禍津解錠 14
「貴様、王である俺を愚弄するか···」
口調こそ荒れていないものの、殺気に満ち満ちたオーラを纏いながらリカルドが言い、剣を構える。
しかしその時。
「って、この馬鹿!煽ってどうすんだよ」
「ぐはっ!」
遼が暁良へと1発腹パンをいれ、それにより暁良は腹を抑え僅かに前屈みになる。
「す、すまん。思った事をつい口に出しちまう俺の悪い癖が···」
「お前ほんと馬鹿だな、マジでよー、······大体お前は□○▽□◎···」
遼はリカルドの代わりの言わんばかりにその後も思い切り説教を繰り広げる。
「は?お前、そんなに言うことはねーだろ。おい!」
「なんだとこの野郎!」
そして、一方的な説教は今度は喧嘩へと変わっていった。
そうして更に数分。
その言い合いがようやく終わると猫背の状態の暁良が後頭部を擦りながら1歩前に出る。
「あー、済まない。さっきの話は誤解なんだ。ほら"どうてい"ってあれ、違う意味の方、王様の目的を達成するまでの道半ば的な意味、···ほらあれだよ、高村光太郎の方の奴」
「···」
「ですからそのー···」
「もう良い。お前らのやりたい事は分かった」
「?」
意味深な事を呟いたリカルドは、それから一気に暁良達との距離を詰め、斬撃を放つ。
暁良達はそれを何とか躱すが、リカルドが剣を振るった後の地面には100m程に亘って崖と言ってもいいレベルの穴が空いていてそれを見た2人は息を飲む。
「ちっ、暁良!絶対に刀でこいつの攻撃をウケるなよ」
「ああ、分かっている」
そう言葉を交わした遼と暁良はこの場に数体の斬像、そして鎧鬼を召喚し、暁良達はそれぞれ逆の方向へと逃げる。
「やはりか」
暁良達その行動を受けて、残されたリカルドはある事を確信する。
それは暁良達のこれまで行っていた事が全てただの時間稼ぎであったという事であった。
禍津解錠はほんの少しの誤差はあれど全てが大体同じ時間で終了してしまう。
その事を暁良達は今までのデータから知っていたため、作戦タイムと雑談、説教に喧嘩で出来るだけ時間を引き伸ばしたのだった。
「はあ、俺も猛省せねばならんな···」
そして自分の性格を逆手に取られたこの結果に対して、素直に反省の色を見せるリカルド。
それから暁良と遼が逃げた方向を交互に見る。
「まあ、やはりあちらを始末するか」
と、どちらか1人しか殺す事が出来なそうな現状を受けて、リカルドはそう呟くと暁良の逃げた方向を見て小さく笑う。
「やっぱりこっちに来たか。全く損な役回りだな」
斬像と鎧鬼をあっさり葬り、自信を追いかけてくるリカルドの存在を確認した暁良は冷や汗をかきながら苦笑いを浮かべる。
「それにしてもあの魔装っていう武器、神具とは比べ物にならねーな」
自身の後方で巨大な建物が豆腐でも斬るかのようにあっさりと真っ二つにされ、崩れ落ちる現状に思わずそんな事を思ってしまう暁良。
そしてもう一つある疑問があった。
「それにしても、こんなに滅茶苦茶やってんのに助けが1人も来ねーってどういう事だよ。···いや、来ても困っちまうけどさ」
更には、以前として無線も繋がらない状況が続いていた。いったいどういう事だ。
と暁良はそう思いつつも、自分の元まで追いついてしまったリカルドの攻撃を囮の斬像、そして、斬像のいる位置に瞬間移動する技、生キ写シを駆使して躱し続ける。
「はあはあ、ちくしょう。この技、体力使うんだぞ全く」
「そうか、なら早く死ね。そうすればもう1人を殺しに行ける」
「そうはいかねーんだよな!!」
そんなやり取りをしつつ、方や追いかけて攻撃を仕掛け、もう片方はただ逃げているだけという一方的な戦いが繰り広げられていく。
だがちょうどそんな中、遠くの方から徐々に禍津解錠により、薄暗くなっていた空間が晴れ始めているのが目視でも確認できた。
「くっ···」
「よし」
その様子に、リカルドは僅かながら焦りを見せ、暁良は小さく笑みを浮かべた。
 




