神具能力テスト+α 2
「やべぇ事になったな」
「···そうだな」
今日の予定が書かれた紙を片手に俺と遼は頭を抱えていた。
遼も俺と同じく健康診断の項目には目がいっておらず、顔色悪く予定表を凝視していた。
前もって健康診断の存在に気づいていれば、予め家庭の事情などをでっち上げ上手く休むことが可能であったが、直前だとさすがに少し怪しい上に、俺の培おうとしている優等生のイメージが崩れてしまう。
それに神具能力テストで好成績を取ることは周りから慕われるキャラを目指す俺にとって必須項目でもある。
そう考え改めて予定を見ると午前中が健康診断、午後が神具能力テストとなっていて、午前中の健康診断を休んで午後の神具能力テストだけに出ると言うのは些か不自然な気がした。
「不自然かもだが午前中は体調不良で休んで午後から元気になったって言って能力テストだけには出るのが1番だろ」
俺の思考とリンクしていたかのように遼が口を開く。
確かに現状それが一番いい。···しかし。
「···いや。ダメだ。健康診断にも出よう」
「な、何故だ暁良?危険すぎる」
「まあ、落ちつけ遼。どちらにせよ2人ともが風邪で健康診断のみ休むと言うのはさすがに不自然だ。しかしだからと言ってどちらかが休みもう片方だけ出席すると言うのは今後の俺達の関係性に影を落としかねない上、どちらかの正体がバレたらもう片方の正体も公にするという契約になっているから1人に大変な役回りを押し付けるメリットも無い。だとするなら最初から2人で出席し助け合った方がいい」
「···くっ、確かにそうだな」
遼は俺の言ったことに賛同し、再びプリントに目を落とす。
「見ろ、ここに健康診断の内容が書かれている。これを見るとヤバそうなのは触診とレントゲンくらいだろう。触診は言わずもがなだが、レントゲンもプロが見たら男の骨格だってバレてしまう恐れがある」
「···うーん、まあ経験上、レントゲンは1番最後で触診はその前だと思うから、そこまでは普通に健康診断を受けてそこからが勝負って感じか」
「そうだな···よしじゃあ、作戦を練るとするか」
そして俺と遼はお互いの顔を見ながら含みのある笑みを浮かべ、作戦を考え始めた。
それから十数分後。
「よし、まあ触診に関してはこんなもんだろ」
「ああ、無茶にも見えるがお前の百騎一閃の能力を使えば可能だろう」
作戦は非常にシンプルなもので、触診に関しては検査の際、医者がどこに何を記入するかを予め確認しておき、その後にちょっとした騒ぎを起こして、そのどさくさに紛れデータを書き換えて触診を受けたという事にするというものであった。
しかし、もう1つのレントゲンはやはり俺達ではデータの改竄は難しく、"撮り忘れてしまった"として、極僅かながら自分達の評価を落とすしかないように思われた。
だが。
「方法はあるかもしれない。暁良お前少し金がかかっても大丈夫か?」
「あ、ああ、でも何をする気だ?」
遼は苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべつつ携帯を取り出し電話をかけ始める。
"はいはいもしもし〜、遼くんどうしたんだい急に?"
「大野木、お前に依頼したいことがある」
"おっと、いきなりだね〜。うーん、まあいいけどさ〜、それが人に物を頼む時の態度なの、って感じだわ。そこは「お兄ちゃんにお願いしたいことがあるの(ハートマーク)」とかでしょ?"
「うっざっ」
遼は電話の向こうの調子の良さそうな若い男の言動を受け眉間に皺を寄せる。
恐らく遼の通話相手は遼の家族の借金を肩代わりし、彼自信をこの学園に入学させた張本人であろう。
"酷いこと言うな〜。ま、どうでもいいけど。で要件は何?今日行われる健康診断の事かな"
「っ、なぜ知ってる?」
"いやいや、さすがに調べるさ。君を九條学園に送った張本人だよ僕は?そのぐらいの責任感は持っているよ"
「何が責任感だ。だったらお前が生きていることで確実に不幸になる人間が出てくるという事実に責任を感じて死ね」
"うわー、ひどいな〜、でもいいのかい?僕が居ないと今回の件は乗り越えられないよ?···まったく、せっかく作戦も用意してたのに君と来たら当日まで連絡がないんだもんさ〜。ほんと危機感ないよね"
「くっ···ちっ、で作戦てのはなんだ?」
掴みどころがなさそうな奴だが、作戦を予め用意してくれているということは、まあ完全に悪い奴という訳でもなのかもしれない。
と俺は感じたが、当の本人の遼は完全に我慢の限界寸前と言った感じであり、口を挟むこと無く経過を見守る事に決めた。
"簡単だよ。こっちで君の体格に似た体格の女性のレントゲン写真を用意して後で紛れ込ませるから、君たちはどうにか担当の医者を騙して受けたという事にするのさ。なんなら君たち以外の人が終わったら気絶させちゃっても良いしね"
「···なるほどな、でいくらだ?」
"おおー、話が早いね。うーん、そうだな〜、結構面倒くさい仕事だからなー、20万くらい?"
「に、20万!?高すぎるぞ!まけろ」
"いやいや、こちらも優秀なエイジェントを送らなきゃ行けないしさ〜。······ああ、でも僕も九條学園でやって欲しいことが出来るかもしれないから今回の件を貸1って事にして、15万円で手を打ってもいいよ?"
「···ちっ、白々しいこと言いやがって······分かった。だが、2人で15万だ。それでいいな?」
"2人?···まあいいか、それにしても中々面白いことになってるみたいだね"
「ああ、それじゃあ詳しい話をするぞ」
それから遼と大野木という男は依頼の擦り合わせを始めた。
それにより、時間を持て余した俺は先程、大野木という男が言っていた金額は妥当なのか少し気になり、スマホを取り出して電話帳から"ブラクラ"という人物を選択しメッセージに文字を打ち始める。
ちなみにこのブラクラさんは俺がこの学園に入学するに当たって協力してくれた方で偽装の身分証などを用意してくれた優秀な何でも屋であった。
そんなこんなで、事の顛末を丁寧に文章におこして送信すると、ほんの数十秒で返事が返ってくる。
"なるほどデータの偽装をしてそれを気付かれずに付け加えるという仕事ですね( •̀ᴗ•́ )/そうなるとレントゲン写真を偽装するのに5万円、紛れ込ませるのに6万円は欲しいかもですね( ´~`)なので2人分ということでしたので、紛れ込ませるのをサービスとしても16万円は欲しい所ですσ(≧ω≦*)依頼なさいますか(-ω-?)"
とそんな風にブラクラさんは丁寧な文章で返事をくれた。
なるほど、これを見ると大野木という男の提示した値段はあながちぼっくりでも無いのか。
俺は納得し、このまま遼に任せた方がいいと判断し、ブラクラさんに謝りの文章を綴り始める。
"申し訳ありません。今回は違う方に依頼したいと思います。聞くだけ聞いてすみません"
"いえいえ(^^)またの依頼をお待ちしておりますm(_ _)m"
本当にブラクラさんは優しい人だ。毎回句読点の代わりに使われている顔文字がそれを表しているようだ。
「おい暁良、お前身長と体重は?」
ブラクラさんについて考えていると突然、遼が質問してくる。
「ちょっと前から変わってなければ164cm、55kgだな」
「分かった、·····1人は164cm、55kg、あと153cm、46kgだ」
遼は電話先の相手にそう伝え、さらにしばらく話すと電話を切る。
それから俺達は必要なものの準備を全て済ませると、お互いの顔を再び見て笑い合い、部屋のドアを開ける。
「さあ、行きますわよ。遼さん」
「うん、行こう暁良」
そして戦場に赴く戦士のような面持ちで、部屋を跡にした。




