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魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第三章
20/51

19



木漏れ日の落ちるなか、頭上では小鳥がチュンチュンと仲間を呼んでさえずる。


レーネは森の奥深くの小川で足を浸し、眼を閉じていた。日差しのない生活を続けたせいでレーネの日焼けはすっかり抜けて、元々の真っ白な肌に戻り、筋肉が落ちて身体は細く、小さくなり、髪も白いまま。その姿は妖精のような儚いものに変貌していたが、


あれから2年余り、レーネはまだ生きていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



親子と思われる魔獣を見たあの日、レーネは気づいたら生まれ育った廃墟と化した村に立っていた。フラフラとあちこち欠けてしまった山神の石像にたどり着く。


山神様の周りにはレーネが愛する人びとの弔いにと、移動魔法で訪ねてきては色とりどりの花を都度都度植えているのだが、冬の始まりの今、そこは枯れ野があるだけ。


山神様の石像の前に跪き、祈りを捧げたあと、レーネは右脚に巻きつけている短剣をとりだした。


(私は………どうやら罪人(つみびと)みたいだから………みんなのところには行けないかもしれないけど………)


(でも…………もうクタクタなの…………お母さん…………)


(みんなの側に……………山神様………御慈悲を……………)


レーネは会えるかもしれない母を思って微笑んだ。そして短剣を勢いよく首に向けて振った。


突如、膨大な魔力による風の渦が巻き起こり、レーネはよろめき力の出どころである空を見上げた。


「……カル!」


カルが猛スピードでレーネ目掛けて降下したかと思うと、レーネの短剣を握る手をクチバシと爪で攻撃してきた。


「カル!止めて!」

レーネはカルを振り払い距離をとる。するとカルが翼で大風を呼び、レーネに叩きつける。


「カル!邪魔するなーーーー!」


レーネは防御魔法を展開し、カルからの物理攻撃を弾いた。そして結界を張り、カルをその向こうに押し出し、睨みつけた。母と、皆と会うのを邪魔するものはレーネにとって敵でしかない。


「ピイーーィ!ピイーーーーィ!!!」


カルが必死な様子でレーネに向かって鳴く。だがレーネの心は他にあり、届かない。


レーネは短剣を持ちかえ、再び振り上げた。切っ先が首をかすめた。



ドォーーーーーーーーーン!!!


空が割れ、光が堕ち、爆発した。結界は破られ、レーネは吹き飛ばされて短剣を手放した。


まばゆい光が収まったところには…………〈アカツキ〉が突き刺さっていた。


「…………どうして…………」


レーネはハッと自分を取り戻し、短剣を拾い上げようとしたが、〈アカツキ〉に再び目を眩ませられ、カルに短剣を持ち去られ…………戻ってきたカルはレーネの肩に乗り、頭をレーネに擦りつけた。


「はは…………。」


(死ぬこともままならないのか…………)


(これ以上、一人で、どう生きろと……………)





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




結局レーネは死ぬことができない。カルの不在を狙っても、〈アカツキ〉を谷底に落としても、事を起こそうとすると瞬時に現れ邪魔された。


結果、レーネは物理的に死ぬのを諦めた。そして緩慢なる死を目指すことにした。ただ食べない。魔獣に反撃しない。それだけ。


死に向かうとはいえ、それまで不快に過ごしたいわけではなく、レーネの村の所有していた、森の奥の猟師小屋に住むことにした。村人がレーネだけの今、この場所はレーネしか知らないレーネのものだ。


数日食べずに過ごすと、カルが獲物や木の実を咥えてやってきてレーネをつついて無理矢理食べさせる。外敵は〈アカツキ〉の覇気に威圧され近づいてこない。過保護な保護者のせいで死神はなかなかやってきてくれない。身体中のケガも痛みはあれど加護があるのか感染症などはおこさない。薄い皮膚の膜がはり、そのままだ。


レーネは移動魔法で、たまに〈レーネの村〉に行き花を手向け、たまに〈レーネの温泉〉に行き体を清める。それ以外は森の〈レーネの小屋〉で過ごした。〈一人〉であることを受け入れ、淡々と日々を消化するだけではあるが、心は凪ぎ、いつか迎える無を待っていた。



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[一言] やだよやだよ カル・・・
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