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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第三章
36/51

34

ウダイ、サイラス、ルークに見つかりほぼ半年。季節は冬に入ろうとしている。

レーネがゼーブを離れて丸三年。


レーネはサイラスもルークもいずれ出ていくものと思っていた。サイラスはゼーブがほっとかないだろうし、ルークはここの静かで何もない生活はすぐ飽きると思っていた。


だが予想に反して二人は居座っている。それものびのびと………

二人は森に閉じこもっているわけではなく、朝に互いの予定を確認すると、自由に用事を済ませに外に出る。しかし大抵日が暮れる前に戻る。夜サイラス、ルーク揃っていないという日はない。


レーネが

「二人のせいで私の家が狭くなった!プライバシーもない!乗っ取られた!」

と怒ると、


「それは問題だね。」


と言って勝手に力を合わせて増築した。今では各人の個室と居間があり、素朴な調度で整えられ暖かく三人を包み込む。


「ねえ………大工仕事なんていつ覚えたの?」


「へへん、どうだ参ったか!俺はまだまだ伸びしろのある男なんだよ!俺大工とか木工作業向いてるみたい!見直したろ?結婚しよ!」


「…………ルークはボンキュッボンのステキ女子が理想でしょ?」


「ルーク、そうなのか?残念ながらレーネは当てはまらないねえ。レーネは私が引き受けるから、ルークはとっととゼーブにお戻り。」


「違う!理想と現実は違うんだ!レーネならまな板でも紙でも大丈夫だ!」


「……………最低。二人とも。」





レーネが小屋を出ようとすると、どちらかからやんわり尋問を受ける。行き先がレーネの村かレーネの温泉のときは二人とも把握済みとばかりに気持ちよく送り出す。


しかし、レーネがそっと一人で動くと…………そうはいかない。

思いつくまま小屋から少し離れた滝のふもとで花を詰み、滝の細かな飛沫を浴びていると、木陰からひしひしと存在を感じる。


「先生…………」


音もなくサイラスが穏やかに微笑んで出現する。

「心配だったんだよ。」


「こんな小屋のそば、逃げるうちに入らないでしょ。」


もし、レーネが本気で二人の前から消えるなら、流石にもっと綿密な計画をたてる。何の痕跡も残さない。


「そうだね。それでも心配なものはしょうがない。」


「脅してるくせに?」


「脅してるくせに、だ。」


そう言ってサイラスはレーネの額にかかる前髪を退けてキスをする。」


キスされると………親密な気がして………嬉しい。


(私って、ちょろい…………)





「夕ご飯はライバッカで買ってきた蒸しパンにしようぜ。」


「………ルーク、ライバッカなんか行ってきたの?」

ライバッカはケリックの、東の東に位置する国。


「防御を強化する魔石が、ライバッカの御前試合で景品になってたから参加しようかと思って。」


「……………バレたでしょ ?」

レーネは冷めた目で二人といないルークの派手な赤髪を一瞥する。

〈英雄〉が試合になど出たら他の選手は戦意喪失だ。


「あっさりバレた…………丁重に参加を断られた。」


「ルーク、魔石などに頼ろうとしているのですか?ちょっと鍛え直したほうがいいようですね。」


「サイラス様、違う!そうじゃない!」


二人が言い合いを始めたのでレーネは肩をすくめそっと席をたつ。


「レーネ、はい。」


サイラスがレーネの口に蒸しパンを放りこむ。


「……………んんっ、もう!」


「おいしい?」


「おいしいけど!」


「そう、よかった、アーン」


そしてまた大きめの塊が放りこまれる。


「サイラス様、俺も!」


「………いくらかわいい弟子でも男同士でアーンはちょっと…………」


「また違う!パンまわせって言ってるだけだから!!!」


「そうか?」


「ふふふっ」


レーネは笑うようになった。


そしてこんな調子で強引に食べさせられて、まだまだ痩せているが、生命の危機の域は脱した。




レーネが温泉に入っていると頭の上から大判のタオルが降ってきた。


「俺も入る。隠せ!」


何度やめてと言ってもルークは突撃してくる。レーネは諦めてタオルをからだに巻きつける。

ルークは、レーネが少女時代の延長でルークに対して垣根が低いことに遠慮なくつけこんだ。


「うわー!気持ちーーー!」

ルークが魂の叫びをするも、レーネは自分だけの温泉が乗っ取られ、ソッポを向く。


ルークはレーネを気にすることなくガシガシ体を洗う。

ルークの赤い髪は、いつに間にか肩甲骨まで伸びている。出来のいい男はどんな髪型でも似合うのね、とレーネはひがむ。


「ねえ!ルークは他の温泉行ってよ!温泉はアチコチあるし、ルークならどこでも歓迎されるでしょ!ここは私の探した私だけの温泉なの!」

「……………知ってる………俺もここの温泉が一番好きだ。」


ルークはクシャっと笑い、レーネの右手を取り、湯の中でレーネのケロイドにそっと触れて、ちちんぷいぷいとおまじないをかける。そして手を繋ぐ。


「レーネとようやく会えた、俺にとっても唯一の温泉なんだ。」

握ったまま手を持ち上げて、レーネの手の甲にキスをする。


手の甲は………ケロイドないから………よかったと思う。






レーネはもう、完全に定めていた行き先を見失った。


しかし、


(この日々は………きっと永遠ではないもの。)


まだ未来に夢を持つわけではない。




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― 新着の感想 ―
[一言] 根を張ったものは、なかなか抜けないよね・・・(இдஇ`。)
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