!一体何を!!」


 「すまない。君達の戦いぶりは素晴らしかった。だがそれでも上には足りないと判断されました」


 「何言ってんすか!」


 「···」


 しかし、香澄はそれ以降は喋ることは無く、残ったもう一本の短刀を暁良に向ける。


 「ちっ···」


 状況はまったく把握出来なかった暁良であったが、仕方なしに数歩後方へと下がり、戦いに備えて神具を呼び出そうと構える。


 「神具展開、百騎一閃!」


 暁良はそう叫び刀を呼び出す。しかし、呼び出された刀は非常に曖昧な存在で実体化され、実体化しては薄くなりを繰り返していた。


 「ぐっ···」


 「安心しろ、ただ忘れるだけだ。ここで起こった事を」


 そんな声と共に気が付くと暁良の額にも遼同様に香澄の短刀が突き刺さっていた。


 そして、暁良もまたゆっくりと膝をつき、そのまま横向きに倒れ込んでしまう。


 「···」


 それから香澄は尚も悲しそうな表情で数秒間2人を見る。


 ♪♪♪。


 と、そんな時に香澄の携帯の着信音が鳴り響き、彼女は暁良達から視線を外さずにその電話に出る。


 「もしもし···ええ、命令通りに。···はい···はい···了解しました」


 そして香澄は電話相手に丁寧に対応してから電話を切り、ため息を1つもらした後、ゆっくりと暁良達の方へと歩き始めた。

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