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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第四章
42/51

40

レーネは西部ブリッジ商会の本部に着くと買取カウンターに向かった。ここよりも近い支部もあるが、本部のほうが買取の値段を即決してくれて、何よりウダイがいる可能性が高いのだ。


慣れた仕草で今日の採取品をカウンターに並べていると、見慣れない中年の店員が奥からバタバタとやってきた。


「レーネ様、申し訳ありませんが別室にご移動願えますか?」


「は……い。」



レーネは訳わからないまま、大人しくついていく。これまでブリッジ商会の中で嫌な思いをしたことなどない。全ての店員がレーネに対し親切だ。今回もきっと悪い事ではないだろう。


初めて四階のフロアに足を踏み入れると、そこは階下の賑やかで騒々しい雰囲気はなく、重厚でありつつ実用的な落ち着いたスペースだった。一枚板のテーブルの向こうの黒い革張りのソファーに、坊主で計算されたあご髭を生やし眼光鋭い男が座っていた。レーネがそばに来るのをじっと待っている。


「レーネ、座んなさい。私はここの会長、ユアンだ。」


「は、初めまして。あの、いつも大変お世話になっております。」


レーネは動揺しながらもペコリと頭を下げた。


(まさかのウダイさんのお父さん!似てない!)


ユアンは一瞬目を見張り、口の端に少し笑みを浮かべ、手ぶりで正面に座るよう促した。

レーネは何故自分が世界をまたにかける超大物、ブリッジ商会会長に呼ばれたのか、疑問を抱きつつ腰かけた。

ユアンは前置きもなにもなく、ズカズカとレーネに話しかけてきた。


「レーネ、うちのウダイと兄妹になってると聞いたが、合ってる?」


ユアンの瞳は焦げ茶色だった。ウダイと一緒だ。


「はい、合ってます。」

「じゃあ俺も、オヤジってことでいいね?」

「はあ?」

バタン!と、扉が開いた。

「会長!」

ウダイが飛び込んできた。

「ウダイさん!?」


ウダイはツカツカとユアンの前に来た。

「勝手な事するのはやめてくれ!」

「騒々しいぞ、レーネが驚いている。」

ユアンは片眉を上げた。


ウダイは呆気にとられているレーネを見てハッとした。

「レーネ、ゴメンね。何でもないんだ。さあ、下に戻ろう。」


ユアンが唸るような声をあげた。

「甘やかすだけが家族じゃないぞ、ウダイ。」

「…………レーネには甘やかされるだけの理由も権利もある。」

「では蚊帳の外におき、真実に目を伏せさせることもお前の甘やかしの一貫か?笑わせるな。」

「約束したんだ。昔、レーネと、…………サイラス様に、私が守ると。」

「現実を見ろ!お前が守れる状況じゃない!ばか者が!」


「サイラス?何、何の話ですか?」

「……………」

「ウダイ、情報を集め見極めるのが商人だ。そして情報を検証もせず隠しているお前は………レーネを侮っている。」

「……………」

「この子は俺たちよりも、うんと強いんだよ。力だけじゃなく、心も。どんな無茶な経験積んでると思ってんだ。」

「違う、普通の女の子だ!」

「うるせー!普通の女の子だろうが勇者だろうがレーネは自分で判断できる脳ミソ持ってんだ!お前と俺のすることは、覚悟を決めて助けることだ!間違うんじゃねえ!」


ウダイは唇を噛み締めて、ガクリとレーネの隣に座った。

「ウダイさん…………」


「レーネ、お前の兄貴はバカだ。ほっとけ。よし、俺に父ちゃんって言ってみろ?」

「は?」

「ほれ!」

「お……とうちゃん?」

「お父ちゃん?うん、いいな。レーネ、お父ちゃんから話がある。サイラス様とルーク様、どこに行ってるか知ってるか?」


レーネはぞくりと悪寒がした。隠し事とは二人のことなのか?

「いえ………知りません。急にいなくなって、きっと何か大事な用事なのだろうと。」

「討伐だ。」

レーネは目を見開いた。

「ありえないわ。討伐はせいぜい10日もあれば終わるもの。あの二人なら数日よ!他の用事よ、絶対!」


「レーネ…………」

ウダイが自らの手でレーネの手を包む。レーネは不安げなウダイを不思議そうに見つめた。

「火龍なんだ…………」


「か、りゅう?」


レーネは……何と言われたか、理解できない…………


「レーネ、お父ちゃんを見ろ。いいか?事実のみ隠し立てせず話す。うちの商会(れんちゅう)が戒厳令の中、決死で集めた現状だ。

約三カ月前、ベルシード火山の火口から火龍が出現した。情報だと既に成体、急激な気温の変化に各国が気づき、討伐隊を出すも失敗。いよいよの手段として〈英雄〉に討伐を要請し、まず、サイラス様、次にルーク様が入られたが………状況は厳しい。」


「当たり前よ!!!!」

レーネは叫んだ。火龍に後方支援のサイラスと………火……火力魔法のルークが太刀打ちできるわけがない。


「火龍…………」

火龍を魔獣と一緒にしていいのかわからない。突如として現れて、地表にあるもの全てを焼き尽くし、根こそぎ文明ごと消しさる〈厄災〉。火龍の前と後で時代が変わる。

火龍と遭遇したことなどない。だが、これまで戦ったあらゆる魔獣より凶悪で、魔王より意思がないだけなおタチ悪い。ただ、強靭で巨大な身体を持ち、気の向くままありとあらゆるものを炎を吐いて燃やすのだ。


サイラスは防御を展開し、侵入を防いでいるのだろうか?自分の魔力が尽きるまで。

ルークは無属性の拘束魔法で縛り上げているのだろうか?時間稼ぎにしかならないのに。


二人はそれでも戦うしかない。人類の全滅を防ぐには。希望を繋ぐには。


レーネは火龍を止める有効な方法など知らない。殺すのみ。


「レーネ、どうする?」





ようやく40話です。

お読みいただいてる皆様、ありがとうございます!


ようやく『御大』ユアン登場です。

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― 新着の感想 ―
[一言] さすが、大商人お父ちゃん!! ここ!!って所を間違えない(๑•̀ㅂ•́)9"✧
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