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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第四章
45/51

43

レーネの出現に、ネル老師、ユニス師が即座に正気に戻りレーネに駆け寄り跪き、首を垂れた。


「〈勇者〉様!」

「お久しぶりでございます。お運び、ありがとうございます。」


レーネは………二人共、歳を取ったなと憐れに思った。

(こんなおじいさん、おばあさんになるまで働かされて…………)

一段高いところに立つことを申し訳なく眺めていると、


「〈勇者〉!遅いわ!今まで何してたんだ!とっとと火龍狩りにいけ!!」

ずっと後方から叫び声が次々と上がった。


ウダイがサッとレーネの前に立ち、冷たい顔で懐に手を入れ武具を取り出そうとしたとき、


「黙らんかぁ!!!」

バーク大将が一喝した。

「魔獣の血もかぶったことない奴が、〈勇者〉様に偉そうな口聞くなぁ!!」

そう言うと同時に抜刀する。

「文句のある奴は、俺が相手になるが?」


レーネは驚いた。国の政務の途中でこのように庇われたことなどなかった。それくらいレーネ頼みの状況だということか?


レーネは思うところあれど、口を挟まない。それがユアンとウダイとの約束だった。全てウダイに任せると。


ウダイは手にかけていた武具をしまい、

「〈勇者〉様は、今日まで我がブリッジのもとで深傷を癒しておられましたが?問題か?」

レーネの右耳の大きすぎるダイヤが不気味に光っている。


宰相がバタバタと駆け寄り、やはり跪く。その後ろに大将も続く。


「〈勇者〉様、我がケリックへの再訪、誠にありがとうございます。これまでの不敬不義理、どうかお怒りをお沈められますよう。それで、先程申されました、お願い、とは?」


レーネはウダイに目で確認して話しだす。


「火龍のもとへの案内と、氷か水魔法の熟達した使い手を出してほしい。」




場は一気に静まる。


ウダイが先程まで文句ばかりつけていた集団を睨みつける。

「よもや、どなたもおいでにならないと?〈勇者〉様は相打ち覚悟で臨まれているというのに?栄えあるケリックの名跡の皆様がたが?」


ユニス師が、はあ、とため息をついた。そもそも立候補するような気概のあるものは既に戦地に赴き散った。ここに残るのは回復担当とクズだけだ。


「レーネ様、私が参ります。」

ユニス師の言葉にレーネは首を振る。

「あなたでは無理よ。」

皆がわかっていることだ。ユニスの魔術はオールラウンドだが専門はサイラス同様回復治癒だ。

ルークの火力魔法同等の氷魔法でなければ勝算はない。


やはり………当てにならなかった。商会の魔道具を駆使して戦うほかない、レーネは立ち去ろうとした。


「儂が 行こう。」

ネル老師が声を上げ、立ち上がった。

「ネル老師?」

高齢過ぎる、耐えられるわけがないとレーネは首をふった。そもそも今も顔色も悪く、前回会った時より随分と痩せている。するとネル老師は片手を上げレーネの次の言葉を遮る。


「〈勇者〉よ。我が名はライオネル。氷はこれでも得意なんじゃ。」

「ライオネル………………」


場内全てが息を飲む。


レーネの知るライオネルはただ一人。


〈英雄〉ライオネル。氷鬼ライオネル。先代勇者の右腕。


(そういうことなの?…………)


レーネはウダイと共に跪こうとするもライオネル……ネル老師に止められる。

「〈勇者〉たるもの、軽々に膝をついてはいかんよ。」


レーネは意外性と敬意がごっちゃになって何も声をだせないが………、それでもやはり、ネル老師に討伐は無理だと思う。やはり高齢、そして実戦から離れすぎている。

レーネがことわりを入れようとすると、


「〈勇者〉二人に仕えることが出来るとは恐悦至極。長生きした甲斐があったというもの。」

「ネル老師……」

「最後の花道じゃ。連れて行ってくれ!な?」


老師に帰って来る体力などない。片道の旅。


レーネはネル老師の存外サバサバした表情のなかに……自分と同じ気持ちを見つけた。

ひくことなどできないのだ。残念ながら………ひとたび〈英雄〉となってしまったものの…〈使命〉だ。



「〈英雄〉ライオネル、随行を許す。」

「〈勇者〉レーネ、我が命、あなた様に捧げまする。」


ネル老師はレーネの指先にキスを落とし、レーネはネル老師の皺だらけの額にキスを落とした。


レーネはネル老師に自分の完全防御のエンジのマントを纏わせる。レーネは頭の先からつま先まで白銀に光る。


ネル老師は、

「光栄じゃ!」

とニコリと笑う。

「レーネ様、だいたいの地点は把握しております。儂に準備は不要。参りましょうぞ。」


そして老師は段下の………王を見据えて、

「さらばじゃ。」

と一言言って柔らかく微笑む。


王は、立ち上がり、レーネのそばまでゆっくりと歩み寄り、レーネの指先と老師の指先に忠誠の口づけをし、


「御武運を。」

そう言って首を垂れた。



レーネは小さく頷いて、老師と向き合う。すると、

「レーネ様!!!」


後方から男が人波をかき分け前に進み出た。レーネの知る真っ赤な髪が……大半白くなっていた。ルークの父親だ。


「どうか、どうか、ルークを助けてください!」

ルークの父親は床に頭をこすりつける。


「………………確証のない約束なんて出来かねます。」

「う…………」

「でも………死ぬにしても、生きるにしても、一緒。」

「……………」

「ルークを一人にはしないと誓うわ。」


ルークの父は泣き崩れた。




レーネはウダイと互いに両頬にキスをする。既に別れは済んでいる。


レーネはネル老師の肩に手を置き頷いた。

ネル老師が陣を切る。


キンッ!と〈アカツキ〉が鳴り、二人は消えた。





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― 新着の感想 ―
[一言] はあ・・・覚悟を決めて腹を括ったひとたちは、なんて潔くなんて格好良いのだろうか。魂が尊い。
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