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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
エピローグ
50/51

エピローグ 1

「ウダイおじちゃま〜!」


西部ブリッジ商会本部に愛らしい舌ったらずの声が響き、フロア中の人間が口元を緩める。


「ラン!」


バタンと扉が開き、愛に溢れた焦げ茶の瞳のウダイが飛び出してきて、ランと呼ばれた少女を抱き上げる。


ランは3歳。真っ白な肌に紅い瞳、黒髪には赤いリボンを結んでいる。


「あれ、今日はおじちゃまのあげたリボンじゃないねえ?」


「今日はねえ、ポリーおばちゃまのリボンにしたの。おとつい送ってきてくれたの。」


「そうか、とっても似合っているよ。」


ウダイは幼児特有の柔らかな身体を宝物のように腕にのせ、自分の部屋に行き、ジュースとお菓子を用意する。ランはよいしょとウダイの膝によじ登る。


「ラン、今日はどうしたの?私にどんなご用?」


ランは途端に目に涙を浮かべた。


「あのね、お友達のヒューイがね、ランのこと貰われっ子だって言うの。おうちの人に黒い髪の人いないからって!」


「ええっ!」


「お父ちゃまは赤でしょ、お母ちゃまは金でしょ、ウダイおじちゃまは茶色でしょ、じいは………あ、髪なかった。」


ランがペロっと舌を出す。


「サイラスおじちゃまも金だし、黒い髪の人が誰もいないの………私、お父ちゃまとお母ちゃまの子じゃないのかな………」


ランがポロリと涙を流す。

ウダイはランを抱きしめて、背中をポンポンとたたき、ヨシヨシと頭を撫でる。


(こんなにレーネ様にそっくりなのにこの子ったら…………)


涙の出る寸前の表情などレーネが辛い時、苦しい時に必死に我慢していた顔と瓜二つだ。あの頃を思い出すだけで胸がかきむしられる。


しかし、それももう昔の話。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




レーネを火龍討伐に送り出した次の日、ユアンの呪いが発動しレーネがユアンの元に帰ってきた。

ウダイとユアンが真っ青になって駆け寄ると、レーネは血まみれのルークにしっかり抱き込まれ、二人とも奇跡的に息があった。


それからは商会は全力を上げて治療した。二人とも生命力がほぼ枯渇しており、代わる代わる回復魔導師が魔力を注ぎ、ウダイは献身的に看護した。


12日目、先に目が覚めたのはルークだった。ルークはなぜブリッジ商会にたどり着いたかわからなかったが、息があるうちに唱えた移動魔法が仮死状態のレーネの呪いに引っ張られたのではないか、という仮説を後々サイラスがたてた。そもそも理屈では説明できないから〈呪い〉なのだ。


更に10日経ち、ようやく、レーネは目を覚ました。


『こんの、親不孝娘があ!!!!!』


ユアンのカミナリが炸裂し、レーネはポロポロと泣きながらユアンに謝った。

『お父ちゃん、心配かけてゴメンなさい』

と。


二人ともまだまだ絶対安静の日々が続いたが、とりあえず、王城のサイラスにだけ、二人が生きていることを報告する。


サイラスもまた瀕死での帰還だったがユニス師の決死の治療で一命を取り留めていた。


すると、ケリック王より、驚くべき発表があった。




『この度の火龍討伐で、〈勇者〉レーネ、〈英雄〉ライオネル、〈英雄〉ゼンクウ、〈英雄〉ルークは火龍と刺し違えて死亡した。〈英雄〉サイラスは命は助かったが脚を失い、もはや〈英雄〉としての活躍は不可能。国民は五人の業績に感謝し、哀悼の意を表し、〈英雄〉のいない国を守り育て、発展させるため、一致団結するように』




レーネもルークも勝手に殺されて大いに驚いたが、すぐにサイラスの仕業だと気づいた。サイラスは二人を〈勇者〉〈英雄〉から解放したのだ。


そして、サイラスは立て続けの大禍のために病に倒れた王に請われ、現在、若い王太子の繋ぎとして摂政となり、レーネとルークと距離を置いている。二人に近ずけば、二人がまた表舞台に引っ張り出されてしまう恐れがあるために。


脚を失っては、(まつりごと)は行えてもレーネを守ることは出来ない。サイラスは静かに身を引いた。一人、元〈英雄〉として矢面に立ち、権力の中枢にいることでレーネを守護し、変わらずただレーネの幸せのみを願っている。




レーネはレーネを愛する人々に優しく温かく囲まれてのんびりと傷を癒す。前回とは正反対だ。

少しづつ元気になると、喜んでユアンに恩を着せられた。リハビリも兼ねて森で素材を収集し、商会に卸す。


ルークはレーネに付き合うときもあれば、大工仕事や木工細工に勤しみ、ユアンが納得する小物が出来るとやはり商会に卸す。またサイラスのブレスレットに触発され魔導具も真剣に学びだした。


二人はゆっくりと健康を取り戻し…………結婚した。


ユアンが父親として結婚に出した条件はユアンのいるこの商会そばにも家を持つこと。


ルークは、

『俺、もうレーネと火口で結婚してるから許可なんていらないんだけど?』

とゴネたが、ユアンの、

『一宿一飯の恩義って言葉知らねえのか小僧⁉︎』

という気迫に速攻で負けた。


おかげでランは赤ん坊の頃からブリッジ商会に我が家のように馴染み、従業員皆の癒しだ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ラン、泣かないの。」

「だって…………」


「ランの髪の色はねえ、山神様の村にいたお祖母様に頂いたんだよ。」

ウダイはレーネの黒髪の頃を知らない。出会った頃は既に白髪だった。そして今はゼンクウのエルフの金を受け継いでいる。この辺りを今ランに聞かせてもしょうがないだろう。


「おばあさま?お名前をいただいた?」


「そう、ランのラはライネ様のラ。ランのンはダン様のンだ。ライネおばあさまはランと同じ美しい黒髪で、とっても優しい綺麗な方だったんだよ!」


「そ、そうなの!?」


ランの顔がぱああっとほころぶ。

(ああ、本当にレーネ様ソックリだ。)


「おじちゃまありがとう!おじちゃま、だーーーいすき!」

ランがチュッチュッチュッとウダイの顔中にキスをする。


「ラン、おじちゃまもランがだーーーいすきだ。」


ウダイは愛するもののいる自分の人生はなんと豊かなんだろうと、神に感謝した。







最終話、本日1700更新します。

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