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丘の上で膝を抱えて座り込み、枯れかけた草を引っこ抜いて投げる。また投げる。
「はああ・・・もうイヤ・・・」
この討伐後三カ月、謁見、パレード、残党狩り、謁見、パレード、たまに慰問、残党狩りのエンドレスの日々。
いい加減クサクサして、クサをちぎる。
(討伐話ばっかりさせられてアゴ痛い。握手も100人超えると辛い)
(感謝の気持ちはありがたいけど、もはや珍獣扱いレベル・・・これいつまで?・・・・)
(ゆっくりしてもいいんじゃ?そろそろ。もう頭空っぽにしたい)
レーネは頭の後ろに両手を組みゴロンと転がった。肩まで伸びた白髪が地面に初霜のように広がる。レーネの髪の色は勇者になったあの日抜け落ちて、それ以降戻らない。旅の間は髪はただただ邪魔でなければよくて、同い年のパーティメンバー、ルークの風魔法で耳が見えるまでザックリ切ってもらっていた。肌は元は白かったが、過酷な旅で日に焼けて浅黒く、瞳は漆黒。白で黒、これが今代勇者を表す色と定着した。今日のいでたちも、長袖白シャツに黒のロングパンツ。意図したわけではないが、修道院訪問には華美ではなく動きやすく、まあはまっている。
(女子らしく買い物?あーでも顔われてるから騒ぎになるし。。。読書?魔法習得で吐くほど読んだ。。。旅?一生分したし。。。)
勇者になる前にしていたことを思いだしてみても、家畜の世話、薬草摘み、夜は繕い物。
繕い物のシーンで機を織る母が浮かび、レーネはとっさに記憶を追いやろうとした。母親の最期の姿に繋がるのを恐れた。
記憶の母は微笑んで話し始めた。
『・・・・・・・ねえ、レーネ?今度の織物の売値がよかったら、温泉いこっか?父さんと昔行ったことあるのよ。心も体もサッパリしちゃうの・・・・』
母が穏やかな姿に留まったことに安堵し、レーネの顔に久々に笑みが浮かぶ。
(・・・・・母さんナイス!温泉よ、お・ん・せ・ん!)
レーネはむくっと起き上がり、ピピピと指笛を吹き、お尻についた枯れ草をパンパンとはたいた。
そうこうするうちに後ろからブワっと風がふき、レーネに向かって一羽の鷹が一直線に飛んできた。
「カルーーー!」
レーネが叫んで手を振ると、鋭い翠色の視界でそれをとらえた大型の鷹はスピードを落とし、ホバリングしてレーネの左肩に着地した。
カルとレーネが呼ぶこの鷹は、レーネの実力がそこそこついてゼーブ周辺の魔物で腕試ししているときに出会った。鷹とはいえただの鳥。であるはずだが、中型魔物を視線のみで威圧していたのを見て、出会うたびにしつこく声をかけ、なんとか慣れてもらい友達?になった。〈カル〉という名は身が軽いところから、レーネが勝手につけた。
「カル、決めた!温泉行こ!」
カルはレーネとジーッと目を合わせ、、、数秒後肩から飛翔した。
「カルーーー!どゆことーー〜!きっと羽がキラッキラッになるよーーー!?」
カルはレーネの頭上を二度回ったあと、日の沈む方角へ飛んで行ってしまった。カルは自由だ。たまに足に文を巻いて飛んでいることもある。きっと友達はレーネだけではない。いろんな土地に仲間がいて、その土地土地で違う名前で呼ばれているんだろう。今日は会えてラッキーだったのだ、とレーネは思った。
カルの飛び去る姿を見送ったレーネは、奉仕作業をササっと終わらせることにし、走って修道院に戻っていった。
温泉好きです。。。