数学の美しさを信頼して問題を解く
時たま、数字の感覚を身につけよう!といったテーマの本を見かけます。
それらはたいてい、加減乗除などの簡単な計算自体を速くするものや、数の概算についてのもの、もしくはビジネス的にどの数字に着目すればよいかという指南のものです。
ここでは、いわば上のような"算数的"な話ではなく、"数学的"(と言ってよいかは怪しいかもしれないですが)なレベルでの、とある感覚の話を書いてみたいと思います。
例えば、次のような問題を題材にしてみましょう。
☆問題:長さが28cmのヒモがある。このヒモで長方形を作る場合、長方形の面積の最大値はいくらか。
一般的な回答はこうになります(今回の内容の本質には関係ないので、面倒な方は次の【】の部分は読み飛ばして下さってかまいません)。
解答:【作る長方形の縦をx cmとすると、横は(14-x)cmになる(縦二つ分、横二つ分を足すと28cmになる)。
このときの長方形の面積は x × (14-x)= 14x - x^2 になる(x^2はxの2乗を表しています)。
これを平方完成させると、
14x - x^2 = -(7-x)^2 + 49
となる。
(7-x)^2 の最小値は0(x = 7としたとき(問題文から、x=7と出来ることを確認しながら))なので、
この式全体の最大値は49となる。
※(7-x)^2にマイナスがついているから、最小と最大が逆になることに注意
よって、長方形の面積の最大値は、49cm^2 である(縦7cm横7cmとしたとき)。】
以上が、いわば数学的な解答になると思います。
多分、高校1年生くらいで上のような解法を学ぶのではないでしょうか。
ただ、この問題を、この記事のタイトルの通り“数学の美しさを信頼して”考えてみましょう。
ここでいう“数学の美しさを信頼して”というのは、
『シンプルな問題にはシンプルな答えがついているだろうという見通しを持って』
くらいだと思って下さってかまいません。
この問題について言うと、この解答の候補は『縦の長さと横の長さを足したら14になる長方形』全部です。
その中で(正解であるかどうかを無視して)最も美しい答えは
『縦と横を同じにしたときの面積』か、『縦か横の片方を出来るだけ大きく、もう片方を出来るだけ小さくしたときの面積』の二つです。
"最も美しい答え"は、"もっとも極端な答え"と言い換えられるかもしれません。
もう少し詳しく説明します。例えば『縦を6cm、横を8cm』が答えだとしたら、
『なぜ5.99cmと8.01cmや5cmと9cmではダメなのか?』『6と8に込められた意味は?』となる訳です。
数学の底には美しい真理があり、それは必ず問題に反映されるだろうから、
美しさ(=意味と言ってもいいかもしれません)を説明できないものが答えにはなりえない、
という発想です。
この発想から考えると、
『縦と横を同じにした』
『片方を出来る限り最大にした』
といった風に美しさ(持つ意味)を説明できる、上の二つの候補に絞られるわけです。
もちろん後者の方に関しては、面積が14 × 0 = 0となってしまいますので、明らかに答えではありませんね。
よって、前者が答えかなぁと見当が付くわけです(あくまで見当であることに注意)。
ただ、これは問題がかなりシンプルな場合に限られます。
条件の中に数字がいっぱい出てきたり、簡単な計算式で求められない場合にも、
もちろん答えには数学的な美しさ(意味)があるのですが、それを予想するのは非常に難しいです。
難しいというか、意味のある回答を予想できる時点で普通に解けるのでは、という感じですね。
しかし、シンプルな場合でも、数学的に説明するのが割と面倒な場合もあります。
もう一つ例を挙げて、“数学の美しさを信頼する”ことで直感的に考えることの有効性を考えてみたいと思います。
☆問題:家から学校までを、同じ道で行って帰る(=往復する)。
そのとき、
A:『行き帰り共に時速6kmで歩いて往復する』
のと、
B:『行きは急いで時速8km、帰りはゆっくり時速4kmで往復する』
のでは、どちらが時間がかからないか?
この問題を“数学の美しさを信頼して”考えてみると、次のようになります。
A案とB案の共通点は、
『どちらも行きの時速の値と帰りの時速の値を足したら12になること』
である。
また、Aの時速配分は、12を2つに振り分けるとすれば、最もバランスが良い。
“AよりBの方が時間がかからない”と仮定すると、
合計が12で、よりバランスが良い状態から離れた、『行きは時速9km、帰りは時速3km』の方が
Bよりもさらに時間がかからないはずである。
しかしその考えでいくと、最もバランスを崩した『行きは時速12km、帰りは時速0km』が
最も時間がかからないということになる。
しかし帰りが時速0kmなら、帰りにかかる時間は無限になる(=帰れない)から、
合計時間も無限になってしまう。
よって、“AよりBの方が時間がかからない”という仮定が間違っていたということになる。
つまり、“Aの方が時間がかからない”。
数式が一切出てこないですが、上のような解答になります(そしてある程度説得力を持つ解答になっていると思います)。
ちなみに、この問題を数学的にきちんと解くのは意外とややこしいです。
家から学校までの距離が指定されていないこと、時間と速さと距離の関係が苦手な人が多いことから、
正当率は問題のシンプルさの割に低くなると思います。
ただこの解き方をするには、AもBも『往復の値の合計が12であること』を見抜かなければなりません。
ある程度この解き方に慣れれば簡単に出来ると思いますが、初めは少しとまどうかもしれません。
もちろんテストで上の問題が出たときには普通に、数式を使って解かなければならないのですが、
より直感的な考え方として、この記事で紹介した考え方が存在する、くらいに思って頂ければ嬉しいです。
せっかくなのでもう一つくらい、例を挙げましょう。より身近な例にします。
☆問題:消費税が8%というのに不満を持っている客が多いため、消費税分還元セールとして商品を8%引きで売っている店がある。
この場合、この店の商品の値段は元の税抜き価格より高いか安いか?(商品の税抜き価格に8%の消費税を付けてから、8%引きを行っていることとする)
この問題も、“数学の美しさを信頼して”考えてみましょう。
この問題をより一般的に言えば、
『ある値段に△%上乗せして、そのあと△%引いたらもとの値段より高くなるか安くなるか(もしくは同じか)』
という形になる(つまり、8という数字は本質に関わらないだろう、ということ)。
(これはつまり、
『8%付けて8%引いた場合が高くなっているなら、8%のところを両方とも2%に変えても40%に変えても高くなっているでしょう』
という考え方です)
この考え方でいくと、
『8%付けて8%引いた場合もとの値段より高いか低いか』
と
『100%付けて100%引いた場合もとの値段より高いか低いか』(=最も極端な場合)
は同じ答えになるはず。
ただ、100%付けたあとに100%引くと、(100%引くとどんな値段も0になるので)、
もとの値段より安くなります。
よって、8%付けて8%引いた場合も、もとの値段より安くなるだろうと推測できる。
以上のような考え方となります。
この問題では、『8%付けて8%引くとどうなるか』という問題を、
より一般的な(n>0として)『n%付けてn%引くとどうなるか』という問題にあえて広げてしまった上で、
直感的に解いていると言えます。
始めの2問も、実はこれと同じように、“より一般的にしてから、直感的に解いている”と言えるでしょう。
“数学の美しさ”というのは一般性と非常に関係しているので、このようになります。
表現力がないため、上手く伝わるか分かりませんが、
質問や意見があれば、コメント頂けると嬉しいです。
中学、高校の数学については思うことがたくさんあるので、また書けたらなぁと思っています。
以上です。