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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第四章
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ケリック国、王城内大広間では、国を動かす名だたる貴族、領主、役人が集められていた。

もはや、火龍の発現は隠しようもなく、じわじわと気温は上がり、敏感な国民は何事かあったことに気づきつつある。


いらぬデマが広がらぬように、宰相が現状を説明する。火龍相手に今のところ有効な手立てなどないこと。各国の優秀な戦力はほとんど使い切り、英雄二人が今のところ踏ん張っているが先行きはわからないこと。

火口から這い出てしまった今、火龍がどの方向に向かうか想像もつかぬこと。


「最悪ではないか………」

誰ともなく、声が漏れ、ガヤガヤと口々に恐怖と不安をつぶやく。


王アルキンは高座ではなく、集められた国の主要なメンバーの正面、長テーブルの真ん中で静かに両手を組み座っている。

並びに座るのはいつものメンバー。ユニス師はかろうじて戻って来れた兵士たちの治療で、疲れがみえる。バーク大将も然り。歳のせいでこのところ病がちなネル老師は目を閉じ、厳しい表情で王に寄り添っていた。


「皆、一刻の猶予もならん。〈英雄〉が食い止めてくだっさっているこのあいだに、食糧を備蓄せよ。そして、地下、洞窟などシェルターとなりえる場所を整えるのだ。協力せよ。」

宰相が声を張り上げる。


「一体我々のような下々に何が出来るというのだ!」

「そうだ!国がなんとかしろ!」


「皆、静粛に!火龍は緊急事態です!そのくらい皆もわかるであろう!!!」


「火龍くらいなんとかできなくて何が国だ!王だ!」

「そうだ!責任を取れ!安全な場所にちゃんと逃せ!」

「違う!死ぬなら一矢報いるべきだ!」

「もうおしまいだあ!」


「静粛に!」


場は混迷を極める。どんどんと不満の声が大きくなる。


「クソが………」

大将が呟く。


ますます疲れ果てたユニス師は頭を抱え、俯いていた…………瞬間ビン!と強烈な刺激が王城を取り巻く結界にかかった!!!顔を上げた!

「来る!」

ネル老師もギョロっと目を開け、杖を握りしめる。

王は、後ろの一段高い玉座に向かって振り向いた。


ガンっと衝撃音が鳴る。空の玉座の前でまばゆい光が炸裂し、全員の目をくらませ、一気に収縮する。


一同が再び目を開けると、そこには、


右手に今もギラギラと圧を放つ〈聖剣アカツキ〉を握り、その肩に大型の鷹を乗せ、左手は共の男にそっと預けている……まばゆい銀白色のドレスの上にエンジのマントを羽織った………真っ白き戦女神がいた。


あまりの神々しさに畏怖が前に出て、誰も身動きがとれない。


女神は視線を動かし、目的の人物を見つけるとヒタと見据えた。




「……………王よ、お願いがあるのだけれど。」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






レーネの装いは度肝を抜くものだった。

首からウエスト、手の先まではピタリと身体に張り付き、腰からふくらはぎまでは動きやすいように布はタップリと使われ、贅沢に布が重なり見えないスリットがはいっている白銀のドレス。そして同じ素材でスッポリ足首まで包む黒いパンツ。


「ミスリルだ。ミスリルを糸に加工し、一本一本に防御と防炎魔法をかけて織り上げた布だ。これでレーネはヤケドしねえ。ミスリルはルーク様の炎も通さねえって聞いたからな。火龍の炎は威力はスゲエが温度はルーク様ほどじゃないはずだ。多少ごわつくのは我慢しろ。」


ユアンは満足そうに笑う。

履きなれたブーツも底にミスリル板を打ちつけられた。


レーネの白髪はドレスと同じミスリル布で出来たリボンと………ルークの紅髪を巻き込んで編み込まれ頭へのダメージを軽減させる。

真珠のネックレスには首を通る血液の沸騰を防ぐまじないが載せられた。


軽く一国の国家予算を超える計らい。


「ユアンさん………」


「お父ちゃんだろ?あと、途中までバカ兄貴連れていけ、露払いだ。」


「でも、これ以上は!」


「レーネ、いいか、お前は火龍の相手だけすればいい。人間の相手はウダイがすりゃあいいんだ。」


隣のウダイを見上げると、ウダイが優しく微笑んだ。


ユアンは頷き、立ち上がった。


「最後の仕上げだ。」


ユアンは自分の耳にある小指の爪ほどあるダイヤのピアスを外し、知らない異国の言葉を吐きながらレーネの右耳にブサリと刺した。


「痛っ!」


レーネは呆然とユアンを見る。


「これで、レーネは俺の娘だと、誰にでもわかる。そして、お前が死んだら遺体(からだ)は瞬時に対をはめてる俺の元に帰る呪いをかけた。俺の娘を…………陵辱されるなんてあっちゃならねえからな。〈勇者(レーネ)〉の遺体(からだ)は価値がつく。」


レーネは思いもよらないことを言われ、まばたきもできない。

「レーネ、俺にこんな呪い使わせんなよ。お前の帰りを待ってる。そしてミスリル代ガッツリ働いてもらうからな!」


ユアンが悪どい笑いを向ける。


「…………お、お父ちゃん………ううっ!」

レーネはユアンの胸に飛び込みワンワン声をあげて泣いた。ユアンは困った顔をしつつ、か細い〈勇者〉を抱き上げ優しく揺すった。その場にいた商会のもの全て、可愛い自分達の妹、レーネの無事の帰還を祈った。










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― 新着の感想 ―
[一言] 壊れもののように扱っていたウダイ兄ちゃんの四年半を、たった数日で凌駕してしまったユアン父ちゃん。いやしかし、ユアンさんの父ちゃんっぷりはさすがとしか言いようがない。レーネの即落ちも無理ないっ…
[一言] ユアン、最高ヽ(´▽`)/ 負けるな!!
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