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「あの……それで……もう一つの『お願い』なんですけど……。」
「はい!何でしょうか‼︎」
「そ、そんな難しいことではないんです!あ、あの………」
レーネは少し躊躇ったが勢いで続けた。
「わ、わたしの、お兄さんになってください!!!」
見ず知らずの自分の窮地を助け、評価してくれるウダイと、これっきりで縁が切れたくなかった。優しい雰囲気とレーネのペースを尊重してくれる彼は、レーネの理想の兄像そのものだった。唐突すぎることはわかっていたが、だからといってスマートな言い方は思いつかない。手のひらに汗がにじむ。
ウダイは間抜けな顔をしそうになったが気合いで乗り切った。
「は、はあ…」
レーネはじわじわと顔に血が集まるのを感じたが、何とか言葉を紡いだ。
「あの、私、そもそも田舎もので、モノを知らなくて………ウダイさん商売上博識でしょうし………とても話やすいし………」
「…………私には兄弟いないけど、色々教えてくれそうで………お兄さんがピッタリだと思って……。」
(恐れ多いよっ!)
英雄探しのほうがよっぽど簡単だと、ウダイは固まった。だがレーネを見てみると小さくなり、不安そうに自分を見上げている。
(レーネ様のためには何でもするんだろっ!俺は!正念場だ!)
ウダイは明るい声に聞こえるように努めた。
「レーネ様、お兄さんとは具体的に………レーネ様はお兄さんと何をしたいとお思いですか?」
「その、もし面倒でなければ、旅先から手紙が欲しい……です。行く先々の知らない風景を教えてほしいのです。私も返事を出します。そして、ゼーブに来たときには声をかけてほしい。一緒にご飯が食べたいです…………あのっ、商人のお仲間に『勇者の兄貴分』になったって言えます!商売で使えませんか?」
…………ああ、なんて小さくかわいらしい『お願い』なんだとウダイは泣きたくなった。
(文通と、デートだけなのか?勇者の望みとは?どうなってんだよ…………)
ウダイは腹をくくった。
「レーネ様。」
「はい…………」
「レーネ様はどんなお菓子がお好きですか?」
「え………特に思い浮かばないわ…………」
「では行く先々で、その土地一番のお菓子と手紙を送りますね。ゼーブではレストランだけでなく、あちこち観光しましょうか?」
「……………観光はまだしてないわ……」
「では、あちこち巡りましょうね。私は新しいことやビックリすることが大好きなんです。レーネ様と一緒ならきっとますます楽しい!」
「……さすが商人、好奇心の塊ですね。」
「レーネ様にも商売のイロハを学んでもらいますよ。私は身内には厳しいですよ!覚悟してください!!」
ウダイはにっこり笑ってレーネの頭を優しく撫でた。内心ヒヤヒヤした。
レーネは顔をあげ、ぱあぁっと目を輝かせた!
「おにいちゃんっっ!!!」
レーネの笑顔は破壊力抜群で、ウダイは目を見張った。
(ああ、憂いのないレーネ様はこんなに美しいのか………)
レーネを再びヨシヨシしながら、俺の人生の最優先の事項はレーネを甘やかすことだ、と決意した。
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