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レーネはしっかりとレーネの手を握りこむルークを伴って、夕方小屋に戻った。
これでルークはいつでもここに来られるようになってしまったが、既にサイラスにもバレているので、あっさり諦めた。
サイラスとの再会の顛末はわかる範囲で簡単に伝えた。
「で、今日はサイラス様は?」
「用事があるって王都に帰った。明日戻るって。」
ルークはいつのまにか、海で魚を釣り上げていて、夕食に焼いて提供した。サイラス不在の間は食べないつもりだったレーネの計画は頓挫した。
無理やり1匹ようやく食べて、グッタリしていると、
「ちょっと、鍛錬してくる。レーネ、ここにいるよな?」
ルークが真剣な顔で確認する。
「いるよ。多分先に寝ちゃうから。」
そう言ってレーネは口を尖らせる。ルークはニヤッと笑って出ていった。
ルークは小屋から離れ、レーネに教わった木々が拓けた場所に着いた。
ルーチンである魔力の極限までの排出、再生。新術の可能性を納得いくまで試し、炎をしまう。
ルークの炎に誘われてやってきた蛍がぽぉ……ぽぉ………と点滅するなか、適当な丸太に腰掛け、
『レーネに会いました』
サイラスに念話を送る。
『そうか。レーネを守ってあげて』
返事が来た。
一仕事終わり、ホッとして、夜空を眺めた。
「レーネ………」
レーネはどうやってルークがレーネを見つけたのか知りたがったが、手の内をバラすバカはいないと突っぱねた。実際は簡単だ。レーネが火魔法を使ったから感知できた。
ただ、普通の火魔法ではない。ルークの火力魔法だ。
普通、魔術士は火魔法の威力を上げる時、面積を増やすか爆発を起こすかどちらかだ。炎の威力を温度で上げるという考え方は完全にルークのオリジナル。その奇想天外でまだ粗削りな魔法を発案したとき、当時の魔法省の重鎮達はルークを理解できず、生意気な子供と毛嫌いし、寄り付かず、鼻で笑って放置した。
その旧来にない考えをバカにせず、スゴイスゴイと感心して理解し、初歩ながら扱えるようになったのは、レーネだけ。この発想がのちに精度を上げて青炎につながった。よくも悪くもルークとレーネだけのとっておきの魔法なのだ。
ただしレーネはそのことを知らない。誰でも唱えられると思って気楽に普段使いする。
ルークは小さな炎がほんわりと熱を上げていく波動を感じた瞬間、自身も炎を纏い、彼の地の炎と合体するように念じ、炎ごと飛ばされた。炎はまとまりたがる習性を活かして。
海辺の炎の檻に華奢な怯えた女が閉じ込められていた。その女はあまりに細く儚く人間離れしていてルークは………人魚かと思った。しかし、その漆黒の眼はずっと………特にこの3年弱恋い焦がれていた黒真珠の瞳………
(拒絶するな!)
祈る気持ちでレーネを抱きしめた。
(結婚して!は、いきなりすぎたかな…………)
レーネの呆気に取られた顔を思い出し苦笑する。
どうしても、もう逃げられたくなかった。それに、サイラス様にかなり遅れをとっている。
(焦りすぎだな…………)
それでもプロポーズに後悔はない。本心だし、次のチャンスなんて………ないかもしれないのだ。
ルークは自分の手を眺める。その腕に抱きしめたレーネの細さを思い出す。
「もうこれ以上痩せるな………俺を………もう一人にすんな…………」
ルークは呟き………立ち上がり、ようやく出会えた思い女のもとへ戻った。
小屋に戻ると、レーネは静かにベッドで寝ていた。当たり前だがベッドは一つ。
(サイラス様、どこで寝てんだよ………)
あのサイラスが床で寝ているはずがない。レーネが壁側によって寝ているところをみると、やはり隣で寝ているのだろう。
(レーネと添い寝くらい………何度でもしてるし!)
討伐中は危険を避けるため、眠るレーネを抱いて寝ずの番をしたこともある。逆も然り。
ルークはいそいそと寝支度をし、そーっとレーネの隣に滑り込む。
レーネの傷口に触らぬようにふわっと右手をレーネの体に回し、手を繋ぐ。首筋に顔を埋める。石けんと優しいハチミツの香りがする。
レーネの清涼な香りは………魔獣に怯えて眠れずに、ひっつきあって一晩中しりとりしていたころとおんなじだ。
(レーネ………やっと今まで通りだ………)
ルークは久方ぶりに安眠を手に入れた。
「ブヘッ!」
レーネはルークの裏拳が鼻に直撃し目が覚めた。
「んんん、もう!」
(ルークかさばりすぎだよ。この赤鬼!腹たつ〜!)
レーネは最近全く安眠できない…………




