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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第三章
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26

「サイラスはなぜこのタイミングで?」


春の雨が乾いた空気を潤す午後、月例会の場で、ケリック王が報告書を手に宰相ジョージに尋ねる。


「時間がないと、おっしゃっておられました。」


「そうか。」


王は窓の外の、芽吹き始めの薄黄緑の若葉がしっとりと濡れていくのを眺めた。


王はサイラスを幼いころから目をかけてきた。膨大な魔力を持って生まれ、その魔力を活かすにはどうすればいいか、自ら考え努力できる才を持ち、人をひれ伏せさせるにたる実力を身につけた。若くして、世界を自分を俯瞰で見つめることのできる男。王の器。


〈英雄〉になることがなければ、自分と、次期王となるであろう息子の右腕となり活躍してほしいと思っていた。


その男が身辺をキレイに整理し、ゼーブを立ったということは、よほど『時間がない』のだろう。




「ルーク様も派手に消えたらしいな、小耳に挟んだが。」

バークが片眉を上げてユニス師に尋ねる。


「私はその場にいなかったけどね、弟子に聞いたところによると、赤髪を逆立てて激怒したそうよ。そして淡々と絶縁宣言。あの優しいルーク坊が。あの財務オヤジが、もうちょっと嫁を制御できればこんなことにはならなかったろうに。」


ユニス師が眉を八の字にして言い募る。

ルークのパーティーでの騒動はここに揃うメンバーには当然正確に伝わっている。〈英雄〉の動向は国家の案件だ。


「家族だからという甘えじゃな。ルーク様がどれほどの痛みや悲しみの中で生きておられるのか読めておらんかったのじゃ。」


そう言ってネル老師は渋いお茶を飲む。



(甘え………)


王は〈英雄〉に敢えて甘えてきた。はっきりいえば否と言わない〈英雄〉達を利用してきた。己の代の治世のために。特殊な力を授かっていることを理由に当然のように討伐やら何やらの〈依頼〉という名の〈命令〉を出した。必要だった。己のやったことに後悔はない。国と民の安寧のためならば。


しかし、〈勇者〉が去った。疲弊して、絶望を目に浮かべて。


自分くらいは〈特別な立場故の孤独〉に気づくべきだった。質は違えど日々痛感しているのだから。〈唯一の存在〉の我々は、人々の勝手な、こうあるべきだというイメージに振り回されて、一方的に尊敬され、妬まれ、差別される。


そして…………レーネも守るべき民の一人だと思いださなければいけなかった。



そしてまた、〈英雄〉二人が去った。心にあるのは怒り?失望?諦め?それとも自分自身への後悔か?


(潮時だ。)




「お二方とも軍にパイプを残していってくれた。何かあったら駆けつけると。」


「サイラスのしつけが良かったんだね。ルーク坊はカッとなると他のことは忘れてしまいがちだから。」


「まだまだ中級クラスの魔獣は発生します。複数となると長期戦となり、民の生活に響く。〈英雄〉にそう言っていただいて、本当にありがたい。」


「ならぬ。」


王が窓の外から視線を戻し、宰相の言葉を止めた。


「今後、〈英雄〉に討伐依頼することを禁ずる。我々の力でなんとかするのだ。」


一同、目を見開いた。


「英雄に頼るのは終わりだ。各々訓練し、策を練り、効率よく、怪我人なく、討伐する方を手に入れろ。これまで何度となく〈英雄〉の戦いは見てきたはずだ。」


「………………」


「そもそも〈英雄〉も〈勇者〉も……………多少特徴はあれど3人とも………愛らしい普通の子供であった。たまたま〈英雄〉に選ばれ、否応なく努力させられただけ。〈英雄〉の半分も働けないのであればそれはただの努力不足。」


「王よ…………」

ネル老師が目を閉じ、云々とうなずく。


「前回の魔王クラスの脅威が現れない限り、〈英雄〉を招集することはない。よいな?」


「「「「御意。」」」」


速やかに散会となり、各々組織に戻るやいなや討伐部隊の強化、再構築の検討に入った。








ブクマが一気に増えて驚いています。

ようやくジャンル[恋愛]に恥じない中身になってきたから?

とにかく、読んでくださる全ての皆様、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 賢王になられるのか・・・ レーネの心身の傷は無駄では無かったよ、大怪我ですけど!!!
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