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「なあ…温泉ならゼンクウさんと行くのがベストだったな。」
「ん…元気かな…」
ゼンクウは緑眼のエルフで、一体何歳なのかわからない、金のアゴヒゲたっぷりの男であった。4人のなかで一番年長者で当然博識。身を自然に溶け込ませるのがうまく、斥候役も果たした。〈ダイコン亭〉もゼンクウオススメである。紅一点のレーネを〈姫〉、〈お嬢ちゃん〉と言ってかわいがり、若い三人を導いた。
「ケガ、どうなったか聞いてないのか?」
「念話は届かない。エルフの国にパイプなんてない。」
「お前もか、俺の念話も反応なし。毎朝モーニングコールしてんだけどな。」
ハハッと笑ってルークはストローをイジった。
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最後の魔王戦、地底最奥部にたどり着いた時点で4人とも傷だらけだった。短剣と格闘のゼンクウと、〈アカツキ〉のレーネが前衛、補助と回復のサイラスと攻撃魔法のルークが後衛。ルークの守護は本来はレーネ担当であったが、直前に最凶レベルの魔獣ジャノンに左肩を噛み切られ、左手が使いものにならない状態になってしまった。しかし魔王にトドメをさせるのは〈アカツキ〉のみ。結果、後衛二人への詠唱中の攻撃をゼンクウは一人で受け止めることになった。
ルークが持てる全ての魔力で炎の温度を最高に引き上げ、その青光りする炎を〈アカツキ〉に纏わせた。ルークの両手と炎が離れた瞬間、〈炎剣アカツキ〉を右手にレーネは魔王の心臓目がけてダッシュし、ルークは今までレーネがいた場所にバタンと倒れた。
相打ちもやむなしと狙ったカウンター、たった一度だけのチャンスに食らいついたレーネは魔王の心臓に〈炎剣アカツキ〉を貫いた。一瞬で魔王の体に青炎が広がり焼き尽くし、静かに消えた。
その様子を夢でも見ているように眺めていたレーネだが、ハッと振り返り仲間を見た。サイラスがルークに向かって叫びながら回復魔法をかけていた。レーネは駆け寄りたいが体が動かない。口すら動かない。
(ルーク!逝かないで!)
心が叫んだとき、サイラスがルークを上に崩れおちた。
「いかん!」
魔術師二人の前で攻撃を弾いていたゼンクウが叫び、血まみれの体を引きずりながらサイラスにたどり着いた。ゼンクウはサイラスを引き起こし、状態を調べ、一瞬だけ目を閉じた。
「……ぜんくう……さん……」
レーネは唾液を集め必死に声を絞りだした。
ゼンクウは大きく息を吐き、レーネに向かって左の口端を上げてみせ、サイラスに向かって詠唱をかけた。ピカッと光るとサイラスは消え、ゼンクウは憔悴して尻もちをついた。
「………レーネ………ルークは無事だ………サイラスは…俺の…回復魔法では無理だったか…ら王城に飛ばした…………悪いな姫……お前の面倒……見られん……ちょっと…血を…流しすぎた……」
「ぜ、ゼンクウ…いやあ…」
「…里に……帰るよ……回復するまで…しばらく……」
ゼンクウの姿が話している最中にもユラユラ蜃気楼のようにぼやけた。そして収縮し、蛍のような小さな光の球になり、地上に向かって浮かんでいった。
レーネは呆然とその光に行き先を見つめていたが、やがてゆっくりゆっくり這い進み、ルークを膝に抱き、脱出の魔道具を起動させた。