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(よくも厚かましくも俺の目の前に出てこれたな。)
あの時自分が罵倒した相手が誰だったか、自分が何をしでかしたのか、きちんと説明を受けたはずである。それなのに………よほどレーネのことを軽んじているのか?箝口令が引かれたため、ルークの耳にすら入っていないと思ったのか。
ルークが驚き眼を見張ると、マーガレットと呼ばれた女は頰を染め上目遣いにルークを見上げ、まばたきする。
(美しい女の部類だな………確かに………だが………)
いきなりルークの纏う魔力が攻撃的なものに変化し、圧を放つ。ルークに握手のためか手を伸ばしていたマーガレットが後ろに飛ばされ尻もちをついた。
「お兄様!」「ルーク!」
ポリーはマーガレットに駆け寄り助け起こす。ほぼ同時にルークとマーガレットの間に見知った顔が立ち塞がった。
「ルーク、どうしたのです?」
「サイラス様」
ルークの異変にいち早く気づき飛んできた招待客の一人であるサイラスに、マーガレットのほうに視線を向け目配せする。
「…………まさか。」
サイラスの滅多なことで揺らがない美しい顔が曇る。
「……ルーク、すまない。とても平常心でいられそうにないよ。私としたことが修行不足だね。また……あとで。」
サイラスが顔を歪め、シュッと消えた。
(サイラス様は優しい)
目の前の女を傷つける前に消えたのだろう。サイラスのいた空間を眺めルークはそう思った。
(でも、俺は優しくない。)
ルークは『大人』になり、人当たりよく接することも慣れた。だが、才能ゆえに幼い頃より異端児扱いされてきたため、本当に心を許すものはごく僅か。その少数以外の人間など基本どうでもよく、その少数を傷つけた者には徹底的に報復する。
「お兄様、私のお友達に向かって何するの!」
「黙れポリー!」
敬愛する兄に冷たく睨みつけられ、ポリーは夢を見ているのかと思う。今夜の主役のただならぬ様子、〈英雄〉サイラスの急な消滅、場が静まり帰り、ルークとマーガレットの両親が駆け寄ってきた。
床に座り込む女を上から見下し、ルークは低い声で圧を消さぬまま、話しかける。
「マーガレット嬢、あなたはとっても美しいね………なんの苦労も知らぬ無知な顔。」
「そ、そんな……どうして?」
「俺はあなたのように美しい人が大嫌いだ。俺の好みは〈バケモノ〉でね。」
「ひっ!」
マーガレットの母親が真っ青な顔で悲鳴をあげる。
「あんたたちホント心臓強いね。俺の前に顔出せるなんて。オレとサイラス様、ゼンクウさん、そしてレーネがどれだけの絆で繋がってるか想像できないの?サイラス様を追い出せるなんて大したもんだ。」
「ルーク、やめなさい!」
ルークの父が間に入ろうとする。
「ねえ、あんたが気味悪がったレーネの腕のケロイド、オレがつけたって知ってた?」
マーガレットがブルブル震えながら叫んだ。
「し、知らなかったんだからしょうがないでしょう!」
「その想像力の欠如に虫酸が走る。なぜあんな大怪我をしてるのか………バケモノと言われたら相手がどう感じるのか………それもわからない人間が、さも守られて当然といった顔をしてるのに反吐がでる。」
「ルーク、か弱い女性に対して何て事を!恥を知りなさい!」
ルークの母が信じられないものを見たというように、首を横に振りながらわめく。
「か弱い?とんでもない、この女は口先だけでおれの親友に死にいたる傷を負わせた。」
「そんなことできるわけないでしょう!」
(………もう、ウンザリだ。)
ルークはツカツカと父親に向かって歩いた。
「何故、王をして最悪の過ちと言わしめた、その元凶を今日呼んだ?」
「…………すまん。その娘が例の娘とは気づかなかった。」
「父上の顔を立てるため、これまでお付き合いしてきましたが………ここまでわかりあえない。もう不可能です。俺たちを不死身と思ってる。強い人間には何しても許されると思ってる。俺たちが魔獣を切るときどれだけ恐れ傷ついているのかわかる気すらない。」
ルークの父は国の要職にある身、レーネの消えた顛末を当然耳にしている。
「ルーク、今日は堪えろ。」
「無理。もうオレの話しを聞く気のない聴衆にも、思い込みで息子だけを神聖化する家族にも限界。レーネが〈バケモノ〉ならオレも〈バケモノ〉だっつーの。母上、お世話になりました。ポリー、元気でな。父上、連絡は今後軍部を通してください。」
ルークはシュンと陣をきり……消えた。
「キャーーーーーア!!!」
ルークの母の悲鳴が会場に木霊した。
ブクマが100突破しました。こんな地味な話なのに………感謝感謝感謝です。
ルークのターンがようやく来ました。




