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食堂

短いです

 全面に貼られた黄土色の壁紙は、元は真っ白な壁紙であった。

 そんなバーゼにおいて、昔から営業しているどこにでもあるような食堂にミリオン達、三人は入った。

 店内はカウンター席が5つとテーブルが3つしかなく、カウンター越しに中で店主が料理している姿が見えるようになっている。三人が入っても、カウンターの奥の男はこちらを見ることも無く、代わりに同じくカウンターにいた30代くらいの女が三人を入り口付近のテーブル席に座る様に促した。


 お昼時だというのに、客はミリオンたちしかいなく、貸し切りの状態だった。そもそもが、冒険者が冒険に行ってる時間帯であるので、この時間にお昼をバーゼのどこかで食べようとする人はあまりいない。

 ミリオンたちが例外であり、ミリオンたちもまたこの時間に営業している食堂を結局、ここしか見つけることが出来なかった。貴族であるミリオンは本来、こういう大衆食堂にはあまり入らないのだが、他に店がやってなければ仕方ない。そもそもミリオンは貴族がどうであるとかあまり気にしない方でもある。





「好きな女の子のために英雄になろうとするなんて、物語みたいで素敵!! 」


 テーブルについた瞬間、セレが言う。そして感動に身を任せて、バンっとテーブルを叩いた。テーブルの上に置かれていた箸がカタカタと音を立てて揺れる。


「子供のくせによく分かってるじゃないか、セレ」

「子供扱いするな!」

「ああ、そうだったそうだった13歳のレディって設定だったな」

「だからそういう意味でもなくて! 」


 対面に座ったミリオンにセレは食って掛かったが、すぐに矛を収め、それよりもといったところで、頬に手を当ててうっとりとした表情を浮かべた。


「素敵だなぁ……、ミリオン様はいつかサーティスさんにとっての王子様になるってことだよね! 私が求めていたのはこういうのだよ! 」

「……王子様? 俺がなろうと思っているのは英雄だぞ、まあ子供からすれば似たようなものか」

「だから子供扱いするな! 」

「はいはい大人大人」

「もういいけどさ、変に反論した方が子供っぽいし……。それよりも私、決めた! 私、ミリオン様がサーティスさんと結ばれるように……ミリオン様が王子様になれるように協力する! 私に出来ることなら何でも言ってね」

「おっ、そうか、感謝するぞ! ……そうだ! 今日は後の偉大な英雄に可愛らしい協力者が出来た記念だ! セレよ、今日は好きなものを食え。……いやこれから俺の専属である限り、毎日好きなものを食え」

「わーい! これから一緒に頑張ろうね、ミリオン様! 」


 ネイアから、ミリオンとサーティスのあらましを聞いたセレは、敬語を忘れてしまうほど感激してミリオンに親しみを覚えて、警戒もすっかり解けてしまったようだった。先ほどまでの態度は何だったのか、かなり険が取れて、13歳であるのに本当に見た目相応の子供のようである。

 相変わらず、セレをまだ10歳にも満たない子供だと勘違いしているミリオンは、その態度を咎めるどころか、セレの言葉に機嫌をよくしていた。

 セレが椅子に座ったせいで、地面についていない両足をプラプラと遊ばせながら、食べたいものを注文している様子をミリオンは微笑ましそうに眺めていた。


「ミリオン様は何食べる? 」

「ん? 俺はセレと同じのでいいぞ」

「わかった! ネイアさんは? 」

「私もそれで。……はぁ」

「何をため息ついているんだ、ネイア。色々と疲れているのは分かるが、子供の前でそういうのは良くないぞ」

「……なにいっちょ前に父性を感じ始めちゃってるんですか、坊ちゃん。はぁ……」


 ネイアは目の前で自分の主人と転移屋の少女が、ミリオンが英雄になるために結託するのを見て、アホが2人に増えた思いだった。そもそもネイアは自分の主人が、英雄になろうとするのに反対なわけではない。見ている分には面白そうだし、主人が自分の歪みに苦しまなくなるきっかけとなるならば何でもいいのだ。

 だからといってこれから専属の転移屋として、多くの時間を共にするであろう少女が、主と同じ側の思考になってしまうのは、面倒ごとが増えるのではないかと頭が痛い思いだった。

 

 こんなことならもう少し、ミリオンとサーティスのあらましを抑えて話すべきだったとネイアは反省する。

 もし言い訳するのならネイアはセレに、ミリオンに対して少しでもいい印象を抱いてほしかった。

 本心はとしては、一言一言に大きな反応を示すセレを見て、いたずら心に火がついてしまった。

 子供に作り話をして聞かせるような心境で、ミリオンとサーティスの間にあったいろいろなことを、美化して大げさに話しすぎてしまった。ネイアは自分の悪ノリが過ぎてしまっただとため息を吐いた。


 実際には、数週間前の王子様との結婚を夢見ていたセレにミリオンとサーティスの話をしても、こんなのどうでもいいと首を横に振ったはずだが、彼女の運命であったはずの石と石を行き来するだけの人生から解放され、セレの感覚は少しおかしくなっていた。そのせいでセレはこれを自分のやりたいことだと勘違いしてしまっていた。

 もしネイアのした話が、その辺の男が花屋になるために努力していると聞いて、協力を求めているのようなものであっても、セレはそれを自分がやりたかったことと思い込んでいただろうが、ネイアはそんなこと知る由もない。

 とにもかくにも、ネイアは幼気な少女を唆してしまったことに反省はしていたが、特にミリオンとサーティスの関係について誤解を解くつもりはなかった。

一見さんには厳しくて、常連には優しい食堂のおっちゃんです

ちなみに扉の開ける音で常連じゃないと判断するプロです

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