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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第三章
27/51

25

ルークがサイラスを追ってたどり着いたのは〈ダイコン亭〉、サイラスは店の片隅で珍しく………酒を飲んでいた。


「ルーク、主役なのにこんなとこに来て………一揉め(ひともめ)してしまった?」

「ん………トドメ刺してきた。あの女にも………家族にも。」


「………そう。ルーク、君も立派な大人だ。私から言うことはなにもないよ。」

そういうとサイラスはルークに新しい盃を渡し、半分ほど減ったボトルから自分の酒を注いだ。


「ルーク、成人おめでとう。これまでよく頑張ったね。」


「サイラス様………ありがとうございます。」

ルークはこの日初めて晴れやかな笑みを浮かべ、チンと盃を合わせた。


サイラスはルークのパーティーに参加するため、ローブではなく珍しく黒の最上位礼服を着ている。お互いしか残っていない〈英雄〉同士、誰よりも一番の敬意を示したかった。結局のところ二人とも抜け出して〈ダイコン亭〉にいるのであるが。


〈英雄〉として、男として、ますます成熟した二人が腰かけ語りあう姿は圧巻で、本人たちが気づかぬまま、〈ダイコン亭〉は人々の興奮する熱気に包まれていた。


「ルーク、君の成人も見届けた。私が君に教えることはもはやない。私は………王都を出ようと思う。」


サイラスはそう言うと、懐から手紙を取り出しルークに渡した。


ルークは訝しげに受け取り、差出人をみると、流麗な字で『ウダイ』とある。慌てて中を開ける。


『レーネ様にお会いした。』


便箋には一文だけしたためてあった。


「これだけ?」


サイラスがクスリと笑う。

「それだけだ。それだけでも教えてもらえただけ有難いと思わなければいけないだろうね。私のもとに昨日届いた。いい成人のプレゼントになったね。」


「レーネ………よかった………」

ルークの紅い眼が潤む。


「ウダイがレーネを探し出せた。私には何の手がかりも掴めなかったのに。ルーク、私は……ウダイに負けたくないのだよ、これ以上。もうなりふり構わない。ウダイに魔法で影を張り付かせてでもレーネを見つける。レーネを甘やかすのは私だ。」


サイラスは少し酒が回ったのか、いつになく饒舌だった。


「13歳のちっぽけでただ勇者の剣を所持するだけの女の子を見守り、育てたのは私だ。怒って飛びかかってくる相手も、泣いて抱きついてくる相手も、慕って微笑みかける相手も………私でなければ。」


「サイラス様………」


「いつかレーネは、『私達、そろそろ休憩してもバチ当たらない』と言っていた。その通りだ。省での仕事も区切りがついた。私は休憩に入るよ。そしてレーネを見つけ私の全てをレーネの幸せに捧げる。ひたむきで可愛い、孤独なレーネを今度は間違えない。私の腕の中で大事に慈しむ。」


「サイラス様、それは弟子だから?」


「愛弟子でもあり………この世で最も美しい女だから。」


サイラスは会えない間に成長したレーネを想像した。

(結局…………私が信頼できる女性はレーネだけ。愛しいと思うのはレーネだけ。早くあの怪我を癒して、もう頑張らなくていいと安心させないと……)


「サイラス様………ズルイよ。」


サイラスが意識を目の前に戻すと、ルークが睨みつけていた。

「レーネは俺のだ。レーネのそばにずっといたのは俺だ!未熟で………一人にしてしまった罪もオレのだ!」


サイラスの告白に…………ルークは目の前の霧が晴れた思いだった。特殊なふたりぼっちの少年少女時代を過ごしたルークとレーネ。自分だって、ずっと昔からレーネのことを、足手まといに思い、ほっとけなく思い、憧れ、嫉妬し、心配し…………大好きだ。女であるレーネが他の男のものになると考えただけで気が狂いそうだ。


「オレのほうがずっとレーネのこと好きだ。13から、ずっと。」


〈英雄〉は忙しすぎて、今まで自覚できなかった。それはサイラスも似たようなものだった。


サイラスは片眉を軽く上げた。


「そう、ルーク………では、我々はこれからライバルですね。私はこうと決めたら汚い手でもなんでも使うので覚悟してください。」


「サイラス様が容赦ないってのはオレとレーネが一番知ってますってば!」


「ふふふ!」

サイラスが珍しく声に出して笑い、そして穏やかにルークを見つめた。


「でもね、ルーク、私はルークも愛してる。君のピンチに命を捧げてよいほどに。」


ルークは唐突な重い言葉に茫然として、クシャリと顔を歪め、はらりと涙をこぼした。


「オレだって……この2年、サイラス様がいなかったらオレ………っサイラス様、一生分の俺の敬愛をあなたに………サイラス様のピンチはオレが守ります………」


サイラスはやれやれと、出会った頃のルークにしていたように、頭を優しく撫でた。



数日後、〈英雄〉二人がそれぞれゼーブから立った。今後も連絡は着くが、王都から居を移したことに少なくない人々が動揺した。




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