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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第三章
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お久しぶりです。よろしくお願いします。

「はあ………」

ここ1、2ヶ月で急に慌しくなった自分の身の周りに、レーネはため息をつく他ない。

ブクブクブクとレーネの温泉に潜る。



サイラスは意外にも温泉行きに反対しなかった。ついてくると言われたら嫌だなと憂鬱だったのだが。

これ以上サイラスに肌を晒したくないし、一人になれる場所を失いたくなかった。ここしばらく一人で生活していたレーネには、サイラスとの生活は少し窮屈に感じてきた。


サイラスは聡いからレーネの雰囲気から悟ったのだろう。

「水浴び?そう。清潔に保つことはいいことだ。では私は所用を片付けに王都に行ってくる。明日には戻るから、レーネも明日には戻るよね?」


そういうと、お土産待っててね、と言い残し、シュンと去った。


自分と違い、サイラスはこの二年も腕を磨いている。小屋もマーキングしてあり、きっと私がどこにいても見つけられる移動魔法でも開発したのだろう、とレーネは推測している。だから手綱を緩めたのだ。



ウダイおススメの石鹸で丁寧に洗った自分の身体を眺める。背中は見えないが、それ以外の傷は格段に薄くなった。


「先生すごい………」


既に身体に固定された古傷をここまで修復するなどありえない。サイラスの魔術はもはや神の域だ。


レーネは高齢のユニス師の後継はサイラスのほかいないと思っている。〈英雄〉〈元王族〉という立場が魔法省のトップになれるのかはわからないが、いずれ王都に戻るだろう。


「いつまで気まぐれに、私と暮らす気だろ………」


レーネは答えてくれない海を眺める。はるか上空でカルが「ピィーーー!」と鳴いている。





季節は春から夏に移ろうとしている割に、少し肌寒い。

温泉から上がったレーネは筒状の湯上がり着をすぽっとかぶり、流木を集め火をつけた。湿っていたのかなかなか火がまわらなかったが、魔力で温度を上げると、パチパチと爆ぜだした。


「あったかーい。」


本物の火はいい。炎は心を落ち着かせる。王都の騎士団の寮でもランプを灯すとホッとした。このようにそばで見つめられる焚き火だと尚更。

あっという間に髪が乾く。レーネは火の前に座り、慣れた様子で髪を編んだ。







たいした風もないのに、火が膨らんだ。


「え?」


ドンドン火の勢いは大きくなり、火柱がたち、渦を巻く。猛烈な熱がレーネを襲い咳き込んだ。そして、いつの間にかレーネは炎に取り囲まれた。


「何故?」


(何度も自殺未遂してるけど………焼死は勘弁して……)

レーネは立ち上がり、森の小屋に移動しようとした。すると、炎柱の中心が、みるみる人の形を成していく。その姿は……神の一角、炎帝?


「レーネ!」

呆然として術が止まったレーネを炎帝が捕まえ抱え込む。じわじわと火の勢いが衰え………目の前にはもう元どおりの焚き火しかない。


こんな、炎帝………大きく、恐ろしいほどの魔力を放つ男、知らないけれど………


「………ますます髪、赤くなったんじゃ?」

「元々だ。」

クシャっと顔を歪め、ルビーの瞳を潤ませたルークは、抱きしめたレーネの頭のてっぺんに何度も何度もキスをした。




「おい、まずマント羽織れ!」

「あ、ルーク、顔も赤い!」

「黙れ!」


ルークは再会早々の、タオルを巻いただけに見えるレーネのあられもない姿に慌てた。と、同時に肩や腕の傷が見えて、胸がズキズキと痛んだ。


ルークはレーネを小脇に抱え、レーネの荷物が畳んである温泉脇にズンズン歩き、片手でマントを引っ張り出し、レーネに巻きつけた。そして岩場に腰を下ろし、レーネを後ろから抱き込んだ。


「ルーク!」

「ここ、岩でゴツゴツ。暴れると、お尻ケガするぞ。」

「もう!」


レーネは慌ててマントの打ち合わせや裾まわりを整えた。レーネの動きが止まると改めてルークがレーネのお腹に手をまわす。


「ねえ、さっき火と熱で死ぬかと思ったんだけど。」

「お前が悪い、黙って俺の前から消えやがって!逃がさないように炎で囲った。」


(一言言うべきだった?王都を離れる前に?お世話になりましたとか?追い詰められた人間が?言うわけない。)

「………………」


レーネが黙り込むとルークがレーネの脇腹をツネる。


「いったーい!」


「俺が心配するって思わなかったのか?」


正直なところ思わなかった。ルークはレーネなしで充実していたから。


「…………ルーク、忙しそうだったから。」


「そうか……………」


ルークが頭をレーネの肩にガックリと落とした。

(客観的にみて、浮かれてたからな、俺は…………)

優しい家族と愉快な学友に囲まれ、少々疎遠になっても呼べばいつでも駆けつけてくれる親友レーネもいる、自分中心の甘い世界に酔っていた。


重い沈黙が垂れ込める。レーネはたまらず、思いついたことを口にした。


「さっきの術、ビックリした。炎の中から炎帝が現れたと思った。尋常じゃないよ。」

「鍛えたからな。」

「そっか…………」


ルークもサイラスもドンドン進化している。立ち止まった自分とは大違いだとレーネは思う。

(でも、私の目標は魔王の討伐だったもの。それが終わってもまだ強くならなきゃいけないのなら、どだい自分には無理だったんだ。)


ルークが頭を上げた。


「レーネ、右腕みせて。」





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― 新着の感想 ―
[一言] 強くなるための理由が確固たるものだったからだよ・・・ いつか届くのかな・・・
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