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あれよあれよと言う間に町長室で座らされたレーネは町長から全力の謝罪を受けた。勇者の怒りが解けたと判断した町長は盛大に歓待しようとあれこれ計画しはじめたが、引きつったレーネの様子を察知したウダイが間に入り、レーネには今日はゆっくり休んでもらい、明日もう一度顔を合わせることになった。
レーネも今更諦めて、
「できるだけ静かな宿をお願いしたいのですが。」
「何を!アコンで一番の部屋をご用意させていただきます!」
町長は張り切ったが生憎一番人気の宿は満室で、2、3番手の宿に宿泊することになった。レーネが一歩外に出ると、話を聞きつけた人々が集まっていて歓声が上がったが、ウダイが上手いことあしらいつつ宿へエスコートしてくれた。
宿に着くと、手配済みのようで、レーネはすぐに部屋に案内された。宿の主人には一応レーネの滞在はお忍びであり、安易に情報を流さないよう釘をさしたが、浮かれた主人のようすにあまり期待できそうにないと肩を落とした。
部屋はベッド2台とテーブルとソファーの二人部屋で、ウダイは室内までついてきて、設備をチェックし、室温を調節し、慣れた様子でお茶を入れ、手持ちの茶菓子をレーネに振舞った。
「レーネ様、どうぞ、お疲れさまでした。」
レーネは苦笑いをした。
「レーネでいいです。ウダイさんににとって私なんて扱いやすい子供でしょ?」
ウダイはブンブンと顔を振った。
「何をおっしゃいます。何かご不満があればおっしゃってください。すぐに改めます!」
「そう?……ではどんな思惑で声かけたんですか?そもそもよくこの小汚い私が本物と思いましたね。〈勇者〉に何か頼みごと?」
馬上の勇者は鳥肌が立つほどの凄みを撒き散らしていたが、今目の前の勇者は疲れはてて若干投げやりな女の子、カワイイなとウダイは思った。
(うちの繁忙期の従業員みたいだな)
勇者相手に計算するようなこと、真っ当な商人のすることではない。胸の内をそのまま伝えることにした。
「私は商人、真贋の見分けはつきます。レーネ様とお近づきになりたい、レーネ様の御用のきける商人になりたい、という下心はあります。町長と間を取り持って、町長に恩を売りたい、という下心もありました。
でも、一番の理由は怒りと感謝です。ひと目で勇者様だとわかりました。伝説級のプレートにも興奮しました。なのにあの門番のレーネ様への態度……小綺麗な英雄なんておとぎ話のなかだけなのに。」
「……正直ですね……あ、楽に話してください、多分私はうんと年下ですので。」
「ありがとうございます。我々商人はこれまで荷物の運搬中何度も魔獣に襲われてきました。残念なことに全滅したこともありました。そして運のいいことにレーネ様たちに助けていただいた、という仲間も多いのです。」
レーネは頷いて先をうながした。
「商人は情報が命、あらゆる情報が耳に入ります。仲間から仲間へ、『英雄四人は返り血のついたボロボロの服を着てやせ細り、寝る間も惜しみ先に進んでいる。救世の旅中にありながら、窮地の我々を見つけるとすぐに駆けつけて、最後は怪我人の治療までして笑顔で見送ってくれる』と。」
褒められているのか、けなされているのか難しいところだが、概ね合っている。レーネは気恥ずかしくなり出された焼き菓子をポリポリ食べた。
「レーネ様のおかげで生きている友人がいます。それをいうなら全ての人間がそうなのですが、私は何かご恩に報いたい!と思ってます。既に全てのものを手に入れられているとは思いますが、私の、我がブリッジ商会に手に入るものならば何でもご用意いたします!」
読んでくださる皆様、ありがとうございます!