プロローグ
あの日は日曜で。
たまたま部活が長引いた。
今日は家族で出かける約束をしてたから急いで帰った。
「ただいま〜!父さん、今日どこ行くことにした〜?」
返事がない。
リビングに入る。
「えっ…」
そこには、血を流しながら倒れている母さんと血の付いた包丁。
母さんに駆け寄る。
「母さん?ねぇ、母さんってば!母さん!」
ふと顔を上げる。
そこには父さんがいた。
「とう…さん?」
父さんがこっちを向く。
「ああ、蓮、おかえり」
悪寒がする。
「父さん、母さんが!」
どこかで蝉が鳴いている。
「大丈夫、警察はもう呼んだから…」
「救急車は!早く呼ばなきゃ…」
携帯を取り出そうとした手を父さんに掴まれる。
正面から父さんを見る。
「と、父さん…その血…母さんの…」
携帯が落ちる音がした。
「ああ、母さんの…母さんの血だよ」
冷えていく。
体がどんどん冷えていく。
「あと、救急車は必要ないよ。母さんはもう、死んでいるから」
父さんの顔を見る。
「で、でも…まだわかんな…」
父さんの顔は、いつもと変わらず優しげで。でも、いままで見た中で一番…一番怖かった。
「さっき確認したから。死んでる」
俺は、ほぼ確信しながら、それでも僅かな希望を信じながら、父さんに問う。
「だれがこんなこと…」
父さんが笑顔を作る。
悪寒が止まらない。
「父さんだよ。ごめんな、蓮」
近くで、パトカーの音がした。




