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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第四章
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44

()っつう…………」


ネル老師に連れてこられたのはベルシード火山の9合目ほどの地点だった。

熱風と火の粉の中ようやく眼を凝らして山頂を見ると、恐ろしいほどの圧力と、その周りを薄く青いベールが1、2、3層覆っているのがわかった。サイラスの防御魔法!


「先生!」


レーネが叫ぶと同時にカルがレーネの肩から飛び立ち、一直線に山頂に向かう。

(私にも翼があれば、カルに遅れを取らないのに!)


「レーネ様、急ぐぞ!」


「はい!」


〈英雄〉としては、恥ずかしいほどに体力のない二人だったが、この期に及んで体力など必要なかった。炎の中を突き進むめる力は気力のみ。ゴロゴロと火山岩が転がり足場の悪い中、二人は時折躓きながらも一歩一歩最短コースを進む。短い休憩の間に策を擦り合わせる。


しかし、ドンドンと温度の上がる熱風に一枚、また一枚と防御魔法が剥がれ落ちるのがわかる。酸素が薄くなり、呼吸が粗くなる。すぐそばに見える山頂が遠い。


「ネル老師!………大丈夫?」


「大丈夫じゃ………ないわい!じゃが、踏ん張りどきじゃ!」


「はい!」


「儂は……どうでもいい奴らに振り回されて〈英雄〉に疲れて、この100年〈英雄〉を辞めとった。レーネ様と一緒じゃあ。」

「………………」



「じゃがな、どっかに儂にも厄介な〈プライド〉が残っとった。前の英雄達(あいつら)に恥をかかせるわけにはいかんのじゃ。」


フウフウと老師は息が上がる。


「レーネさまあ、儂らは、儂らだけは、レーネ様のお気持ち、わかっておりますゆえ!!!」


「…………了解!」


レーネと老師に悲壮感などない。ただ……互いの同士の元に早く辿りつきたいという思いだけ。


どれだけ時間が経ったのだろう。火の粉と黒煙で空は見えないが、日は沈んでしまったようだ。顔を真っ赤にして息絶え絶えに山頂にたどり着いた乙女と老人は大岩の影に隠れて火口方面を覗き込んだ。





火龍は………黒かった。目と口だけ真っ赤。

大きさは小さな丘ほどはあるだろうか?

青いベールの向こう、火口のすぐ前で翼をバタつかせ炎を吐き暴れ狂っている。


「レーネ様!4時の方向!!!」


レーネが慌てて振り向くと………黒く煤けた小さな何かが小高い青光りする岩棚の上に落ちていて………か細い青い糸が山頂周囲を取り巻くベールに繋がっていた。


「先生ーーーーーー!!!」


レーネは脇目もふらず、ダッシュしサイラスの元に駆けつけ、足元に魔導具を投げつけた。瞬時に周囲に長持ちはしないが防御魔法が展開する。レーネはサイラスの頭を膝に乗せた。


「先生…………」

サイラスは虫の息で痩せ細り、身体中煤まみれで………左脚は膝下から無くなっていた。


「……先生………ゴメン………」

(バカな………使えない弟子でゴメンなさい…………)


サイラスの顔はあちこちヤケドで水ぶくれが出来ていたが、それでも誰より美しいとレーネは思った。レーネは恩師の頰を静かに撫でて、乱れた髪を指で解いた。しかしピクリとも動かない。


「レーネ様、上!上じゃ!」

レーネはサイラスの顔を両手に抱き込んだまま上空を見上げた。


遥か上空に…………炎の細い竜巻の上に仁王立ちし、両手を火龍に向けて突っ張り火龍が飛び立つのを押さえつけている…………短い髪を逆立てた炎帝がいた。


レーネはサイラスをそっと横たえ立ち上がる。


「ルーク………」

(生きてた………間に合った?)

レーネは胸元にある山神像を服の上からギュッと握りしめた。



ネル老師はサイラスの全身に惜しみなく回復薬をかけ、商会の魔導具をサイラスの両手に握らせた。

「レーネ様。」


レーネは………………万感の想いを込めてサイラスの煤だらけの頰にキスすると、老師に目で合図する。


老師は眼をふせ、サイラスに短く敬意と労いの言葉をかけ 、魔導具に魔力を流した。


ザッと音がして、サイラスが帰った。

サイラスのこの二カ月命がけで保ち続けた、青い結界がキラキラと霧散した。


上空でその異変を感じたルークが下界を見下ろし…………レーネと目があった。


「………………」

「………………」



「ギュアーーーオ!」

火龍が咆哮をあげた。ルークの縛りをはねのけジリジリと歩みだした!


「レーネ様、サイラス様の結界なき今、一刻の猶予もありませぬ。」

「ええ……。」


レーネは〈アカツキ〉を持ち替えて、ネル老師の前に掲げた。


ネル老師は商会の薬をグッとあおり、瞬間的に魔力を全盛期レベルに上げた。その勢いのまま氷魔法を展開し、全力で〈アカツキ〉に纏わせた。


〈アカツキ〉が冴え冴えと冷たく光り輝く。〈氷剣アカツキ〉。

レーネは魔力溢れる剣を踏ん張って両手で握りしめ………一筋の涙を流した。

「ありがとう。」


〈英雄〉ライオネルは崩れおちた。




レーネは後ろを振り向かず、〈氷剣アカツキ〉を下手で構え、火龍に突進した。

「うわあーーーーーーーーあ!」

「レーーーネーーーーー!」


火龍は大きく、ありえないほど熱かった。しかしレーネは躊躇できないスピードで突っ込んだ。

狙うのは口!剣の刺さる柔らかめの場所など口内しかないのだ。


レーネは大きく跳躍して…………火龍の膝と胸をダンダンと弾みをつけて蹴り上がり、火龍の上方に浮かぶボロボロのルークを視界に留めながら…………振りかぶって大声で鳴く火龍の口の奥、喉元まで〈アカツキ〉を突き刺した!


グサッ!


火龍の口元に足を踏ん張りレーネは耐える。

〈アカツキ〉からパキーーーンと氷魔法が溢れ、火龍は喉元からガチガチ凍り出す!レーネが手応えを感じたその時、火龍がギロリとレーネを睨みつけ、腹の奥からありえない量の炎を吹き出してきた!


(ヤバイ!!!)


「レーネーーー!!!」


レーネはジャンプし、タッチの差で吐かれた炎を避けるが、〈アカツキ〉もろとも背後の火口に落ちていった。






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[一言] ・・・ライオネル アカツキ頼む!!!
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