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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第一章
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2


翌日レーネはゼーブの魔法省を訪れた。建物は古く薄暗いが魔力のベールで覆われており、じんわり暖かい。このじんわりには国家機密な結界の魔術が組み込まれてあるのだが、レーネはわからないし興味もない。レーネが〈無害〉と認定されて、建物に出入りできる、それだけだ。


レーネの使える魔法は魔王討伐に特化したものだけ。具体的には身体強化系、身体異常遮断系、移動系。村での生活では初期魔法と生活魔法しか必要なかったので、それらの高等魔法修得は吐くほど厳しいものだった。


そのレーネを何度も何度も吐かせて、水ぶっかけて、容赦なく必要魔法を脳みそに刻み込んだのが、目の前の男、サイラスである。サイラスは回復呪文のケリック最高位であるが、まだ25才と若いため大きな役職にはついていない。この数年討伐で国を空けていたこともある。だが、功績により省内に個室は与えられている。その書類と魔道具が散乱した部屋で、背もたれに体を預けて腰掛けるサイラスのブルーの目がレーネを睨みつける。


「あなた、何バカなこといってるんですか?温泉?どこにそんな暇あるんです?つい先日まで討伐ご一緒しましたよね?勇者サマ?」


「サイラス先生ー、だからだよ!私達そろそろ休憩とってもいいよ。そう思わない?先週の討伐でも私きちんと狩ったよ。50はいったと思う。先生が回復してくれるからだけど。先生も疲れてるでしょ?」


サイラスは親指でこめかみをもむ。目の下はクマで真っ黒だ。


「もちろん疲れてます!疲れてますよ!でもレーネ見なさい、この書類と陳情の山を!さばいてもさばいてもなくならない、むしろ増える一方。休みなんかとったら机見えなくなるよ!」


「なんでサイラス先生ばっかりそんな抱えてんの?書類仕事は他にふればいいじゃない?」


「それは陳情のレベルがうちのパーティレベルじゃないと無理なもんばっかりなのと、その討伐を実行したものしか報告できないからです!当然報告書作成は役人の私にくる。レーネには資格がない。ルークはそもそも学生だしゼンクウは自国に帰った。」


実のところ勇者パーティがでるほどではない仕事が半数を超える。ただ陳情する側は勇者パーティを使ってハクをつけたいために、過激に内容を盛るのだが、それらをいちいち選別する人手もない。


「一泊でもだめ?」


「…おまえ話聞いてたの?無理だ!」


「私、お手伝いするからさ…」


サイラスはため息をつき、いつになく食い下がるレーネを眺めた。そもそもレーネの〈お願い〉自体が珍しいのだが、サイラスは自分がいっぱいいっぱいのためそのことに気づかなかった。


「レーネ、時期が悪い。諦めろ。今日は帰れ。そのうち俺がハクリの高級宿に連れてってやる。」


ハクリとは国一番と名高い温泉郷である。


「・・・・それいつよ?」


「っ、いい加減にしろ!おまえは勇者だ!立場をわきまえろ!」


聞き分けのない弟子に余裕のないサイラスはとうとう爆発した。常に冷静で声を荒げることのないサイラスのこの姿に、レーネは引き際を誤ったと悔やみ、黙ってドアに向かった。

自分の声に驚いたサイラスも一気に冷めた。レーネは自分の要求についてこれた唯一の弟子なのだ。後ろ姿のレーネに穏やかな声を心がけて話かける。


「…レーネ、ルークとご飯食べておいで。私のツケでね。うまいもん食べて気分転換しよう。私も今日は久々に家に帰って家族と食べるよ。」


レーネの肩がビクッと震えた。


「・・・わかった。」


レーネは一礼して部屋を出た。



「………家族…かあ…」


レーネのつぶやきは誰にも気づかれず、空気に霧散した。

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