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討伐箇所を起点に西部地方の街や村を手分けして探索していたサイラスとルークはアコンにたどり着いた。アコンは温泉地と聞き、少なからず希望がわく。
プレートを見せると門番が目を見開いたのを見て確信した。
「このプレート見たことあるみたいだね。」
ルークが尋ねると、
「〈英雄〉サイラス様、〈英雄〉ルーク様、ようこそアコンへ。」
と頭を下げられ、丁重に町長のところに案内された。
「このような日が来ることは覚悟しておりました。サイラス様、ルーク様、私共の街で勇者様を不快な目に合わせたこと、心よりお詫びいたします。」
二人は町長より、レーネが、街に入ることを拒まれ、そのうえ浴場で罵倒されたと聞いて血の気が失せた。
(なんでレーネがそんな目に会うんだよ…)
ルークは両手で顔を覆った。ようやく手に入れた情報は最悪に気分を悪くするものだった。しかしようやく念願の足取りが掴めた。
「それで、レーネの行方をご存知か?」
サイラスが感情をまじえない声で聞くと、
「わかりません。お二人が今日お見えになったことで私もゼーブに戻られていないのだとわかったのです。残念です。」
「他の関係者は?話を聞きたい。手がかりがあるかもしれない!」
怒りが見え隠れするルークに町長は慎重に言葉を選んだ。〈紅蓮の王子〉に睨まれたら、街は一瞬で灰になる………
「関係者と言いましても、番台は今回の騒動に疲れ果てて、辞めて街を出ました。泊まられた宿の主人を呼ぶことはできますが、たいした話は出来ないかと。滞在の間、勇者様の手となり動いていたのはウダイなので。」
「ウダイ?何者だ。」
「ブリッジ商会はご存知でしょうか?」
「もちろん。」
「ウダイはブリッジのナンバー2です。勇者様と懇意なご様子で、手紙のやりとりもしているようでした。」
「手紙だって?」
ブリッジのウダイ、聞いたことのない相手にレーネが手紙を書いていると聞きルークはズキっときた。レーネのことは把握しているつもりだったが、この探索の旅でどんどんその自信がすり減っていく。そもそも手紙なんてもらったことがない。念話で済ますからではあるが。
(レーネは手紙に何を書くの?俺たちには言えないこと?)
物思いに沈むルークをチラッと見つつサイラスは続けた。
「そのウダイに至急会いたい。どこにいる?」
「商人ですのでひとところには留まりません。とりあえず商会に連絡してみるのがよろしいかと。」
「緊急事態だってわかるだろ?もっと早く呼びつけられないの?」
「ルーク様、ここは辺境の地。ここでの生活は商人に支えられております。この地を選び立ち寄る商人はブリッジのみ。彼らは生命線。我々はウダイにあれこれ指図できる立場にないのです。」
「では我々の名を出せば?」
「辺境の街の町長の頼みよりも急いでくれましょう。ああそれと、ウダイは浴場の様子を録画した魔道具を持ち帰りました。魔術師がいなければ見れないものですので、ここでは見られませんでしたが。」
「そんなものがあるのか?」
「自衛のためです。観光地というものは何かと揉め事がおきやすい。もちろん浴場という場所が場所だけに映像を見るのには厳しい条件をつけております。そもそもわが街の浴場の建物はブリッジ商会に立ててもらったものでして、だからこそ高価な魔道具を設置でき、外して確認することもできる、ということです。」
ブリッジ商会のウダイ、その男に会わなければ次に進めないことがわかった。サイラスはその場でウダイと連絡を取りたい旨を手紙にしたためて、ブリッジ商会の本拠地に送った。ウダイがどこにいるかわからない以上、交通の中心でもあるゼーブに呼び出したほうがよさそうだ。
(ウダイ………話を聞くに大きな商いをする男だ、一筋縄ではいかないだろう……レーネもとんだ大物を捕まえたものだ)
レーネが消えて一カ月、最後に顔を合わせてからだと二ヶ月あまり。
「サイラス様、ゼーブに帰りましょうか?」
ルークが声をかける。一度行った場所であれば移動魔法を使えるので帰りは一瞬だ。
(帰るか……レーネはどこに『帰った』のか………)
サイラスは人差し指で陣を切り、ルークとともにアコンから消えた。
ムーンに軽い短編を投稿してきます。レーネさんが暗いので気分転換です。
(必ず明るくなります!)
次の更新は年明け予定です。よろしくお願いします。