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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第四章
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47

「終わった…………」


レーネもルークも起き上がることもできず、転がったまま。

黒煙が流れ、純粋な夜の闇が現れる。天上に細い弓月が上っていた。


二人ともハアハアと酸素を取り込む。

全てのドーピング効果が消え、レーネの体はあちこち悲鳴をあげ、ルークの止まっていた血がダラダラと流れ出す。


「ルーク………」

「なんだ?」

「………何でもない。」


レーネはルークに色々と言ってやりたいことがあったが、今更だ。今日一緒にいてくれた。自分を命がけで助けてくれた。それが全てだ。


「……今日、レーネが下に見えたとき、火龍がバレたことにガッカリして…………驚いた。」

「…………何を?」

「何でレーネ、ウエディングドレス着てるんだって!誰と結婚すんだって、ムカついた。」


「………はあ?」

レーネは首を下に傾けて自分の防御服を眺める。確かに真っ白なドレスに見えなくもない。そうだったかもしれない。だが既に真っ黒でベトベトでボロボロだ。


「なるほど………なら相手はネル老師だね……お城からここまで、仲良く手をたずさえて助けあってきたもの。」


レーネは再び頭を動かし、ネル老師が横たわる姿を見つめる。ツーっと涙が溢れる。

「ネル老師………〈英雄〉ライオネル様だったの。」

「そういうことか…………スゲエ氷だと思った。」



ルークが上半身を何とか起こし、レーネの涙をぬぐいとる。


「さて………どーすっかなあ。」

「帰還の………魔導具はネル老師に使ってあげたい。こんなとこにいつまでも置いておけないわ。ネル老師………はぁはぁ……どこに行きたいか、来る途中教えてくれたもの………」


「いいよ。」

ルークは即答した。どこで何を使おうと〈勇者〉の裁量だ。レーネの……〈勇者〉の務めを理解していた。


レーネは気力でゆっくりゆっくり這ってネル老師の元に辿りついた。ネル老師の亡骸は微笑んでいた。


〈勇者〉として、自分に命を捧げ随行してくれた友、〈英雄〉ライオネルに祈りを捧げ、杖を腰紐に差し込み魔導具を握らせ発動させた。


ネル老師は長い長い旅の末、ようやく帰った。本当の仲間の待つ場所に。




そこまでして、レーネは力尽きた。〈勇者〉の使命は全うした。

パタリと地面にうつ伏せで倒れ、視界が狭まり眠くなる。


(今回は、頑張ったわ………サイラス様はきっとユニス師が助けてくれる。ルークも生きてる。ゼンクウさんもちゃんといる……私の中に………)


「レーネ、寝るな!」

ルークもなけなしの力を振り絞り、レーネのそばまでやってきて、レーネを岩場まで引きずりそこに寄りかかってレーネを胸に抱いた。


「レーネ、もうちょっと頑張れ、俺が回復したら連れて帰るから。」


レーネはルークの鼓動を聞いて、回復なんて無理だとわかった。ルークの枯渇も深刻だった。人のこと言えないが。ルークの状態を見誤って、帰還の魔導具浅はかにも使いきってしまったことが悔やまれる。サイラスが倒れている今、この世界に二人を回収する力のあるものなどいない。


「………どこに連れて帰ってくれるの。」


「俺たちの家。」


(ルークが………私の家を俺達の家だって!)


「よかった…………」



「レーネ」

「………ん?」

レーネはもう目を開けられない。


レーネのまぶたにポタポタと水滴が落ちる。


「今すぐ俺と結婚して。そのドレスで、俺に嫁いで。」


「…………いいよ。」

「ホント?」

「だって………離さないでいてくれたもの………」

「………………当然だろ。」

「…………………」


「愛してる、レーネ。」


ルークはレーネの口に誓いのキスをする。


レーネは既に意識がない。ルークはレーネと離れ離れにならぬよう上から下までしっかりと抱き込んだ。


(ゼンクウさん、サイラス様、俺にもレーネを守らせて!!!)


夜空を見上げ、仲間に祈る。


「奥さん、帰るよ。」


一か八かで移動の陣を切った。





ここまでお読みいただきありがとうございます。

残り、エピローグ二話になります。

最後までレーネにお付き合いください。

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