表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王討伐その後で  作者: 小田 ヒロ
第一章
14/51

13

お久しぶりです。よろしくお願いします。

瞬間、ピーンと結界に刺激が走った。レーネは慌てて岩場の陰に隠れ、涙をぬぐい、反応した方向を見つめた。


「魔獣、オオカミ型ね………。」


レーネにとって敵ではないが、のんびり服を着る時間はない。

(よりによって裸のタイミングで来るかなー……)


過剰な魔力をかけて、魔法一発で殺す(やる)しかない、打ち漏らして裸で接近戦なんて冗談じゃない!集中し魔力を集め出すと、魔獣もレーネに気づき、互いに睨みあった。


必要量の魔力が右手に集まり、地熱を利用して燃やし尽くそうとした時、魔獣の足元で何か動いた。

(まだいたのか!?)


レーネは目を凝らした。………確かにもう一匹いた。オオカミ魔獣と同じ姿だがうんと小さく、先の魔獣にまとわりつきミャーミャー鳴いている。


「赤ちゃん!?」

魔獣に子供がいるなんて聞いたことがない。魔獣は魔人か悪意が創り出す〈害〉で、やらなければやられるというのが常識だ。実際レーネの村は魔獣に滅ぼされたのだ!しかし、今、目の前にいる魔獣は……親子にしか見えない。親は子供をかばいレーネを威嚇し、子供は親に構ってほしくてじゃれついている。


(親子なの?)


レーネはこれまで何千という魔獣を殺してきた。

(もしも…その何千の魔獣の中に……〈害〉だけではなくて……子を持つ親の魔獣がいたとしたら……)


(私は………親や子をいっぱい殺しちゃったの?私がお母さんを殺されたように、逆に誰かのお母さんを殺してたの?)


「私は………人殺しと一緒なの?」


「……お母さん………………………。」


レーネの目から光が消えた。








ウダイはアコンにとんぼ返りしてきた。町長から「勇者を再び怒らせて、出ていかせてしまった」という速達が届いたからだ。なぜあと一日、レーネにつきあわなかったのか。ゼンクウを探すためとはいえ、ウダイは悔やんでも悔やみきれない。


町長立会いの下、浴場の番台の話を聞き、ウダイは腹わたが煮えくりかえる思いがした。

「なんと……おいたわしい…………。」


「レーネ様は何もおっしゃらず、今にも泣きそうで………私、どうしていいかわからず、本当に申し訳ありません!」


「勇者様を非難したのは、中級貴族の温泉客でな、一応街に留めているが、会っておくか?」


「いや、会うと抑えがきかなくなりそうだ。名を教えてくれればいい。」


レーネを罵倒した女二人を遠目に見つめ、脳裏に焼き付けてから、ウダイはレーネの宿に行き、浴場より戻ってから出立するまでの話を聞く。すると、思いがけずレーネから手紙が託されていた。封筒の、女の子らしい華奢な筆跡を見て、ウダイは胸が熱くなり、慎重に封を開けた。


『ウダイ様

本日は私のためにお骨折りくださりありがとうございました。

宿泊の面倒まで見ていただき申し訳ありません。

また、日々お忙しく過ごされているウダイ様につい厚かましい〈お願い〉をしてしまいました。

お恥ずかしい限りです。

二つのお願いともに、どうかお忘れください。

ウダイ様の今後の人生に、幸あらんことを。


レーネ 』


ウダイは両手に顔を埋めた。よそよそしい手紙。お兄ちゃんと呼んでくれたかわいいレーネは、傷つき、ウダイからあっという間に距離をとった。おこがましくも兄になる、力になると誓ったにもかかわらず、助けられなかった。


「レーネ様………兄妹の契りはそんなに簡単になかったことにはならないんですよ。勝手なことして……私は身内には厳しいと言ったはずです…………。」


「………最も、その身内を傷つけたものには、もっと厳しいんですがね。」


ウダイはレーネとの出会いから全て、父親であるブリッジ商会の会長に報告している。ブリッジ商会は今後レーネにつく。レーネだけの後ろ盾となる。レーネに刃を向けるものにウダイとブリッジは容赦しない。


(レーネ様、私が探しだすまでどうか、心穏やかに………)


レーネの手紙を額にあてて、ウダイは祈った。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ