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「この村を探すのに、一苦労しました。半年ほど前、親がこの村出身だという女性と出会ってからようやく絞り込めて………あの手入れの行き届いた石像を見つけ、ここだと思いました。でも人が住める建物はどこにもない。」
「…………」
「私は、特別な日にレーネ様はここに来るのだと思い…………ここ数日、見張っていたというわけです。」
「数日?」
「正確な日はわからなかったので。今日だったのですね。ご家族のお亡くなりになった日は。レーネ様の巫女舞、感激いたしました。」
髪も肌も白く透き通ったレーネは陽光の妖精のようで、日が陰ったら消えてしまいそうに思えた。それでウダイは急いで抱き寄せたのだ。
「ウソ!見てたの!?信じらんない!」
お囃子もなく一人踊ってる姿を見られるなんて恥ずかしすぎる!とレーネは顔を真っ赤にした。ウダイは微笑んでレーネの頭を撫でた。
「はあ、もういいわ。それで用件は?」
「用件?」
「なんだかわざわざ苦労して私を探したみたいだもの。なんか用件があるんでしょ?」
「先程言いました………レーネ様を探しに来たのです。」
「探すのは手段であって目的ではないわ。」
「……………レーネ様に、ただ会いたかったから探したというのではダメですか?」
「え、なんで?」
レーネはキョトンとして首をかしげた。ウダイは商人、時は金なりの人だ。手間をかけて自分に会ってどんなメリットがあるのか?
ウダイは………ただ、親愛だけでも人は動くのだということを忘れてしまったレーネに悔しくなり、乱暴に抱き寄せた。
「あ!」
「レーネ…………お兄ちゃんは怒ってるんです。勝手に消えたこと。あえて言えば説教することが目的です。そもそも兄妹は用事も用件もなくても数ヶ月に一回は会って近況報告しないといけないのです。」
「ウダイさんそれ……」
「一度兄妹になりながら勝手に止めることなんてできません!」
「そんな!」
「レーネ、妹がいなくなって、私はとても寂しかった。約束したのに手紙もこない。私からの手紙は宛先がわからないから溜まる一方。」
ウダイがレーネを覗き込む。
「レーネ、こういう時はなんて言うの?」
「…………ごめんなさい?」
再び、ウダイに抱き込まれた。
(驚いた。ホントに私を………心配してくれたみたい)
今ひとつ納得できないが、久しぶりの人との抱擁は心地よいものだった。
レーネは幼子のようにウダイの膝に座らされ、お菓子やお茶を食べさせられた。そしてそのお菓子を手に入れた地方のことを面白おかしく聞かせてもらった。
2年半ぶりのウダイは、数日この辺りで野営していたのか、服装は少しくたびれていたが、人当たりのよいまま逞しくなり、青年から大人に変貌していた。優しい茶色の目は変わらないが。
レーネはあまり口を挟まず、穏やかな時間が流れた。やがて空気が冷たくなり、日が傾き、レーネの村は廃墟に戻っていく。
「……………レーネ、私と一緒に帰りませんか?」
レーネの体が固まった。
(帰るってどこへ?そこで私に何をしろと?)
レーネの様子の変化に気づいたウダイは優しく腕をレーネのお腹にまわした。
「深読みしないで。ただ私はレーネと一緒に暮らせたら楽しいと思ってるのです。」
「…………ないわ。」
「レーネと一緒にしたいことがたくさんある。一緒に料理したり、観光したり、商売も教えたい!」
「………………一緒にいるとき討伐命令が来たら?」
「行く必要ない。」
「じゃあ、あなたの街が襲われたら?」
「私がレーネを守るよ。」
「………無理よ、あなたはきっと他の大事な人を守る。そして私は勇者のくせに何してんだー!って怒鳴られるんだわ。早く殺せ、殺せって。」
「そんなこと言わない!」
「ウダイさんが言わなくても誰かが言うわ。状況は……人の心はドンドン変わるもの。」
レーネの心に久々に波がたった。スルリとウダイの腕の中から立ち上がって、ウダイを見据えた。




