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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第四章
47/51

45

致命傷を与えることもできず、レーネは仰向けに落ちていく。

遠い頭上でルークが顔をぐしゃぐしゃにして叫んでいる。


(ルーク………そんな顔しないで………)


ドンドン落下スピードは増す。レーネは剣を持たない左手を虚空に差し伸べた。


(ルーク………大好き………幸せになって………)




レーネの瞳に涙が滲み、周りが見えなくなる。最後に母に祈ろうと思ったその時、


レーネの右を驚異的なスピードで馴染みの存在が通り過ぎた。

「!」


堕ちゆくレーネが火口を振り向くとレーネの更に下で動物としてはありえない魔力を纏うカルがいた。

カルはマグマとレーネの間でホバリングすると風魔法を最大で展開し、両翼をバンっと勢いよく前に押し出し、レーネを火口口(かこうぐち)に吹っ飛ばした。ズサっとレーネは転がり出る。


「カルーーーー!」


もはや体力など残っていないレーネは這いつくばって火口を覗き込む。


カルはそのままクルクルと炎の上昇気流に揉まれながらーーーマグマ溜まりに……ジュッと落ちた。





火龍の咆哮も遠くに聞こえる。呆然と火口を眺めていると、がっしりとした、確かな温もりが背中に伝わり、両手を回され火口から引き離される。



「………バカヤロウ。」

ルークはブルブルと震えていた。





上空から降りてきたルークに頰を擦り付けられながらも、茫然とへたり込んでいると…………火口から、フワリフワリと蛍のようなライトグリーンの優しい光が登ってきた。

レーネは…………かつてこの光は見たことがあった。


光球はレーネとルークの前で上昇を止め、広がり、蜃気楼のように二人がずっと焦がれた男の姿をぼんやり映し出す。



「ゼンクウ………さん?」


輪郭のハッキリしない人の大きさの光がレーネの目の前で、懐かしい気配を放つ。

頭に声が直接届く。


『…………我が姫、すまん。こんな体たらくで。』


光が………会いたくてたまらなかった………ゼンクウの顔の形を成す………


「カルは………ゼンクウさんだったの?」


『俺はカルに憑依………カルの体を借りていた。カルの血統は古より我が一族に力を貸してくれる……』


「ゼンクウさん、透き通ってる……」


『討伐の後、結局俺の体は修復できなかった。カルが俺に体を明け渡してくれたんだ……』


「じゃ、じゃあ、ずっと、私のそばにいて、くれてたの?」


『俺が……寂しがりやで甘えベタな甘えん坊の姫を一人にするはずないだろう?』




「………お父さんの代わりに?」


ゼンクウは意外そうな顔をした……ように見えた。


『最初はな……しかし、ダンの瞳を持ち日々一生懸命なお前を愛することは簡単だった………ハルキニのため汚れ仕事ばかりしてきた俺にとって、姫の清廉さは、心が洗われるようだった………お前のために生きると決めた…。』


「ひとりぼっちじゃ………なかったの?………ずっと……」


『いや………レーネ、一人にしてしまった……お前を守れずすまなかった………討伐後は姫の家族になり、姫の帰る場所になり、娘らしい日々を過ごさせてやるのが汚れた俺の最初で最後の夢だった………力尽き、孤独に追いやり、姫を追い詰めた…………』


レーネはブンブンと首を横にふる。


『レーネ、時間だ。誰よりも愛しているよ。顔かたち、声、心根、全て。共に過ごした分ダンにも負けぬ。ルークお前、次はない。しっかりレーネを守り抜け!』


霊魂と思えぬ威圧をルークにかける。


「ゼンクウさん…………ゴメン。もう間違わない。大丈夫だから。」


『レーネ、我が最愛………これからもずっと一緒だ。我が姫……全能神よレーネに我が力全てを……………』


「「ゼンクウ!!!」」


ゼンクウの光はこぶし大に一気に凝縮した。そして、スッとレーネの心臓に吸い込まれた。


「おい!」

レーネは反動でルークにガクンと寄りかかる。



心臓を通る血液に乗ってゼンクウのエネルギーがレーネの身体中を巡り、満たす。


「レーネ……髪が…………」


いつのまにかバラバラにほどけたレーネの長い白髪は…………ゼンクウの色に染まり、黄金になった。







「ルーク………」

レーネはゆっくりと涙に滲む瞳を開けた。

「ん?」

ルークがレーネを回し、向かい合う。


「ゼンクウさんと一緒になった。」

「わかるよ。」


レーネの身体から魔王討伐の時以来の充実したパワーが溢れ出る。


「私、行けるわ。」

「そうか。」

「一緒に………いてくれる?」


ルークは血に染まり焼け焦げたエンジのローブでレーネの身体を包み込む。


「もちろん。ずっと……一緒だ。」


「…………離さないで。」

レーネが不安そうにルークを見上げる。


ルークは深紅の瞳に愛を宿してレーネを見つめ、親指でレーネの頰の煤をぬぐい、

「ずっとこうしてる。」


レーネと手と繋ぎ、繋ったこぶしにキスをした。


レーネはそっと眼を閉じて、ルークのくちびるに自分のものを重ねた。


ルークはくしゃっと破顔し、強くレーネを抱きしめた。




「どうする?」

「やっぱ青炎でしょ?」

「だな。」


ルークとレーネは火龍を見据え、立ち上がった。







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